22.魔法授業
この授業も俺は出ることになっていた。
無詠唱で魔法が使えることは、学校内に伝わっていたが、使える魔法がショボいと言われていた。
下手に強い魔法など使う気はないのだが。
王女様と共に男性陣のヘイネル、女性陣のソルン、ラインが来ていた。
俺を見つけた王女様が、
「ケインさん。
無詠唱の練習をしているのですが、この前少しだけ炎が出ました」
と、報告をしてきた。
「あとは、その炎が大きく安定するように練習ですね」
「はい、わかりました」
と言うと、嬉しそうに取り巻きの元に戻る。
俺が気軽に話しているのが気に入らないのか三人に睨まれる。
はいはい、お邪魔虫です。
女性の魔法使いの先生が現れた。
チラチラと俺を見る先生。
ん?
「そっそれでは、ココから五十メートル先に十個の的があります。
好きな魔法を的に当ててください。
的は魔法防御されていますから、思いっきり撃っても結構です。
的の塊が三つあります。
好きなところに並んで魔法を使うように」
魔法は剣術のように二人ではなく、的に当てればいいだけなので、相手は要らない。
「はーい」
天真爛漫系のラインが手を上げた。
「えーっと、確か、Gクラスのケイン君が無詠唱で魔法を使えると聞いています。
十個の的にどれだけ早く当てられるか、見せてもらいたいのです」
ギクリとする先生。
ん?
何に怯えている?
「えーっと、けっケイン君、いいですか?」
先生が聞いてきた。
「いいですよ?
にかく早く的に当てればいいんですね」
「全部射抜いてよ」
ラインがハードルを上げる。
「ココから生徒を退避させなくて大丈夫?」
心配そうな先生。
ああ、母さんの関係か……。
「大丈夫です。
そうですね、アイスの魔法で的を射抜いてみますか……」
「アイスの魔法で大丈夫ぅ?
もしかして、それしか使えないとか……」
ラインがうるさい。
鬱陶しいな。
アイスの魔法は水系で最弱の魔法の一つだ。
氷のつぶてが飛ぶだけで、小さな鳥なんかを狙うのに使われる。
「じゃあ、やります」
そう言った後、俺の前に十の氷が浮き飛び出す。
そして的に当たりパーンと弾ける音。
「終わりですね」
見た目にはわからないだろうが、極低温で弾丸の形に凍らせ回転を与える。
そして俺の出しうる最高速で的に当てた。
「えっ……」
「ラインさん、確認をお願いします。
多分全部射抜けていると思いますから」
「はっはい……」
駆け足で的を確認に行くライン。
そして十個の的全てを見終わると戻ってきた。
「射抜いていました。
当たるだけでなく全部貫通です」
信じられないのか、声が小さいライン。
「ご要望通りできて安心しました。
それで私にここまでの注文ができるラインさんならどんな感じになるのですか?」
無茶振りをしてみた。
「えっ、私」
少々意地悪だな。
と思っていたら、
「炎たちよわが前に集え!」
と、手を差し出した。
ファイアーボールが二個浮かぶ。
均等なファイアーボールが浮かばず色も安定しない。
あっ、ダメだわコレ……暴走する。
俺はファイアーボールを水で包んだ。
お椀のように上部だけを開けておく。
爆発音と共に水が飛び散った。
ふう、上手く爆風が上に抜けたみたいだね。
「おーい、大丈夫か?
複数発動なんてしたことなかったんだろ?
慣れないことはするもんじゃないぞぉ」
そう言って、ラインにタオルを渡した。
俺のタオルを持ったまま、俺をじっと見続けるライン。
「おい、大丈夫か?」
一応声をかけておく。
「すまないな、あれしか方法が思いつかなかった。
びしょびしょになっただろ?」
「好き」
俺はいきなりの告白に驚いた。
「へ?」
「こんな子、私の周りで見たことが無い。
十個も複数発動するなんて何?
落ち着いてるしやさしいし……」
「ライン、ケインさんが困っています」
王女様が止めに入った。
「エリザベス様も好きなんでしょう?
こんなタイミング無いですよ、ぶっちゃけましょう」
ラインが煽る。
軽いなこいつ。
「ラインさん、王女様が公衆の面前で言うことで周りの皆に影響が出るのに気付きませんか?
言わせる者として責任は取ってくださいね」
俺はラインに言った。
「えっ、そんなこと……」
考えてなかったのか?
「そうでしょう?
王女様がもし私を好きで、この場所で「好き」と言えば、王、王妃、その周りの人、私や私の家族に影響が出ます。
逆に私を好きですが「嫌い」と言った場合、王女様の心が痛むかもしれません。
ああ、嫌いだから嫌いという可能性もありますね。
今は断定せず学校生活を送る方がいいような気もします。
だから仲が良い友達ではダメですかね?」
俺が話をすることで、冷めた空気が流れた。
これで告白タイムは終わるだろう。
「はいはい。
このように、慣れていない魔法を使い制御から外れると暴走を起こします。
まずは一つ一つの魔法を制御できるようにしてくださいね。
それでは練習を始めてください」
先生がそう言うと授業が始まった。
そして、先生が前に来ると、
「ケイン君、ありがとう。
あのままだとファイアーボールが大爆発だったわ」
「先生は母さんを知ってる?」
俺が聞くと、
「ええ、ミランダ先輩が魔法師団に居た時に私をいじめ……いや、鍛えてくださったの。
手紙がきて『あの子は私以上で、既に広範囲殲滅魔法まで教えてあるから、気をつけてね……テヘ』と書いてあったわ」
「ああ、だからビクビクしていたのか。
馬鹿じゃないんですから、学校で広範囲殲滅魔法なんて使いませんよ」
「それにしてもアイスとはいえ十個も複数発動できるなんて……」
「アイスなら百以上できますよ?
しないだけです」
「ハハハハ」
先生のカラ笑いが響いた。
学校が終わり帰る準備をしているとラインが現れた。
「さっきはごめんなさい」
ペコリとお辞儀。
「ああ、何も無くて良かった」
俺は言った。
「ファイアーボールの事じゃなくて、告白の事」
「それはもう少し後先考えたほうがいいかもね」
「でもね、私はやっぱりあなたが好きになったみたい。
エリザベス様とGクラスに来てもいい?」
上目遣いで聞いてくる。
「君もエリザベス王女様と一緒。
ダメと言っても来るんだろ?」
「正解!」
「好きにすればいい」
「やた!
じゃあ、私エリザベス様のところに戻るね」
ラインが去っていった。
その夜、カミラに学校であったことを報告すると。
「旦那様、強いオスがメスを従えるのは正しい事。
実際に、貴族は一夫多妻。
だから、お互いに好きになったら、一緒になればいいと思います」
「でも、独り占めしたくないか?」
「独り占めしたいです。
でも、その娘がご主人様の妻を望むかどうかもわかりません。」
カミラは笑っていた。
「そうだな、タダの自意識過剰か」
「あなたはまだ十二歳ですから。
若い時代を楽しめばいいのです」
そう言うと、カミラが抱きしめてきた。
「でも、もう旦那様のほうが大きくなってしまいましたね」
「小さいほうが良かったか?」
「いいえ、今のほうが包まれている感じでいいです」
二人で布団に入って寝るのだった。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字が多いようで申し訳あり合せん。
修正していただき助かっております。