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24.カルオミガ

 アベイユの蜜が軌道に乗ったころ。

 ルンデルさんの家の馬車が俺の家に来る。


 今日は来る予定じゃなかったんだがなぁ。


 バタンと馬車の扉が開くと、

「大変です、カルオミガが巣を作りました」

 と言って、ルンデルさんがドタドタと走りながら家に来た。

「カルオミガって?」

「はい、花の蜜から白い砂糖を作り出す能力があり、倉庫アリというアリが腹の中にその白い砂糖を溜めるという習性があります。

 また兵隊アリは強く、多くの冒険者が命を落としています。

 討伐ができれば砂糖を得られますが、数が多く討伐が難しいためギルドで受けてくれる冒険者も少ないのです」

「私に討伐しろと?」

「そういう訳ではありませんが、できれば知恵を貸していただこうかと」

 元気のないルンデルさんの揉み手。


 養蜂のようにできないかね?

 共生できれば、定期的に砂糖が手に入る。


「それこそアベイユのように飼ってみればどうですか?」

 俺は提案してみた。

「えっ?」

 ルンデルさんは俺を見て固まった。


 カルオミガは魔物。

 飼うことなど考えていなかったようだ。

 しかし、アベイユでさえ共生することは可能なのだから、カルオミガでもできるはずだ。


「アベイユのように条件を出して砂糖を分けてもらう。

 白い砂糖は高価なのでしょう?

 だったらやってみる価値はあるかと思いますが。

 プリンやケーキに使っている砂糖は確か購入品でしたよね。

 それが自給になれば、利益率が上がりますよ?」

 少し考えると、

「その交渉をやってもらえますか?」

 探るようにルンデルさんが聞いてきた。

「まあ、言った手前、私が対応しましょう」

 そう俺が言うと、ルンデルさんは

「はい、よろしくお願いします」

 と言って喜んだ。


 早速場所を聞き、カミラとともにカルオミガの巣を目指す。

「カルオミガとは珍しいな」

「そうなの?」

「旦那様は知らないのか?

 地下に大きな巣を作り大軍を養う。

 ルンデルさんが植えた花が咲き始めたことで、その蜜を得ようと働きアリたちが来たのかもしれないな」


 大軍ねぇ。


 そして巣の近くまで来ると、ポツンポツンと気配感知に魔物がかかる。


 これがカルオミガの魔力か。

 にしても、あまり多くないぞ?


「旦那様、思ったよりも数が少ないですね」

 カミラも気付いたようだ。

「そうだな、何か事情があるのかもしれないな」

 そう言いながらも近づくと、五十センチはあろうかというアリが現れた。

 頭の大きさがその半分近くあり、カチカチと大あごを鳴らして威嚇する。

 これが兵隊アリ……。

「お前も、顎を鳴らして話せるか?

 俺たちは話し合いに来た」

 すると、兵隊アリの大あごが動き、

「付いてこい」

 と返事が聞こえた。


 おっと、返事をした。アベイユのように話せるようだ。


 俺とカミラが兵隊アリに付いて行くと、周りに更に二匹の兵隊アリが現れ、俺たちを囲んだ。


 ふむ、他にはこの兵隊アリの気配は無いな。

 これがこのカルオミガたちの最大戦力という訳か。


 高さ一メートルぐらいの穴がありその中に俺たちは入る。

 すると一番奥に胸までが五十センチ、腹がさらに五十センチという巨大なアリが居た。


 見たまんま女王アリなのだろう。

 周囲には五センチほどの卵が数多く転がっていた。

 働きアリたちが世話をしている。


「お前たちが私に話があるとこの者に聞いた」

 兵隊アリを見ながら女王アリが言った。

「ええ、交渉に来ました。

 あなた達の保護とあなた達へ蜜を出す植物を提供する。

 その代わりに出来上がった砂糖の一部を分けてもらいたいと思いまして」

 俺の申し出など考えても居なかったのか、

「なぜ我々がそんなことを?」

 と驚く。

 周囲の兵隊アリもお互いに顔を見合わせていた。

「考えてもみてください、あなたたちは我々にとって魔物という敵です。

 でも約束を守り、我々にとって良い魔物だとわかればあなた達は仲間です。

 我々と戦うよりも共存したほうがいいのではないでしょうか?

 見たところあまり仲間もいない様子。

 巣を大きくするための取引でどうでしょう」

「しかし我々は何を提供すればいい?」

 女王アリが言った。

「こちらとしては、先ほども言いました通り、そちらが困らない程度の砂糖をもらいたいと思います」

 女王アリは顎に甲殻質な手を添えると、

「私は女王になって日が浅い。

 私たちを攻撃しないというのはありがたい。

 しかし、私たちは今から働きアリを増やし、蜜から砂糖を生成し、倉庫アリに蓄える時間が要る。

 もし砂糖を提供できるようになるとしても冬を越し春になるが……それでいいのなら」

 と言ってきた。

 

 それでいいと思う。

 

「私はあなた達と戦って砂糖をもらう気はありません。

 ですから、あなた達に余裕ができたらでいいです。

 来年でも再来年でも待ちましょう。

 ただし、あの花畑にはアベイユも居ます。

 私からも村人とアベイユたちに『カルオミガに手を出すな』と言っておきますが、そちらも働きアリと兵隊アリに『村人とアベイユに手を出さない』ように言っておいてもらいたい」

「私たちには村人とそうでないものは判断できないが?」

「大丈夫です、襲ってきた者は村人ではありません。

 遠慮せずに戦ってください」

「承った」

 と女王アリが言うのだった。


「というわけで、砂糖を得られるのは来年以降です。

 ただ、巣が大きくなれば得られる砂糖も増えます。

 しばらくは静観でいいんじゃないでしょうか?」

 そうルンデルさんに言うと、

「そうですね、砂糖は今まで通りで行きます。

 カルオミガの巣の周辺にはアベイユのためにも時期をずらして花の種をまくようにしますね」

「そのほうが、砂糖を得るまでの時期が短くなりそうです。

 ああ、決してカルオミガを攻撃しないように……殺されますから。

 ラムル村に委託するならば、そこはちゃんと言っておいてください」

「わかりました。早急に連絡しておきます」

 こうしてカルオミガがラムル村で飼われることになる。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] もしも村人1が暴走した場合 って思ったけど 貴族や街の有力者に頼まれた 依頼ならそんな事態には ならないか。 賊扱いでチョンだものね。
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