10.夜戦
テントの中に毛布を敷き、軽く横になると気配感知で周囲を確認する。
おっと、まだまだオークは居るみたいだね。
それもさっきの群れより大きく、奥に居るオークの魔力がデカい。
ハイオーク以上だ。
討伐する?
いや、面倒。
あんまり目立つのもな……。
スルスルとテントの扉が開き、カミラが中に入ってきた。
そして俺に抱き付く。
「ケインが足りない」
「ずっと一緒に居ただろうに」
「足りない!」
軽く怒ったように言うと、俺の首に噛みついてくる。
聞きなれたチューチューという音。
カミラはしばらく俺の血を吸った後、少し垂れた血を指で拭い、舐り取る。
そして、
「主よ、この先に居る集団が本体だと思うが、どうする?」
と、聞いてきた。
「ありゃ?気づいていたのか?」
「当然」
フンという感じで胸を張るカミラ。
そして、
「まだ、風上。
オークは鼻の良い魔物。
風向きが変わったら私たちに気付くかも。
百体以上いるオークから、この集団を守る自信は私には無い。
護衛の冒険者も役に立たないだろうし……」
と言った。
「そうか……。
守る者が居ない状態で、俺たち二人のほうが分がある?」
頷くカミラ。
俺は考えると、
「みんなが寝静まったら、行くかね。
ポンコツとはいえ、向こうの護衛も何とかするでしょう」
夜に備え食事の呼び出しがあるまで軽い仮眠をとることにした。
カサリ……カサリ……。
気配を消した足音が聞こえる。
気配感知にはテントに近づく者。
間違いないね。
近寄る者の大分遠い所から
「何でしょうか?」
俺はテントから顔を出すと、
「えっ、気配を消した俺が気付かれる?」
とルンデルさんが雇ったパーティーの斥候役らしき男が驚く。
「そこまで気配が漏れていたら気づきます。
それで何の用でしょうか?」
「あっ、ああ。飯ができた」
男が俺に伝える。
「呼びに来てくれたのですか、ありがとうございます。
おい、カミラ起きろ。飯だってさ」
振り返って俺が言うと、
「うーん、わかったぁ」
と、下着姿で寝ぼけているカミラが現れる。
「お前ら、こんな所で何をやってる?」
そう言う男もガン見だ。
「ああ、カミラは寝るとき下着なんですよ。
カミラ早く服を着ろ」
「おお、人が居たのだな。
すまん」
そう言って、カミラが服を着る。
「カミラが服を着たら行きますので、向こうでお待ちください」
と俺が言うと、
「あっ、ああ。すまん」
そう謝ると男は荷馬車の輪に戻るのだった。
俺たちがルンデルさんの馬車の方に向かう時、ポツポツと野営をするたき火が見えた。
オーク狩りの冒険者たちだろう。
「ルンデルさん食事に招いてもらってありがとうございます」
「ええ、私は助けられた方です。
恩返しもありますので、遠慮せずに食べてください」
言葉通り俺たちは遠慮せず食べる。
やっぱり、野営の練習にはならないな。
しかし、提供された食事は美味かった。
全員の食事が終わると、
「それでは、夜間起きている順番ですが、ケイン様のパーティーが最初。
あとはうちのバカパーティーに二人ずつ起きてもらいます。
バカパーティーは無いだろうに……。
「わかりました。私たちはテントの前で監視します。
多数の魔物が来るようでしたら、起こすようにしますね」
そう俺が言うと、
「よろしくお願いします」
とルンデルさんは頭を下げた。
食事も終わり、商人たちは寝に入る。
護衛のパーティーも仮眠に入っていた。
「ケイン、あの青の星が真南に来るまでが我々の担当時間」
カミラが言った。
青の星は季節にかかわらず同じ時間に南中するらしい。
そのため、冒険者の時間確認に用いられていると言う事だ。
俺たちは少し離れた自分のテントで気配を探る。
気配感知にかかったオークたちは寝ているのか動いていなかった。
夜も更け、青の星が真南になるころ……。
「すみません、俺たちの時間が終わったみたいなんで、監視をお願いします」
俺は冒険者たちのテントに声をかけた、
二人の男があくびをしながら出てくる。
「おう、わかった」
そして、俺のテントを見て、
「お前はいいなぁ。
あんな美人と一緒に寝られて」
男の一人が愚痴っぽく言う。
「それはそれで、結構面倒なんです。
それではお願いしますね」
そう言って、俺はテントに戻っていく。
そして暫くテントで過ごした後、冒険者たちに気付かれないように俺とカミラはテントを出た。
気配感知でオークが集まると思われる場所で高い木に登り俯瞰で確認すると身長三メートル越え、中には四メートル越えのオークが寝ている。
周りには乳房のあるオーク。
メスらしい。
ハーレムのようだ。
四メートル級は、ものすごくデカい剣を持っている。
「凄い数だな」
「ああ、私もこの数は見たことが無い。
主よどうする?」
「ちゃんと歩哨も居るんだ。
この群れは統率されてる。
下手に見つかると、全てを相手にしなければならなくなりそうだ」
俺は顎に手を当て考え。
「そうだなぁ、広範囲の魔法でオークたちを痺れさせる。
あとは、死に至る攻撃だね。
んー、さっきの水での窒息かな。
水の中では声が出せないから見つかることも無いからね」
「私の出番がない」
「カミラは俺を守るのが仕事だろう?
だったら、俺の傍に居ればいい」
「しがみ付いてもいい?」
「ああ、大丈夫」
俺はそう言うと、カミラは早速後ろから抱き付いてきた。
俺は、寝ているオークたちを包み込むように魔法を展開すると、震えるようにオークは痺れ、固まった。
水魔法の水球でオークたちの頭を包み溺死させると、討伐部位を切り取り、オークたちを収納魔法で仕舞う。
すると、真っ暗な森がそこにあるだけになった。
次の日の朝、周囲を気配感知で確認してみたが、魔力の小さな魔物が居るだけ。
昨日討伐したオークたちが本隊だったようだ。
俺とカミラはテントを畳み、火の始末をする。
そして馬車の方に向かうと、
「ケイン様、昨日のオークは収納されていたようですが、少々分けてもらえませんか?
ここでオーク狩りをしているのは知っていましたが、オークの体は大きく、肉として冒険者ギルドに持ち込まれている数は少ないようです。
その点ケイン様は無傷の上、別次元に収納され痛むことも無い。
つまり、最高の肉が取れます」
ルンデルさんが揉み手をしながら俺に言った。
「いいですよ。
でも、今出しても邪魔になるでしょう?
それでしたら王都に帰ってからでもいいですか?」
そう言うと、
「はい、それでお願いします」
そして、ルンデルさんの揉み手が加速すると、
「できればケイン様の狩られたオークを私どもで独占させていただいてもよろしいでしょうか?買取りについては勉強させていただきます」
と、聞いてきた。
「こっちも量が多くて冒険者ギルドに出すのも面倒でした。
引き取ってもらえるなら助かりますよ」
「そうですね、あの量だったら捌くのも大変です。
お任せください、解体も私のほうで行います」
結局、俺たちが狩ったオークはルンデルさんの店に卸すことになる。
読んでいただきありがとうございます。