21'敗北
今日は初の剣術授業。
ケインさんはいらっしゃるかしら?
私はケインさんを捜した。
あっ、居た。
私はケインさんに手を振った。
気付いたはずなのにケインさんは知らない振りをする。
少し寂しい……。
授業が始まり、先生である騎士から、
「えーっと、適当に二人組を作ってください」
と言う声。
ケインさんは一人、相手を探しているけど誰も居ない。
だったら私が!
私はケインさんの所に行くと、
「ケインさん。組みましょう」
と声をかけてみた。
ちょっと苦い顔をすると、
「あのー、どうして?」
何故か不思議そうにケインさんは私を見る。
「私はお母さまが良いと言った殿方としか組むことができません。
ヘイネルはAクラスでBクラスのローグとは仲がいいので別の人と組ませるのはかわいそうでしょう?
ですから、私とケインさんが組むのが正解なのです」
私は二人の関係を教えた。
ああ、仲がいいだけで、男同士とかじゃないんです。
何故かヘイネルとローグが私の所に走ってくる。
しかし、先生は周りを見て、
「はい、決まったな。
それじゃ、剣を持って打ち合って」
と言った。
なぜか、渋々?
違うの?
仕方なさそうにヘイネルとローグの二人は木剣を合わせ始めた。
「ケインさんは本当に剣術ができないのですか?」
私は聞いた。
立ち姿はどっしりとしているし、剣を振るう姿も様になっているというのに……。
「入学の判定では程々ですね。
でも何をしてもいいのなら勝てますよ?
私は魔法も使えますからね」
と言ってケインさんは笑った。
本当に私より強いのかしら?
「私はそんな戦い相手を知りませんからそれでお願いします。
これでも指南役からは筋が良いと言われているんです」
ケインさんに頼むと、
「それでは……始めますね」
と言った。
するとすぐ、私の周りだけに霧が立ち周りが見えなくなる。
「えっ、見えない」
すると、手に軽く木剣が当たる感じがした。
「はい、終わりです。
戦いでしたら手首から先はありません」
ニッと笑うケインさん。
本当に私が負けた。
ヘイネルにもローグにも負けたことが無いのに……。
「強い」
私の口から自然とこの言葉が出た。
すると、
「強いというよりズルいというのが正しいでしょうねえ」
そう言ってはケインさんは頬を掻く。
その顔は苦笑い。
いくら強い魔法を持っていても、使えなければ意味が無いと思う。
簡単な魔法で最高の成果を出せるならそれで良いのでは?
「でも、簡単に私に勝った」
私は本当に驚いていた。
「お前がエリザベス様に勝つなど許せん」
ヘイネルがケインさんに大きな声で言う。
喧嘩になりそう……止めないと!
「いいのです、私が頼んだのですから」
私は言いました、
しかし、
「いいえ、本来であれば組むのは私だったはず」
ヘイネルがわけのわからない事を言う。
そんなことは決まっていないわ。
ヘイネルとローグの仲がいいから、一緒に剣術授業をしてもらおうと思ったのに……。
「ヘイネル様あなたが遅かっただけでしょう?
まさか、エリザベス王女様があなたと必ず組むとか思っていたんじゃないでしょうね?」
とケインさんが言うとなぜかヘイネルが真っ赤になる。
「ばっ馬鹿を言うな」
ヘイネルは焦ったようにケインさんに言った。
「相手はエリザベス王女様が自由に選ぶ」
「だったら、問題ないじゃないですか」
「いいや、違うんだ。
私もローグもエリザベス様には勝ったことがない」
そう、私はヘイネルにもローグにも勝ってしまう。
二人相手でも勝つことがある。
「でも、あなたたちは本気で戦ってないからでは?」
ケインさんの言葉に、
「そうなのですか?」
私は驚いてヘイネルに聞いてしまった。
それだと私は手を抜かれて勝っていたことになる。
しかし、
「いいえ、私たちは本気で戦いました、それでも負けた。
だから、余計にこの男が勝つのが信じられん。
魔法も剣も両方使えば王女様のほうが強いはずだ」
と言う。
するとケインさんは、
「ああ、そういう事か」
ケインさんは何かに納得して頷いた。
俺だけ魔法を使っていたから勝ったのは無効って事ですね?」
と聞く。
頷くヘイネル。
「じゃあ、王女様、魔法も剣も思いっきり使ってください。
私は程々の魔法と程々の剣で戦います」
ケインさんは私に言った。
「いいのですか?」
やた!
もう一度ケインさんと戦える。
私は笑っていたと思う。
「いいですよ?
王城ではあまり楽しめていないようだ」
そうケインさんは言って私に来るように誘った。
「それでは行きます」
私は最高速でケインさんに向かっていくのだった。
ケインさんは私の剣をギリギリで避ける。
次は魔法で!
私は少し離れると、
「炎たちよわが手に集え!
ファイアーボール!」
と呪文を唱え、火球を打ち出した。
ケインさんは手を出し何も言わずに水の膜を作る。
すると、ジュっという音がして火球が消えた。
えっ?
私は驚く。
次の瞬間には私の口が水でふさがれた。
もうこれしかない!
魔法が使えないのですから。
私はケインさんに向かって走った。
もうちょっとで!
剣を振り上げようと足を踏ん張った時に
ヌルッと言う感覚と共に足が沈む。
そしてそのまま倒れ込んだ。
コツンと軽く肩に木剣が当たる。
「はい、終わり」
ケインさんは私の口の周りの水分を除いた。
周囲は静かに私たちを見る。
「えっ、ダメな事した?
強い魔法も使ってないし……」
すると先生がケインさんの肩を抱くと少し離れたところへ連れて行く。
何を話しているのでしょう……?
しばらくすると、ケインさんは先生にぺこりと頭を下げた。
そして先生は、
「見ての通り、戦い方次第でGクラスの者がAクラスの者に勝つことができる。
戦いという物は綺麗ごとでは解決できないこともあるので、油断しないように!」
とまとめた。
「大丈夫ですか?」
ケインさんが私に聞いてくる。
「私は負けたのですね」
今まで負けたことが無い悔しさから呟いてしまう私。
しかし、ケインさんは慰めるように、
「どうなんでしょう。
私は汚い戦い方をしましたから」
と言って頭を掻いている。
私は、
「『戦いはきれいごとだけではない』と先生もおっしゃっていました。
本当の闘いなら私は捕虜になっているでしょう」
と言った。
先生の言うことは正しいと思う。
戦いは勝てばいい時もある。
すると、
「学校にはそう言うのを学ぶために来ているのでは?
知っていることを今更知ってもここに居る意味が無いと思います」
とケインさんが言った。
知らないことを学ぶための学校。
「そうですね。
それにしても無詠唱とは……」
無詠唱で魔法を使うのは難しいと言われている。
それができるケインさんは凄いと思う。
「私は強い魔法は使えません。
だから、ズルく戦うには前もってわかる詠唱など使っては負けてしまいます。
あれで、『土に……』とか言っていたら、エリザベス王女様は警戒していたでしょう?」
無詠唱なのは戦いに勝つための手段だったのですね。
「そうですね」
私は頷いた。
「私も無詠唱を勉強したいのですが、どうすれば?」
と聞いてみると、
「母さんの部屋にあった本に『魔法はイメージ』と書いてあったと思います。
水ができる過程。
火ができる過程。
泥になる過程。
そう言うのをイメージして無言で魔法をかけてみればそのうちできるようになりますよ」
と言うケインさん。
詠唱の代わりにイメージを使う感じかしら?
これはやってみないと!
「はい!」
と、そう言ってケインさんが手を差し出す。
私がその手を掴む。
あっ、大きい。
そしてごつごつした剣ダコ。
力強くケインさんは私を引き上げた。
二人で剣を構え練習していると、
「今日の授業は終わり!」
と言う声が聞こえた。
「おっと、次の授業がある。
男はすぐに着替えられますが、女性であるエリザベス王女様はいろいろあるでしょう?
それでは失礼しますね」
ケインさんは更衣室に向かう。
本当。
女性には時間が少ないですね。
汚れた体で私も更衣室に向かうのだった。
読んでいただきありがとうございます。




