21.剣術授業
剣の適性がある者には剣術授業というものがある。
これは、AからGのクラスが同時にやる授業で、俺もその参加者の一人なんだが初参加なのにすでに目を点けられていた。
エリザベス王女様の取り巻きヘイネルとローグだ。
さっきも俺を見つけたエリザベス王女が俺に手を振ると、めっちゃ俺を睨んできた。
その勢いにエリザベス王女を無視してしまうのだった。
授業が始まり、先生である騎士から、
「えーっと、適当に二人組を作ってください」
と、声が聞こえた。
ちなみにGクラスで剣術授業に出ているのは俺だけ……。
ありゃ、相手が居ない。
まあ、誰か余らなければ先生と……って事になるのだろうが。
なんて思っていると、
「ケインさん。組みましょう」
とエリザベス王女様がやってきた。
「あのー、どうして?」
「私はお母さまが良いと言った殿方としか組むことができません。
ヘイネルはAクラスでBクラスのローグとは仲がいいので別の人と組ませるのはかわいそうでしょう?
ですから、私とケインさんが組むのが正解なのです」
何が正解なんだ?
ヘイネルとローグがエリザベス王女様の相手をしようと走ってくる。
しかし、先生は周りを見て、
「はい、決まったな。
それじゃ、剣を持って打ち合って」
と言った。
はいアウトォ。
ヘイネルとローグは間に合いませんでした……でいいのか?
渋々二人は剣を合わせ始める。
「ケインさんは本当に剣術ができないのですか?」
王女様は聞いてきた。
「入学の判定では程々ですね。
でも何をしてもいいのなら勝てますよ?
私は少々魔法も使えますからね」
「私はそんな戦い相手を知りませんからそれでお願いします。
これでも指南役からは筋が良いと言われているんです。」
王女様向上心ありすぎでしょう?
「それでは……始めますね」
王女様の顔の周りの空気の水分を多くして霧を発生させ視界を奪う。
「えっ、見えない」
そして、木剣で軽く手を打つ。
「はい、終わりです。
戦いでしたら手首から先はありません」
唖然として俺を見る王女様。
「強い」
「強いというよりズルいというのが正しいでしょうねえ」
俺は頬を掻いた。
「でも、簡単に私に勝った」
エリザベス王女様がボソリと言う。
「お前がエリザベス様に勝つなど許せん」
横から声が飛んできた。
ヘイネルだ。
「いいのです、私が頼んだのですから」
王女様が止めに入るが、
「いいえ、本来であれば組むのは私だったはず」
断定して言うが、
「ヘイネル様あなたが遅かっただけでしょう?
まさか、エリザベス王女様があなたと必ず組むとか思っていたんじゃないでしょうね?」
と俺が言うと真っ赤になるヘイネル。
図星らしい。
「ばっ馬鹿を言うな
。相手はエリザベス王女様が自由に選ぶ」
「だったら、問題ないじゃないですか」
「いいや、私もローグもエリザベス様には勝ったことがない」
ヘイネルが言うことは本当らしい。
「でも、あなたたちは本気で戦ってないからでは?」
気分よく練習させるために手を抜いている可能性はある。
「そうなのですか?」
王女様が愕然とする。
「いいえ、私たちは本気で戦いました。それでも負けた」
ありゃ?
本当に王女様が一番強いの?
「だから、余計に信じられん。
魔法も剣も両方使えば王女様のほうが強いはずだ」
「ああ、そういう事か。
俺だけ魔法を使っていたから勝ったのは無効って事ですね?」
頷くヘイネル。
「じゃあ、王女様、魔法も剣も思いっきり使ってください。
私は程々の魔法と程々の剣で戦います」
「いいのですか?」
ちょっとうれしそうな王女様
「いいですよ?
王城ではあまり楽しめていないようだ」
「それでは行きます」
そう言うと、王女様のスピードが上がった。
とはいえカミラのほうが早いなぁ。
王女様の剣筋をギリギリで避ける。
王女様は少し離れると、
「炎たちよわが手に集え!
ファイアーボール!」
という詠唱とともに火球を打ち出した。
俺は、手を出し水の膜を作る。すると、ジュっという音がして火球が消えた。
「!」
王女様が驚いていた。
そりゃ、火より水のほうが強いのは当たり前だろうに。
手にある水を飛ばし王女口元を覆う。
これで、魔法は無いな。
本来なら、鼻も口もふさいで窒息から気絶に追い込むが、窒息させるとあとがうるさそうだ。
口だけで我慢。
魔法が使えなくなり木剣で再び俺に切りつけようと走って近づいてきた。
俺の直前で王女様の足が埋まる。
表面の土を残し、俺の前を泥にしていたのだ。
踏ん張れなくなった王女様が派手に転んだ。
そして立ち上がろうとしたところに、コツンと軽く肩に当てる。
「はい、終わり」
俺は王女様の口の周りの水分を除いた。
静まり返る周囲。
「えっ、ダメな事した?
強い魔法も使ってないし……」
すると先生が俺の肩を抱き囁いてきた。
「ケイン。
俺はベルトさんの下で働いている者だ。
お前、どれだけ力を持ってる?
お前の戦い方は強い者の戦い方だ。
エリザベス王女と言えば、ベルトさんよりも弱いが指南役を倒すぐらいの実力だぞ?
『Gクラスに息子が居て、何かやらかすかもしれないが、温かい目で見てやってくれ』の意味がやっと分かった。
無詠唱での魔法。
切っ先を最小限でかわす技術。
超一流じゃないか」
「ばれます?」
「見る者が見ればな。
エリザベス王女様は気付いた。
黙ってはおくがあとは知らんぞ」
「ありがとうございます」
先生は、
「見ての通り、戦い方次第でGクラスの者がAクラスの者に勝つことができる。
戦いという物は綺麗ごとでは解決できないこともあるので、油断しないように!」
とまとめた。
「大丈夫ですか?」
俺は王女様に近寄った。
「私は負けたのですね」
「どうなんでしょう。
私は汚い戦い方をしましたから」
「『戦いはきれいごとだけではない』と先生もおっしゃっていました。
本当の闘いなら私は捕虜になっているでしょう」
「学校にはそう言うのを学ぶために来ているのでは?
知っていることを今更知ってもここに居る意味が無いと思います」
「そうですね。
それにしても無詠唱とは……」
「私は強い魔法は使えません。
だから、ズルく戦うには前もってわかる詠唱など使っては負けてしまいます。
あれで、『土に……』とか言っていたら、エリザベス王女様は警戒していたでしょう?」
「そうですね」
エリザベス王女様が頷いた。
「私も無詠唱を勉強したいのですが、どうすれば?」
「母さんの部屋にあった本に『魔法はイメージ』と書いてあったと思います。
水ができる過程。
火ができる過程。
泥になる過程。
そう言うのをイメージして無言で魔法をかけてみればそのうちできるようになりますよ。
はい」
俺が手を出すと、王女は俺の手を掴む。
そして引き起こした。
二人で剣をの練習していると、
「今日の授業は終わり!」
と言う声が聞こえる。
「おっと、次の授業がある。
男はすぐに着替えられますが、女性であるエリザベス王女様はいろいろあるでしょう?
それでは失礼しますね」
そう言うと、俺は更衣室で着替えGクラスの教室に戻るのだった。
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