20.危機
「ケインさん。お久しぶりです」
エリザベス王女様が俺に声をかけた。
あー、俺の普通生活、オリエンテーション終了時に終わった……。
そりゃね、既に父さん母さんがフラグを立てているから、多分在学中には目立つようになるだろうけど、入学初日、いきなりとはね……。
「お久しぶりです。プリンの件以来ですね。
それにしても、私はエリザベス王女様に私の名前はお伝えしていなかったと思いますが?」
エリザベス王女は少し戸惑った後、
「手の者に調べさせました」
と恥ずかしげに言う。
気になったとはいえ、王女にストーカーされていたようだ。
「あの鬼神と魔女の息子だったとは思いませんでした」
父さんも母さんも有名人らしい。
「エリザベス王女様、親は選べません。
でも、親には感謝しています。
二人には剣と魔法を学びこのように自由にさせてもらっています」
「剣と魔法。
私が幼いころ我儘で王城を飛び出した時に悪い男に絡まれていた私を助けてくれた男の子が居ました。
その男の子がケインさんに似ているのですが……記憶にありませんか?」
「知りませんねぇ」
窓の外を見て俺はうそぶく。
「その男の子が連れていた女性が濡れたような漆黒の髪で、いつもケインさんの横に立っておられる女性に似ていたと思います」
俺だけど……、
「記憶にないですね」
と即答。
「私はその男の子に、私が我儘で動くとどうなるのかを教わりました。
実際あの時は城内で大騒ぎになっていました」
「そういうことがあったのですね?
しかし、今も我儘でここに来たのでしょう?
ほら、あなたのご学友兼護衛が走って来ていますよ。
あの者たちに言ってから来たのですか?」
ご学友たちが走ってくるのが見えた。
「いいえ。でも……」
「でも?」
「でも、Eクラス以下の者と話をしてはいけないと、周りの者が言うのです」
シュンとするエリザベス王女。
AクラスからDクラスまでの者は貴族王族が多い。
それだけ勉強する機会があったってことだ。
「それでもです。
人に言われるからしないというのでは、人の言うことしかできなくなりますよ。
さて、私は妃様に『友達になるように』と言われています。
ですからちゃんと理由を話してここに来ればよかったのだと思うのですが?」
「理由……ああ理由ですね。『お母様がそう言っている』のですから、仕方ないですね」
ん、わかっていただけたようです。
普通生活が終わるなら、揉めない生活を求めたい。
すると取り巻きの四人が現れる。
「エリザベス王女、探したのですよ!
こんな下賎な者のいる場所に来てはいけません!
Dクラスまでと言ったではありませんか!」
おう、サラサラ金髪な長髪の男子が髪を掻き上げながら現れた。
「そうです、Gクラスなどあなたの来るところではありません」
おぉ、銀髪おかっぱ真面目系眼鏡女子。
残りはガッチリ系茶髪男子と、天真爛漫系の赤髪女子だな。
「ヘイネル、ソルン。
この方は母上に友達になるように命令されている方です。
ですから、問題ありません」
「えっ、王女様がですか?」
天真爛漫系が驚いていた。
「ライン。
ケインさんはルンデル商会が王城にプリンを初めて納入した時、ルンデル商会の会頭ともに来た方です。
収納魔法を習得していて、プリンの型崩れを防ぐために連れて来られた時に、お母さまに会ったのです。」
「あーあのプリンね。
ルンデル商会でしか扱ってないやつでしょ?
なっかなか手に入らないから私もあんまり食べたことは無いけど、あれ美味しいわよね。
そう言えば、Dクラスにルンデル商会の娘が居たけど。お知り合い?」
「ああ、レオナさんですか?
知っていますよ?
入学式にはルンデルさんとも話しました。」
そういや、今更だが姓は知っているが、名を知らないルンデルさん。
まあいっか……。
「なぜルンデル商会と知り合いに。
普通じゃあの商会の伝手を持つことはできないでしょう?」
天真爛漫系が聞いてきた。
結構掘り下げてくるなぁ。
「ああ、家の者が襲われていたルンデルさんの商隊を助けたんです。
ですからその関係でですね」
本当半分、嘘半分ってところ。
「ケインさんのご両親は鬼神のベルト様と魔女のミランダ様です。
婚約者が強いのも頷けます」
エリザベス王女のフォロー。
あっ、余計なことを言ったな。
多分……
「何、あの鬼神の息子?
では、手合わせできないだろうか」
ガッチリ茶髪が肩に手を置き話しかけてきた。
力が入っているのがわかる。
あーあ、鬼神と聞いてやる気満々になっちゃったよ
「私はGクラスですよ?
剣でも魔法でも程々で試験もギリギリで通ったような者です。
あなたの相手などできません」
「そうよな。剣の腕があるのならば、このようなクラスに居るはずがない」
妙に納得するガッチリ茶髪。
「ローグ。そのようなことを言ってはいけません!」
「しかし、エリザベス王女様。
その方の言っている事は正しいのです。
剣の腕があればGではなくEクラスには入っているはず」
クラス分けとしては
Aクラス・・・剣・魔法・勉強すべてが優秀な者
Bクラス・・・学力優秀で剣が優秀者
Cクラス・・・学力優秀で魔法が優秀者
Dクラス・・・学力優秀な者で剣と魔法が程々な者
Eクラス・・・学力が程々で剣が優秀者
Fクラス・・・学力が程々で魔法が優秀者
Gクラス・・・全てにおいて程々な者
「私はGクラスですから、全て程々なんですよ」
「そうなんですか……」
よしよし、失望したかな?
「でも、あなたは私のお友達です。
たまにここに来てもいいですか?」
「否定しても来るんでしょう?
王女様」
「はい、よくご存じで。
それではあまりお邪魔をするのもよろしくありませんね」
ニコリと笑うと、エリザベス王女様はGクラスを出ていった。
ふと視線を感じる。
「レオナさん、何を覗いているのですか?」
「えーっと、Gクラスの教室に王女様が行ったって聞いたから……誰に会いに行ったのかなぁと……。
やっぱりケイン様だったんだ」
「やっぱりって……。
ルンデルさんと王城に行った時に言われたことがあったんです。
『エリザベスの友達になってやってくれ』ってね。
その事をエリザベス王女様が覚えていたみたいで、私を探してここに来たようです。」
「そう言えばそんな事をお父様が言っていた。
うちは儲けているけど、プリンもケーキも発案者はケイン様だった。
なぜ、表立って動かないの?
剣の腕も魔法の腕も表に出していない。
そうすればもっとお金も力も入るだろうし……」
「プリンの件については、私には作れたとしても販売はできませんよ。
ルンデルさんほど力も無い。
製造、販売、営業。
私のような小僧が『美味しい』と言って、王城までプリンの話が通ったと思いますか?」
「それは……」
「レオナさんの人脈。
つまりルンデルさんの人脈があったからこそ、王城にプリンの話が通り、王妃様が気になされた」
「…………」
レオナさんが黙る。
「ルンデルさんのような大商人が行うほうがいいんです。
それに売り上げの一割を貰ってますから、私も儲けていますよ?
お金を得るだけなら、こういうやり方もあるんです」
俺が笑って言うと、レオナさんはきょとんとしていた。
「ケイン様。今日は学校も終わりでしょ?
お父様も待っていると思うの。
だから、馬車で送ってさしあげようかと……」
そっちが本当の理由か……。
「ありがとう。
申し訳ないんだけど、多分カミラが正門で待っているだろうから、カミラと帰るよ」
そう言うと、
「んー残念。
そうよね、あんなきれいな婚約者が居るんだし」
と言った後、
「さようなら、また明日」
そう言ってレオナは教室を出ていく。
ふう、千客万来だな……。
俺は、片づけを終え正門へ向かう。
門にもたれて待つ黒髪の女性。
「おーい、待たせたな」
俺が声をかけると、
「あっ、ケイン」
と俺に気付いて笑う。
「じゃあ、帰ろっか」
「うん」
俺の腕にカミラは抱き付く。
これじゃ結局目立つか。
そんなことを思いながら、家に帰るのだった。
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