12.報告
ルンデルさんに連れられ、受付のカウンターではなく奥の部屋に向かう。
「あのー、受付で処理しなくていいんですか?」
「ええ、既にギルドマスターに話を通してあります。
マスターの部屋で話をしましょう」
そう言うとルンデルさんは木の分厚い扉を開けた。
茶髪で碧眼のがっちりした男。
ネタは古いが、〇ナン・ザ・グレートがルンデルさんに声をかけた。
「ルンデルか?」
「ああ、グレッグ。
久しぶりだな」
「で、話があるらしいが?」
ん?仲良し?
俺が不思議そうに二人の顔を見ていると、
「ケイン様すみません。
ギルドマスターのグレッグとは幼馴染なのです。
砕けた話し方になってしまいました」
とルンデルさんが言った。
「まずは、このケイン様のオークの討伐数を確認してください」
「わかった。それではケイン。
討伐したオークの鼻を出してもらおうか」
俺は、キングを除いた二百三十二のオークの鼻を出した。
「凄いなこれは。ハイ、ジェネラルもある……」
「そしてこれ」
ルンデルさんがひときわ大きい鼻を懐から出した。
「これはまさか……」
「キングの鼻です」
「えっ、報告しないはずでは?」
俺は即座にルンデルさんに聞いた。
「大丈夫、ギルドで止めてもらいます」
「そんなことは言ってはいないが……」
グレッグさんが言い淀む。
「この鼻は確かにキングの鼻。
しかし確認のし様が無いでしょう。
その場所に行ってもキングの死体は無いのですから。
ただ、あの周辺のオークの大発生は無くなったと考えていいと思います。
その件を考慮してケイン様への報酬を決めてもらいたいと思っています」
「わかった、オーク、ハイオークは公表された金額で……。マスター権限でジェネラルは中金貨五枚。キングは討伐完了の報酬込みでジェネラル十頭分として、中金貨五十枚としよう」
「グレッグ、この件は上に通さないように。
ジェネラルまでしか居なかったということで」
「わかっている。こっちもお前の無理を聞いたんだ。
何かあったら頼むぞ」
「ええ、わかりました」
俺とカミラの冒険者ギルドカードを職員に渡し、マスターの部屋で待っていると、
職員が、
「それぞれに折半して入れてあります」
と言って、二人のギルドカードを持ってきた。
冒険者ギルドカードに入金しておくと、店で使ったり冒険者ギルドで引き出せる。
ここもキャッシュレスか……。
大金貨三枚以上にはなっているはずだから、一人頭大金貨一枚半以上。まあまあの金額になっているな。
「カミラのお陰で思わぬ大きな収入になったな」
「元々ケインにはそれだけの力がある」
と言って喜んでいた。
「グレッグさん。
一つ教えてもらいたい事が……」
「なんだ?」
「コッコーとホルスの居場所を教えてもらいたいのですが……」
「珍しいな、そんな魔物の話を聞くなど……。
そうだな……」
そう言うと、グレッグさんは机にある報告書のような物をペラペラとめくる。
「おっ、あったあった。コッコーは弱い魔物だからここから北に少し向かった森の中で見かけたと聞く。
ホルスも北の森の奥だな。
同じ森に居るらしいぞ、そんな魔物をどうするんだ?」
おっと、同じ森に居るのか。それは好都合。
「ルンデルさんにも言いましたが、飼って卵と乳を得たいと思っています」
「魔物を飼うには、魔物を心底服従させなければいけない。
それが力なのか、心なのかはわからないがそれでも飼うのか?」
グレッグさんが言う。
「私は美味しいものを食べたいんです。
だから飼います」
ルンデルさんは俺を見て不思議な顔をしながら、
「なぜ、ケイン様は卵や乳が美味しい事を知っているのですか?
その歳で食べたり飲んだことがある訳ではないでしょう?」
と聞いてきた。
「それは、私の秘密です。
気が向いたら話しますよ」
俺は誤魔化す。
すると、
「ケイン様、お願いが一つ」
とルンデルさんが聞いてきた。
「何でしょうか?」
「ケイン様がコッコーの卵とホルスの乳を得た時、私の家で私に料理を作ってもらえませんか?」
「それは構いませんが、コッコーの卵は嫌われていると聞きます。
それでも?」
「はい、楽しみにしておきます」
何の確信かわからないがニコリと笑うルンデルさん。
「卵が得られるようになったら連絡しましょう。
それでは母さんが心配していると思いますので……」
「ケイン。それだけの腕があるなら、ギルドで仕事を受けてくれ」
グレッグさんが言った。
「私は自分のためにしか動きません。
今回も木材を得るお金を稼ぐためにオークを討伐しました。
結果、必要以上のお金を得ましたがね。
今後自分の事で都合のいい依頼があれば動くことにします」
自分でも生意気な子供だと思う。
今更だけどね。
俺はそう言うと、
「それでは失礼します」
と言った。
「ああ、ケイン様。
大工たちはどこに連れて行けばいいでしょうか?」
そういや、大工に小屋を作ってもらうんだったっけ。
俺は、家の場所を教える。
「えーっと、その家は鬼神と魔女の家だったと思うのですが」
なんだそのお化け屋敷は……。
「鬼神」は聞いたことがあるが「魔女」とはねぇ……母さんの二つ名のようだ。
「はい、その鬼神と魔女の息子になります」
「えー、あー、そういうことですか。
お恥ずかしい。『鬼神を越えるような』と言ってしまった」
「ルンデル殿。ケインは鬼神であるベルト殿を越えている」
カミラがニヤリと笑いながら言う。
「バカ、言わなくてもいい。
ルンデルさん、これは内緒ですよ!」
「えっ、ああ、わかりました。
心に納めておきます」
ルンデルさんもニヤリと笑って言った。
「私はしばらく冒険者として活動するつもりはありませんので、いつでも家にいらっしゃってください」
俺はそう言うとマスターの部屋を出て家に帰るのだった。