15.卵
カミラと婚約してしばらくすると、コッコー用の小屋が出来上がる。
「注文通り、コッコー用の小屋ができたぞ」
と、レンクさんが言った。
感覚的には六畳一間に押し入れぐらいの広さだろうか?
押し入れ部分には藁が敷いてあり、そこで卵を産んでもらうようになっていた。
一面は細い木を使って、柵ができている。
外からも見られるようになっていた。
「さすがですね、ルンデルさんが推すだけある」
「この位ならな。
他に何か注文はあるか?」
「いいえ、十分だと思います」
俺が言うと。
「それでは片づけをして帰る。
代金はルンデルさんから貰ってるから片付けだけだな。」
そう言うと、レンクさんは片づけをして荷馬車に乗って帰っていった。
俺がニコニコしていることに気付いたカミラが、
「旦那様、コッコーを手に入れる首尾が整ったのですね」
と玄関から顔を出して言った。
カミラは「旦那様」へ俺の呼び方が変わっている。
主でいいと言ったが結局旦那様で落ち着いてしまった。
物言いも少し変わっている。
「ああ、レンクさんが作ってくれていた小屋が完成した。
あとはコッコーを入れるだけだな」
「では、お母さまに言って、捕まえに行きましょう」
「カミラは結構乗り気だな」
「ええ、旦那様が言ったホルスの乳は、私にもお母さまにも効果があったようです。
それにワインや水で食べるパンよりは格段に美味しいですしね」
そう言って胸を張るカミラ。
「育った?」
「はい、育ちました。
ちょっとだけですけど……」
そう言って頬を染める。
本当に効果があるとは……。
「ですから、コッコーの卵についても、私もお母様も期待しているのです」
実績ができたから期待が大きくなったようだね。
「それではお母さまへの連絡して出かける準備をしましょう」
そう言うと、カミラは家の中へ入って行った。
王都を出て北へ進む俺とカミラ。
気配感知を広げコッコーの魔力を捜した。
「ん?」
「旦那様、どうしたのですか?」
「いやな、コッコーの気配を探していたんだが。
コッコーより小さな気配が何百、いや何千も飛び回っている。
それよりも少し大きな気配が小さな気配に当たると、小さな気配が消えるんだ」
そう言いながら気配が舞う場所に近づくと、物語に出てきそうな四センチぐらいの槍を持った蜂と、更に三倍ぐらいもある、大きな蜂が戦っていた。
「アベイユをカラブロが襲っているようですね」
「アベイユって言うのは?」
「蜜を溜める蜂です」
つまり蜜蜂ってことか。
ってことは、カラブロはスズメバチってところだな。
俺とカミラはカラブロを選び叩き落としていると、アベイユたちが集まってきた。
そして、気配感知でわかる最後のカラブロを倒すと、声がかかる。
「女王が呼んでいます」
一回り大きいなアベイユが俺に言った。
「えっ、話せるんだ」
「知られていないでしょうが、私たちは顎を鳴らすことで会話ができます。
それでは私に付いてきてください。」
俺とカミラは蜂たちの後について行った。
働き蜂の一匹に連れられ、女王蜂の元に行く。
連れて行かれた先には、直径八十センチ程度大きなウロのある木があり、その前に迎えに来たアベイユの倍ほどはある蜂が居た。
知っているミツバチに等しいならその周りに居るのは数万の働き蜂。
「ようこそいらっしゃいました。
そして私たちを助けて下さりありがとうございました。
私がこの群れの女王蜂です」
そう言うと女王蜂は深々と頭を下げる。
それに習い働き蜂たちも頭を下げた。
「俺の名はケイン。こっちが俺の婚約者のカミラ」
カミラ、慣れていないとはいえ、婚約者のところで頬を染めるのはやめような。
「みんなそんなに畏まらなくてもいいよ」
と俺が言うと、
「いいえ、私たちはあのままでは全滅していたでしょう。
ですから、これでいいのです」
まあ、それで納得するならいいか。
「で、話があるとか?」
「はい。
お願いがあるのです」
「一応聞くよ」
「私たち守ってはもらえませんか?」
「『守る』とは?」
俺が言うと、
「すでにこの巣はカラブロたちに見つけられ、見ての通り我々は死を待つのみです。
そこでケイン様のお力にすがることができないかと……。
そこにおられるカミラ様からは魔物の匂いがします。
あなた様なら、我々にも寛容ではないかと思いました」
まさにすがってくる女王蜂。
俺は少し考える。
そして、
「この場所に未練がないなら、俺んちくる?」
と聞いてみた。
「ケイン様の家ですか?」
「ああ、俺の家。
蜜を集める場所は遠くなるかもしれないけども、安全にはなると思う。
俺が居なくても母さんが居るしね」
「でもここからは動けませんが……」
「この木の巣の部分だけを切って持って帰ればいいだろう?」
「それならば……」
「ただし、少しだけ蜜を分けてくれよな」
「畏まりました」
女王蜂と俺の契約は成った。
「でな、俺は元々コッコーのメスを捕まえに来たんだ。
それが終わるまで、待ってもらえるかな」
「何なら探してきましょうか?」
女王蜂が言う。
「じゃあ、近辺で五匹ほど探してもらおうか」
俺がそう言うと、女王蜂が右手を上げ尻を振る。
すると、働き蜂が飛び出した。
そういや、蜜蜂はダンスで指示を出すって言っていたな。
「九時の方向に一匹」
「三時の方向に一匹」
「七時の方向に一匹」
「……の方向に二匹」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
次々とコッコーの情報が入ってくる。
すると、
「麻痺させておきましょうか?」
と言う女王蜂の提案があった。
「よろしくお願いします。
あっ、五匹でいいから」
アベイユの槍には麻痺毒が塗られているらしく、コッコー程度ならば麻痺させられるらしい。
女王蜂のダンスのあと再び働き蜂が散る。
「ケイン様、こちらへどうぞ」
働き蜂に導かれ、一匹、また一匹とコッコーを回収した。
「ありがとう、これで五匹」
コッコーの足を縛り、生きたまま運ぶ。
「それじゃ、俺んちへの引っ越しの準備をするぞ。一度ウロから出てくれるかな」
俺の言うことを聞き、女王蜂以下働き蜂がウロから出たのを確認する。
そして、気配関知への魔力を増やし、ウロの内部構造をフレーム状態で確認してから、問題の無い位置で幹を上下で切り取った。
再び蜂たちにはウロに戻ってもらい、巣を持ち上げる。
収納魔法では生き物を運べないので、力業になる。
「ふむ」
俺はウロがある丸太を持ち上げた。
「旦那様大丈夫か?」
心配顔のカミラ。
「ああ、問題ない。
カミラはそこに置いたコッコーを持って帰ってくれ」
そう言って、俺が歩き始めると、カミラはコッコー五羽を持って続いた。
ウロがある丸太を運びながら、
この丸太を落としてしまうと、子供たちの命が……。
などと、考えてしまう。
十字陵へ上るシ〇ウの気持ちを体感している気分だった。
とにかく頑張った。
王都に丸太を入れるときは、門番に何事か聞かれたが、「薪にする」と言い張った。
カミラのフォローもあり、なんとか門を通る。
通りを歩く人に指を指されながらも、何とか家にたどり着き、アベイユは家の庇の下に、コッコーは小屋の中に入れることができた。
アベイユには、
「はい到着。ここでいいかね?」
女王蜂に聞く。
「はい、私たちは飛べます。
それに、近辺に花のにおいもするので、問題ないでしょう」」
「小さな壺をウロの中に入れるので、無理しない程度に蜜を入れてもらえるかな?」
と俺が言うと、
「問題ありません」
と女王バチは答えた。
期せずして、蜂蜜ゲットです。
次はコッコー達。
「ここに居る限り、敵は居ないしちゃんとしたエサも出す。
その代わりに卵を産んで欲しい」
「コケ?」
俺が言うことがわかっていないようだ。
ただ、俺の後ろで睨むカミラを見ると、
「コケェ!」
と言ってひれ伏した。
「じゃあ、水とエサは準備しておくからよろしく」
と俺が言うと、コッコー達は敬礼をした。
そして、我が家の食卓に産みたて卵が上るようになった。
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