17.誕生会
「旦那様、このお菓子は?」
カミラが聞いてきた。
「ケーキというお菓子だよ。
俺の世界では誕生日定番のお菓子だな。カミラの誕生日は?」
「私はわからない」
カミラは寂しげな顔をした。
「じゃあ、婚約した日にでもするか?」
「えっ?」
「カミラは婚約した日が十四歳だ。そういうことにしよう。そうすれば、カミラの誕生日を忘れることもなくなる」
「私の誕生日……」
「家族として迎えた日なんだから、カミラが生まれ変わったってことで、婚約した日に誕生日決定!」
多少無理があったが、カミラは了承した。
嬉しそうにしているから問題ないだろう。
俺とカミラはルンデルさんの家へ行き、勝手口から入る。
すると、ラウンさんが居た。
招かれてない俺がパーティー会場に持ち込むのは嫌だったので事前に言っておいたのだ。
「ラウンさん。これが注文のプリン十個と、あと、これが誕生日ケーキのなります」
と、収納魔法で取り出した。
「これは見事な………言うなれば真っ白な雪原に咲く赤い花。
こんなお菓子を私は見たことがありません」
「周りに塗ってあるのはホルスの乳を加工したもので、飾りにしています。
赤いものはワイルドベリーです。
このケーキの中にもベリーをスライスしたものを入れてますので、酸味が甘味へのアクセントになるでしょう。
これはそのまま食卓に出し、切り分けるのがいいと思います」
「ケイン様はやはり?」
「ええ、渡したので帰りますね」
「お嬢様も喜びましょうに……」
ラウンさんの顔が少し陰った。
「お嬢様は、私よりもプリンでしょう……おっと、余計なことを……。
この事はルンデルさんにもレオナさんにも内密に」
俺は笑いながら言った。
「畏まりました」
と、ラウンさんもウインクして笑う。
「それでは失礼しますね」
「この度はありがとうございました」
ラウンさんの声を聞きながら、俺たちはルンデルさんの家を出るのだった。
ケーキとプリンを納め数日経ったある日。
夕食前に庭でコッコーの世話をしていると、ルンデルさんの馬車が急に俺の家の前に止まり、
「ケイン様!」
といって飛び出てきた。
「どうしたんです。そんなに慌てて」
「本当に、本当に申し訳ないのですが、明日までにプリンを作っていただけないでしょうか?」
「何かあったのですか?」
「プリンの話が王妃様の耳に……。
そして『食べたい』と我が家へ手紙が来ました」
「コッコーの卵と言う危ない材料があると言って誤魔化しては?」
「それはすでに無理です。
我が娘が誕生会の時に『新鮮なら問題ない』と言ってしまっております」
ダメじゃん。
避けられない奴じゃん。
「それに、プリンとケーキの出来が良すぎたのです。
あんなお菓子私も見たことがございません。
娘の友達には貴族の娘もおり。
娘の友達が親に言ったようです。
親が王宮に行ったときに話に上がったのでしょう。
実際、娘の友達の親からも手に入らないかと催促が……」
困った顔のルンデルさん。
「作るのは問題ありませんが、私の名前は出さないでくれませんか?
面倒そうです」
「畏まりました。
しかし、王城内部まで運ぶのは手伝ってほしいのです。
『収納魔法を持ったものに運搬を頼んだ』と言うことにしますので」
まあ、崩れたものを持っていくわけにもいかないか。
「わかりました。運びましょう」
「よろしくお願いします」
「プリンも作っておきますね。ちなみにいくつ?」
「誕生会と同じく十個でおねがいします。
それでは昼前にお迎えに上がります」
ルンデルさんは深々と頭を下げた。
こうして、俺は王城の中に入ることになったのだ。
母さんに説明をして、
「という訳で、王城に入ることになったんだけど、服装はどうすればいい?」
と聞いてみた。
「だだお菓子を持ち込むだけなら、小綺麗な服があればいい。
王妃に謁見するとはいえ、子供ですから。
あとはルンデルさんが言うことを守っていれば大丈夫。
服は準備しましょう。
剣は持って行かないほうがいいわね」
「じゃあ、服は母さんに任せるよ」
と言った。すると、
「カミラさん。
夫の服を決めるのは妻の仕事です。
教えますから一緒にやりましょう」
「はい、お母さま」
気合の入る二人だった。
次の日、出来上がったプリンを収納魔法で仕舞う。
カラメルの上にはホイップクリーム。
その上に赤いワイルドベリーをカットして載せた。
ちょっと豪華版。
母さんとカミラが現れて、あーだこーだと俺の服を決めるが、結局ズボンにシャツで落ち着いた。
生地はいいらしい。
正直俺には違いがわからない。
そんなことをしていると、玄関から声がした。
「ミランダ様。
ケイン様をお迎えに上がりました」
「いつも息子がお世話になっています」
挨拶が終わると、
「ケイン様、お菓子は?」
「ああ、もう仕舞ってあります」
そう言って、プリンを一個取り出した。
「これはまた見事な……」
そして収納魔法で再び仕舞う。
「それでは参りますか」
俺とルンデルさんは馬車に乗り、王城へ向かった。
ルンデルさんが門番に説明を終え、王城の中に入る。
俺がきょろきょろと周りを見ていると。
「凄いでしょう。
私も門の中に入ったことは数えるほどしかありません」
と、ルンデルさんが言った。
「すごいですね、この大きさを人の手で作るって……。
使われる者は大変だ」
「知っていますか?
城のような巨大な物を作る時、労働者を確保するために、裁判で犯罪奴隷にされるものが多くなるのです」
悪い顔のルンデルさんが居た。
「そうなんですか……」
強制労働って奴か。
「ケイン様の年齢はいくつなんでしょうね?
十歳の子供がこんな話をすることはありません」
とルンデルさんが聞いてきたが、
「そうですね、そういう点では私は変わっているのでしょう。
子供らしくなくて申し訳ありません。
私が十歳ということは母さんに聞いてもらえばわかります」
と、言って返しておいた。
本当の事を知るのは……今はカミラだけでいい。