表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/130

18.知らないふり

 馬車を降り衛兵に誘導されて大きな扉の前に着いた。

 声がかかり衛兵と共に中に入ると、護衛の騎士二人の間に絶世の美女と言えるほどの女性となんとなく見たことのある女の子が座っていた。


 多分エリザベス王女なんだけどね。


 俺は目を合わさず気付かない振りをする。

「お初にお目にかかりますマリー王妃様。

 手紙で依頼されたお菓子をお持ちしました。

 そして、こちらがそのお菓子を運ぶために雇った収納魔法が使える者です」

 俺は深々と頭を下げる。

「しかし、なぜ収納魔法で運ばなければならんのじゃ?」

 王妃様が聞いてきた。

「このお菓子は繊細で崩れてしまうことがあるからです」

 ルンデルさんが説明をした。

「それでは、どちらにお菓子を出せばよろしいでしょうか?」

 俺が言うと、ピクリと女の子が反応する。


 まだ声が変わってないしなぁ……。

 バレるよね。


「それでは、そこの台の上に置いてもらえるかのう」

 王妃様の前にテーブルがあり、そこを指差していた。

 俺は前に進み出ると、気を利かせて冷やしておいたプリンを十個取り出す。


「おお、これが……」

 王妃様は立ち上がると、プリンを一つ手に取った。

「スプーンで掬ってお召し上がりください」

 ルンデルさんが言うと、既に準備していたスプーンでプリンを掬う。

「これは確かに美味じゃ。

 リズも食べてみればいい」

 女の子がプリンを一つとるとスプーンで掬ってひと口食べた。

「美味しい……。

 冷えてプルンとして甘くてそして少し苦い。

 上に乗った甘くて白いものの甘味とその上に乗るワイルドベリーの酸味がまたアクセントになっています」

「このお菓子の名は?」

 王妃が聞いてきた。

「プルプル感から『プリン』と言う名にしました」

 ルンデルさんが言う。

 事前に申し合わせていた。


 まあ、オヤジギャグ……。


「ルンデル商会でしか手に入らないのか?」

「はい、そうなります。

 更には私のところでも材料が少なく数が出せません。

 作ったとしても五個から十個ではないでしょうか?

 たまたま数が揃ったので、娘の誕生会に出したのです」

「少ないのう」

「鋭意、材料確保を行っています。

 コッコーとホルスの数が揃えば安定供給ができるかと思います」

 ルンデルさんが説明した。

 実際今材料としてあるのは、うちのコッコーとジャージーの乳のみだ

「二か月以内に材料を確保し、安定供給できるようにすること」

 王妃様が言った。


 若干無茶振り。

 まあ、ルンデルさんにとってはチャンスだね。


「畏まりました、こちらも急いで対処します」

 ルンデルさんは深々と頭を下げるのだった。


 じっと見る女の子。

 リズと言われていたな。

 そう言えば、エリザベスだからリズか……。


「そこの子供、私に見覚えはありませんか?」

「はい、ございません」

 食い気味に即答した。

「知っている」と言われると思っていたのか、否定されてシュンとするエリザベス王女。

 俺とエリザベス王女が話し始めて気になったのか、

「そこの子、何歳じゃ?」

 と王妃様が聞いてきた。

「今年十歳になりました」

「そうか、エリザベスと同い年なのだな。

 その歳で空間魔法を使えるとは良い師に恵まれたか?」

「母親が魔法を使えたので、幼いころから師事しました。そのお陰です」

「学校へは?」

「十二歳になったら行くことになっています」

「それではエリザベスと一緒じゃな。

 仲良くしてやってもらえるか?

 エリザベスは貴族の友達しかおらんのでな」


 将来の夫って奴で周りを囲まれているのかね?


「わかりました。その際には必ず」

 俺はそう言って頭を下げるのだった。


 でも、関与したくない。



 プリンを納め終わって、ルンデルさんが馬車で家へ送ってくれた。

「ケイン様、おかげさまで何とかなりました」

 ルンデルさんがぺこぺこと頭を下げる。

「『二か月以内に材料を確保し、安定供給できるようにすること』と言われていましたが、実際にはどうなのですか?」

「『コッコーとホルスを生きて捕まえる』という依頼を冒険者ギルドに出しているのですが、まだ一匹も……」

 ルンデルさんの元気がない。

「仕方ないですね。コッコーとホルスは俺とカミラで確保します。

 あと料理人を紹介していただければ、プリンのレシピをお教えしましょう。」

「えっ、いいのですか?」

 ルンデルさんは驚いていた。

「毎回私が作るのも面倒ですからね」

「すみません」


 恐縮しっぱなしで可哀想だな。

 俺のせいでもあるんだが……。


「ルンデルさんの伝手で、王都の近くに寂れた村なんかはありませんか?」

 と聞くと、

「あります。

 王都から一時間ほど離れた村です」

 とルンデルさんが答える。


 近いな……。


「だったらそこでコッコーとホルスを飼いましょう。

 コッコーを飼う小屋と、ホルスを住まわす建物。

 厩のような物でいいと思います。

 馬を放牧するように柵を作ってそこにホルスを放牧すれば、いい乳を出すでしょう。

 村の特産ができて雇用も発生する。

 ルンデルさんも卵と乳が手に入る。

 どうですか?

 コッコーの小屋については小屋を作ってくれた大工に聞いて、数倍の大きさにしてもらってください。

 五十羽を目標にします。

 ホルスについては五頭にしましょう。

 そして、コッコーとホルスは入れ物ができたところで、私とカミラが捕まえてきます。

 これでどうでしょうか?」

 必死にメモを取るルンデルさん。

「ルンデルさん。

 材料が手に入ると言うことは、プリンを作ることができるようになります。

 ルンデルさんのところでしか手に入らないお菓子。

 つまり独占です。

 それも王妃様に気に入られているお菓子となれば……色々使えそうですね」

「そうですね」

 お互いに、悪い顔をしていた。



 ラムル村という所にルンデルさんはコッコーの小屋とホルスの放牧地と牛小屋を作った。

 その後、アベイユたちに手伝ってもらい、俺とカミラでコッコーについてはとりあえず三十羽を確保。

 オスも追加しているので、増やすことも可能だろう。

 ホルスのメスについても、力勝負でなぎ倒したりカミラの催眠で誘導したりして五頭を確保することができた。

 この世界の牛は子が居なくても乳は出るらしい。

 村人にコッコーとホルスの飼い方。

 乳の絞り方を伝授する。

 二カ月が経つ頃には、レシピを教えた料理人が毎日百個ほどのプリンの材料を作るようになっていた。

 白磁の綺麗な容器に入れる。

 一個小金貨二枚での販売。

 王妃御用達の看板を得ると、貴族たちが買い、簡単に売り切れた。

 そして、ルンデルさんの店のプリンが王都の名物になるのだった。


 売り上げの一割が俺の懐に入る契約だ。

 何もしなくても俺の懐がどんどん暖まる。

 いいねぇ。


読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ