30.パジャマパーティー
メイドさんからの連絡があり、
女性陣が風呂を出て寝室に入ったたしい。
空いた風呂に俺も入る。
「おお、広い。
ちょっとした公衆浴場だ。
毎日掃除したり、湯を張ったり大変だろうに……」
縁に頭をかけ大の字になって体を浮かせる。
んー、体がデカくなったなぁ。
息子も前の世界越えか……。
小さいよりは大きいほうがいいのだろうが……たまにおさまりが悪くて困る時がある。
くだらない事を考えながら、体を洗いさっぱりすると風呂を出た。
風呂を出るとメイドさんが待機しており、
「お部屋は此方になります」
と言って俺を連れて行く。
扉の前に立つと、
「きゃはは!」
「私も……」
「何それェ!」
「お三方!」
と、聞いたことのある声。
「えーっと、同じ部屋じゃないよね」
「はい、決して同じ部屋ではございません」
いかん、ルンデルトラップしか考えられん。
扉を開け中に入るとツインのベッドがある部屋だった。
それ以外に何も無い。
俺は中に入り、ベッドに横になった。
隣からは女性陣の声。
「わざわざ壁隔てただけってのは無いだろう……うるさいな」
結局ベッドから出てトイレを捜した。
無意識に近くにあった扉を開ける。
「カチャリ」
隣に居た四人がなぜかほぼ全裸で居た。
目が合うが、何のリアクションもせずに閉め、ロックの魔法を使う。
おし、鍵がかかったな。
「さーて、トイレに行って寝るかぁ」
何も無かったようにトイレにこもっていると、
「ドンドンドンドンドン……」
「あけろー!覗き魔ぁ!」
ラインの声だ。
「私の体を見て反応なしなのですか?」
リズの声。
酒を飲んでいるから強気?
「私は貰ってもらうからいいや」
さらに強気なレオナが居た。
ロックは解除しない俺。
「ふう、スッキリ」
トイレを終え外に出ると、ちゃんと寝間着を着た四人が部屋の中に居た。
なぜ?
部屋の入口の扉が開いている。
失敗だ、テヘ。
「えーっと、何?」
俺が聞くと、
「裸を見られました。
あなた以外にお嫁にいけません」
との事。
「えーっと、見てない見てない。
顔しか見なかったし。
それに俺カミラの胸ほうが……」
三人の後ろに炎が上がるのが見えたような気がした。
「私だって、数年もすれば」
「お母さまは大きいのです。
私もそうなるはずです」
「わたしは……わからない」
「私は旦那様の絞った牛乳を毎日飲んでから育ちました」
カミラが言った一言にレオナの炎が大きくなる。
しばらくして裁判が始まった。
なぜか正座のルンデルさん。
「お父様、ホルスの乳を飲めば胸が大きくなると聞いていたのですか?」
「ああ、聞いていた」
「なぜ、私に言ってくださらなかったのですか?」
と詰め寄るレオナ。
「レオナには早いかと思ってな。
カミラ様ぐらいならわかるが……」
ピシリと緊張感が走る。
レオナの背後に鬼の姿が見えた。
「女性は胸ではないとはいえ、胸を気にもするのです。
それも早めに対処しておかなければ……成長が終わってからでは遅いのです。
ですから、毎日私の食事に牛乳を付けてください」
「わかった」
渋々了承するルンデルさんだった。
そして、当然のごとくリズとラインにも牛乳が配達されるようになった。
余談だが、このあと、王宮の方から口コミで牛乳が豊胸剤として認知されるようになり、ルンデルさんの懐に大金が転がり込むようになる。
俺も分け前をいただきました。
「さて、終わったな。
皆寝るぞ」
知らない振りをして、終わった感を漂わせながら俺は布団に入ろうとした。
カミラも便乗して俺の隣のベッドに入る。
「さーて、私たちも寝ようか……っておい!私の裸は?」
ラインの見事なノリ突っ込みが俺の背中に炸裂する。
「だって、半分以上はあの人のせいだぞ?」
俺はルンデルさんを売る。
「それでも見たのはケインさんです」
リズが怒る。
「カミラ並みになってから言ってください」
俺が言うと、
「「うう……」」
と何も言えなくなったようだ。
「頑張れ少女たち」
そう言うと目を瞑った。
「でしたら、私たちがケインと一緒に寝ても何も感じないということですね」
「おっ、そういうことか……」
「いいね」
三人組の反撃か。
酔っているからとはいえ大胆だな。
モゾモゾと俺の周りに入ってくる。
俺は布団を出ると、
「んー、俺帰る。
このままリズやラインと一緒に寝ると、バレた時に問題が出る」
「なぜ?」
リズが聞いてきた。
「考えてもみろ、王様、王妃様、王子様、ラインの両親、その部下、全部ひっくるめて影響が出るんだぞ?」
この件多いな。
「あのな、二人は良いと言っても、現実的に周りの者がリズやラインに今の俺がふさわしいと思ってくれると思うか?
レオナはルンデルさんが俺の事を知っているから許してくれているだけだ。
鬼神、魔女の息子とはいえ、結局いいとこ見せて出世しないとリズやラインは貰えないだろう」
いきなり現実的な事を言ってしまった。
「その努力を私たちのためにしていただけると?」
俺を覗き込むように見てリズが言う。
正直リズもラインも嫌いではない。
できるかどうかわからないが、頑張るのは有りだと思う。
だが、
「んー、リズのためにはしない。
俺が二人を欲しいからする。
そこははっきりしておかないと……。
そうじゃないと二人に失礼だからね」
ちょっとした違いだが、意味は全然違うと思う。
「わかりました。
私もあなたと婚約するためにフォローします」
「わたしだって、フォローする」
リズもラインも納得してくれたようだ。
「それじゃ、婚約していない三人は向こうの部屋で」
と俺が言うと、
「えっ、私はお父様もいいって言ってるし」
とレオナは反論する。
「ケインは言ったわよ『婚約していない三人』って」
ラインが言うと、
「そうね、『三人』って言いました」
リズも頷く。
「だってーーー!
良いって言ってるのにぃーーー」
ラインとリズに引きずられ、レオナは隣の部屋に戻るのだった。
部屋が急に静かになる。
「私に初めて友達というものができました。
ケインのお陰です。
私はあの三人とならやって行けるような気がします」
カミラが嬉しそうに言う。
「良かったな。
皆といろいろ話せばいいと思うよ」
俺は照明を消すと、カミラと二人で寝るのだった。
朝、少し早めに起きて調理場へ向かう。
俺が着替えているうちに、カミラも起きて後ろから付いてくる。
リズとラインが食べたことが無いであろうプレーンオムレツを朝食に出した。
「これが、卵」
「フワフワ」
リズとラインが驚いていた。
こうして模擬店の打ち上げが終わる。
見送る俺とカミラ、レオナ、ルンデルさん。
リズとラインは馬車に揺られて帰っていった。
「ケイン、どうするの」
レオナが聞いてきた。
「そうだねぇ、GクラスでAクラスの最上級生筆頭に勝てば目立つかなあ」
「王子を倒すってこと?」
「まあ、そういうこと」
すると、
「旦那様、手抜きはやめなければいけませんね」
カミラ笑いながらが言った。
「そうだなぁ、俺は目立たないようにわざと手を抜いてGクラスに入ったのに、結局目立つ必要が出てきてしまったようだ。
言ったからには約束を守らないとね」
俺がそう言うと、
「えっ、手抜き?」
とレオナが驚いていた。
「そうですよ。旦那様は既に鬼神も魔女も超えています。
そして、この王都の近隣の森で発生したオークの群れを単独討伐しております」
「あっ、お父様を助けた時!」
「レオナ、私は報告をしていないが、ケイン様はその際に群れの長であるオークキングも討伐している」
レオナは再び驚いた眼で俺を見上げた。
「さて、俺もそろそろ帰るよ。
お泊りなんて初めてで楽しかった。
ルンデルさんの罠が無ければもっと楽しめたかな?」
「それは申し訳ありませんでした。
しかし、レオナを含めお二方は楽しめたみたいですね。
ケイン様がいろいろとはっきりおっしゃったと嬉しそうにしていました」
したり顔のルンデルさん。
「カミラもお疲れさんだな」
「私は友達が出来たから楽しかった」
と笑う。
ルンデルさんが、
「ケイン様、私はレオナが好きなあなたをフォローすることに決めました。
わが家はケイン様の家だと思ってください。
何なら、私のことを『お義父さん』と呼んでも……」
と言ってきたが、
「それは早い」
食い気味に否定する俺であった。
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