35.学校祭トーナメント1
そして、学校祭の日が来る。
校内には訓練場が有るが、そこはコロッセウムのようになっていた。
観客と試合会場の間には魔法による防壁があり、観客への影響はないようになっていた。
まあ、魔法の暴発なんかで観客が巻き込まれたら目も当てられない。
まずは剣術の試合が始まる。
複数に参加する者も考えられており、剣術、魔術、複合の順番になっていた。
試合会場の横で、俺とカミラ、レオナが居る。
「残ったのって全員四年生でしょ?
勝てるの?」
レオナが心配そうにしていた。
「レオナさん?
ケイン様は大丈夫です。
鬼神であるお父様に剣技が勝ります。
安心してください。
それでも油断はしてはいけませんが……」
「そのつもりで頑張るよ」
最初の相手はフィリップ王子のお付き。
素早い動きで翻弄して片手剣で攻撃するタイプらしい。
「私よりは遅いですけどね」
ドヤ顔でカミラが言っていた。
「始め」の声で俺の隙を窺うお付き。
カミラの言う通り、速いけどまあ……だよな。
様子を見て右手首を狙うと、お付きは剣を落とす。
そして、審判から「それまで」の声。
勝利を手にしてカミラとレオナの下に戻った。
「凄い、カミラさんの言う通り」
「でしょう?
ケイン様は強いのです」
続いて魔法戦トーナメント一回戦。
ラインが勝ち上がれば最終戦に当たる。
「今度は?」
レオナがカミラに聞く。
「発動は早い方ですが、精度が低い。
まあ、ケイン様の敵ではありません」
「カミラ、いろいろと調べているんだな。
まさか、隠れて学校内をウロウロしていなかっただろうな?
昔取った杵柄とか言って……」
カミラがギクリとわかりやすく反応した。
「少しでも不安要素を除去しておこうと思いまして……」
「ありがとな。
俺を心配してくれたんだろ?」
カミラの頭を撫でると、カミラは気持よさそうな目をした。
「それ羨ましい。
私だって飲み物の準備をしているのに」
「はいはい」
そう言ってレオナの頭を撫でると、
「『はいはい』は余計。
でも、まあいいわ」
笑って言った。
複合戦も難なく突破。
二対一で勝利したことは少なかったのか、盛り上がった。
このあとの準決勝でリズ、ライン組に当たることになる。
剣術、魔術の準決勝を危なげなく勝ち、複合戦の準決勝。
王様と王妃様が見に来ていた。
リズが戦いの舞台に上がると、周囲から歓声が上がる。
リズとラインは観客に手を振っていた。
俺にはカミラとレオナの声。
まあ、二人居るだけマシか。
「舐めているのかー!」
「一人で何ができる!」
など、ヤジが飛ぶ。
美少女二人に大柄の少年。
俺が演じるならヒール役だろうな。
種を明かしていない魔法はある。
やるならあれだろう。
だが、やらせてくれるかな?
「始め」の声で俺の周りに土煙が上がった。
目くらましなのだろう。
周りからは俺の位置がわかるが、
俺は周りの様子がわからないってことらしい。
俺は気配感知を使って周囲を見た。
俺の死角からリズが近寄る。
ラインは近寄っていない。
魔法の準備をしているのかな?
俺はリズ側の床を滑りやすくした。
できるだけ摩擦を小さくする。
ライン側にシールドの魔法を展開して待機する。
土煙が消える前に、リズとラインが動く。
リズが足を滑らせて倒れる音を確認すると、摩擦をなくす魔法を解除しリズのほうへ向かう。
不意に倒れたのか体が起こせていない。
俺は素早く近寄って、リズの肩にに剣を置いた。
一人撃破である。
唖然とするラインが俺に向かって風の魔法を使う。
視認できない分避け辛いと考えたのだろう。
シールドの裏にまわると風が消えた。
今度はシールド越しに魔法を作り、風魔法を使う。
圧縮した空気の弾を飛ばす感じだ。
当たると爆ぜる。
シールドの裏からの魔法はないと考えていたのだろう。
曲がって飛んできた魔法に当たり、吹き飛んだ。
体勢を立て直す前に俺は近づいて剣を肩に置いた。
「それまで!
勝者、ケイン!」
審判の声が響く。
「大丈夫だったか?」
「ちょっとびっくりした。
シールドの裏から魔法が飛んでくるんだもん」
手を抜いてくれていたんでしょ?
痣もできていない」
「そりゃ、女性の柔肌に痣を作る気は無いよ」
「私は?」
「おお悪い悪い」
リズのほうへ行くとリズを引き起こした。
「滑ってこけるなんて間抜け」
「ああ、滑るようにしていたからな」
「あれも魔法?」
「そう、摩擦って奴を小さくして滑りやすくしていたんだ。
かけられたリズが気付かないんだったら、リズがたまたまコケて俺はたまたま勝ったってことになるんだろうな」
それはそれでいいと思う。
舞台から降りる俺の背に、
「運良く勝ちやがって!」
と言う声が聞こえた。
レオナが、
「やった」
と抱き付いてきた。
「それはズルい」
「私もそう思います」
俺の後から舞台を降りたラインとリズが怒りながら近寄ってきた。
「私たちだって、地位が無ければ抱き付くのに……」
「お二人にレオナ様……」
カミラが二人に近寄り、話をする。
「「「うん、うん、うんうん」」」
「それいい」
「学校祭だもんね」
「楽しみ」
女性陣は納得したらしい。
怒らないのならまあいっか。
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