19.入学
俺は十二歳になった。
その間に冒険者として活動し、ランクはCになっている。
俺の能力を上げるための経験値稼ぎのような物。
まあ、お陰で父さんとカミラ二人相手に勝てるようになっていた。
現在の身長、父さんの血を引いたのか身長は百七十センチ越え。
カミラの横に立っても、なんとか違和感がなくなるようになった。
EMSも継続しているのでバキバキだ。
しかし、服を着ると痩せて見える。
十二歳になる年の春、学校が始まる。
騎士養成、魔術師養成、文官養成のための場所だ。
十四歳までの二年で共通の基礎を学び、三つのうちどれかを選択後、十六歳までそれぞれの専門を学ぶことになる。
試験は筆記が国語と数学だった。六十点以上で合格らしい。
と言っても、小学校高学年程度。特には問題ない。
しかし、目立ちたくないので、わざと六十点前半を狙った。
実技として魔法試験と剣術試験もあったがこれは入学条件としては必要ない。
ただ、クラス分けに必要な物らしい。
そこで、目立つようなことはせず、皆が使う程度の魔法と威力に留めておいた。
つまり全てにおいて平凡。
王立の学校ではという前提になるが……。
王女と一緒のクラスなんて入りたくはない。
これは大前提である。
「母さん、父さん、目立ちたくないので手を抜きます」
と両親に言うと、
「まあ、最初目立たなくてもそのうち目立つだろう。
私より強いのだ。
お前の好きにすればいい」
「そうね、目立たないようにしても目立つのがケインだから……。
卵の件しかり、お菓子の件しかり」
などと妙なフラグを立てられた。
試験には合格。
成績はビリから三番。
おう、ギリギリ。
AからGまであるクラスの最低ランクのGクラスに入ることになった。
入学式前に、俺は両親とカミラと話をしていると。
「あいつが鬼神と魔女の息子か。
思ったより普通だな」
「魔法も剣もある程度使えるらしいが、普通らしいぞ」
という俺にとって好ましい声が聞こえてきた。
「旦那様。
本当にこれでいいのですか?」
カミラが不思議そうに聞いてきた。
「ああ、これでいい。
下手に目立ったら王女様のお友達コースだ。
覚えているだろ?
悪い奴に絡まれていた女の子を助けたことを。
あれ王女だったんだ。
できるだけ遠くに居たい」
「そう言えば、王城に行った時に王妃様に『仲良くしてやってもらえるか』と声をかけられたと言っていましたね」
「そう、AクラスとGクラスは一番離れている。
だから顔を合わせることも無いだろう」
「ケイン様!」
と言ってルンデルさんが現れる。見たことのある女の子も居た。
「ああ、ルンデルさん。
あっ、レオナさんもご一緒でしたか。
という事はこの学校へ?」
「はい、文官系の勉強をさせておこうかと思いまして。
この学校で得る友人は卒業後もいろいろ関わります。
ちなみにレオナはDクラスです。
Aクラスの編成を見ましたが、ケイン様のお名前は見当たりませんでした」
「私はGです」
俺がさらり言うと、
「イヤイヤイヤイヤイヤ……。
そんなぁ。
ケイン様なら本来Aのトップを狙えるでしょう?」
とルンデルさんは俺の言葉を信用せずに聞いてきた。
「いいえ、私はGです。ほら」
成績順に並ぶクラス編成内でも後ろから数えたほうがいいようなところ。
「あっ、本当に……」
確認するルンデルさん。
「トップなんて要らないのです。
トップになれば入学式の代表とか面倒でしょう?」
「それは……ケイン様の輝かしい経歴の……」
ルンデルさんが良い淀む。
「そんなものは要らないんです」
「えー、ケイン様と同じクラスだったら、色んなお菓子が食べられるかと思ったのに」
本気でがっかりするレオナさん。
「レオナ! すみませんケイン様」
レオナさんを注意した後、俺にペコリと謝るルンデルさん。
いつも思うが、俺にそんなにペコペコしなくてもいいとは思うんだがね。
命を助けてもらったとか、プリンで王妃様との繋がりができたとか、材料確保とかで俺に頭が上がらないと言っている。
気にしなくてもいいんだけどなぁ。
「ルンデルさん、いいんです。
でもお菓子を学校に持ち込んでもいいの?」
「ケイン様。お茶菓子ならいいんですよ」
とルンデルさんが言うと、
「だったら、私もGクラスが良かったな」
とレオナさんがボソリと言った。
ああ、お茶の時間って言うのがあったな。
それでか……。
入学式は学校の講堂で行われた。
予定通り、新入生代表が王女エリザベス様。
周囲に二人ずつの男子と女子。
取り巻き兼護衛なのだろう。
生徒代表がフィリップ様という王子らしかった。
エリザベス様のお兄様らしい。
兄妹で成績優秀とはね……。
そして入学式が終わり、両親とカミラは帰宅。
カミラがあとで迎えに来るらしい。
三人を見送ると俺は教室に入る。
教室では簡単なオリエンテーション。
座学は、国語、数学、社会。実技が剣術と魔術。
素質が無い者は化学や政治学などの座学を選択し試験を受けるようになっているそうだ。
一応剣術と魔術の素質はあることになっているので、俺は参加になる。
俺の席は窓際の後ろから二番目。
休憩時間になったが特にすることも無いので、ボーっとしていた。
鬼神と魔女の息子だということは知られているようで、チラチラとみられる。
俺は『近寄るな』雰囲気を出して座っていた。
うんうん、目立たない目立たない……。
これでいい。
父さん母さんに変なフラグを立てられたが普通の学校生活を送るのだ。
今日はこれで終わりと言うことで、帰り支度をしていると、急に最下級のGクラスがザワザワし始める。
おっとぉ、王女様登場。
何故か一人だ。
で、誰に用事?
なぜ俺を見つめて近づいてくる?
俺に危機が迫ってくるのだった。
読んでいただきありがとうございます。