3‐前.逃走
なんで私がこんな目に……。
ただ冒険者として生活していただけなのに……。
「公爵も物好きだよな。
なんでわざわざ魔物なんかに。
まあ、中にはこんな美人も居るみたいだが」
私を下卑た目で見る男たち。
裸にされ、後ろ手に縛られる何かわからないような服を着させられた。
「要は金持ちの道楽だろ?
王都の高級な売春女は全部制覇した。
だから滅多に手に入らないような女を蹂躙したいんじゃないのか?
こいつだけでも大金貨何枚使っているのやら」
「そうなのか?」
「そりゃそうだろう?
神祖なんて簡単に見つからんだろう?」
「でもこいつ神祖だろ?
それでも血を吸われたらおしまいだろうに……」
「だから奴隷にして公爵に逆らえないようにしてある訳だ。
魔力を枯渇させて、血に飢えさせる。
血がないと生きていけない魔物は辛いらしいな。
前のラミアなんて血を吸わせてくれと土下座したらしいぞ?」
「『ああ、後でな』。
なんて言った後、味わうだけ味わって殺したって聞いたが?」
「そりゃそうだ、あの公爵が自分と魔物のハーフなんて許すはずがない」
あっ、さっき「公爵に逆らえない」って言ってなかったか?
確かに、目通りの時に侯爵に言われた通り服を脱ぎ全身を晒した。
言葉には逆らえなかった。
まさか……。
私は男たちの隙を突き、首筋に噛みついた。
温かい血がのどを潤す。
しかし、この男の魔力は少ない。
一時の力にしかならないだろう。
バンパイア化したこの男が騒ぎを起こしてくれればいいか……。
もう一人の男が、
「神祖がー!
誰か来てくれー!」
と叫ぶ。
ドタドタと足音が近づいてくるのがわかった。
こいつからも魔力が欲しかったが……。
力づくで服を破ると、男を突き飛ばし部屋を出る。
何?
地下か……。
右に行こうが左に行こうがあまり変わらないみたいだな。
既に抜刀した多くの男たちが現れていた。
持つか?
ほとんどない魔力を使うと、私の指の爪が伸びる。
そして、あの男が居る。
いや、私を待っているはずの場所へ駆けだした。
あの男が私に指示を出し、私が全てを見せた場所。
一、二、三、四、五、六、七……よし、行ける!
最後の一人を切りつけようとしたとき、切りつけてきた剣で爪が折れた。
その勢いのまま私の太ももを切る。
痛みを感じない傷。
深いか……。
それでも私は、あの男が居る部屋に向かう。
扉を開けると、
「お前、なぜ!」
という男。
私は口を塞ぐ。
ただ一撃、この爪が伸びればこの男が殺せるのに……。
机の上には契約書があった。
男を殴りつけ気絶させると契約書を奪い、私は夜の闇に逃げたのだった。
逃走の途中、一軒の家が目に付きそこに向かう。
なぜだかはわからないが、その家の屋根裏に入った。
そして、傷を見る。
「ちぃ、失敗した」
私は小さく呟いた。
ドクドクと出る血。
自分の魔力が減っていくのがわかる。
「何してるの?」
誰だ!
見ると小さな子。
「なぜ……」
こんなところに……と言うつもりだったが、その言葉が出ることは無く、私は意識を失った。
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