112.米から始まる……
イロマンツの村周辺の山岳地帯では、コーヒーやカカオの生産も始めている。
カカオについては使用量が増えているため、アルバネーゼ伯爵との交易は継続中。
チョコレート自体もバレンシア王国では有名になっており、高級贈答品になっている感じ。
貴族からも材料や製法の質問があるようだが、王に壁になってもらっていた。
王女も気に入っているお陰で、材料も製法もルンデル商会が独占できているようだ。
俺もルンデルさんもホクホクである。
そして、米ですが……。
稲穂の中に黒い塊を見つけました。
稲麹?
やた!
俺が飛び跳ねて喜んでいると、興奮を抑えて周りを見てみると、ミアが不思議そうに見ている。
「どうしたのでありんすか?」
ミアがスルスルと滑るように近づいてきた。
「ん? ああ、麹という菌の塊だ。
これがあると、いろいろ美味しいものができる」
「美味しい物?」
「酒や調味料だね」
稲麹を集めて、紙に包んで置いておいた。
米の収穫はハーピーたちの出番である。
エアスラッシュを地面ギリギリに水平に打ち込み、それをコボルド、ラミア、ミノタウロスなどの手元が器用な魔物が拾う。
稲藁を使って結ぶ方法も教えた。
昔の稲刈りのようだ。
長い木の棒を使い、波佐掛けをする。
日の光を浴びて、乾燥させた。
ハーピーたちが風を当て、乾燥を促進させたようだ。
そして、図に書いて千歯こきをルンデルさんに手配してもらい、魔物の力で脱穀。
本来ならばスッゲー精米しなきゃいけないのだが、そんな技術は無い。
とりあえずは、木臼を使って籾摺りと精米。
保存した稲麹を種麹にして米麹を作成。
何をしているのかを見に来たトレントだが、トレントたちは菌にも強いらしく、
「チガウ、モット暖カク。
菌ガ寒ガッテイル」
とか、
「コノママデ」
とか、
「暑スギル、菌ガ死ヌ」
とか、アドバイスをしてくれたお陰で見事な米麹を作ることができた。
リアルもやしもん?
デカい蒸し器で蒸した後、水と一緒に樽に入れる。
後は発酵を待つだけ。
デカい樽もないので、ルンデルさん経由、特注で作ってもらった。
うろ覚えだったにもかかわらず、トレント杜氏による管理をしっかりとして、出来上がったどぶろく。
酒粕の残るどぶろく。
魔物たちの管理のお陰である。
コップに注いだ一杯。
口に含むと……うめ―――――!
久々の味。
芳醇な感じ。
少しアルコール度数が高い感じ。
お猪口じゃないのは仕方ない。
トレントたちを引き連れ、
「どうでありんすか?」
ミア不安げに聞いてきた。
表情が読めないトレントたちだが、不安げに見える。
「美味しいよ。
果実のような味」
俺が言った瞬間に、トレントたちの枝が上がった。
ガッツポーズっぽい。
村の魔物たちに酒を回す。
そして、みんなで乾杯をするのだった。
とりあえず二樽。
一樽は村用。もう一樽は試供品?
加熱処理は必要だろう。
ルンデルさんに確認してもらった酒。
「ワインとは違うお酒ですね。
果物のような甘い味わい。
ドロリとした感じ。
これならば……」
早速、思い立つところに売り込みに行くようだ。
さて、麹ができたのなら、味噌醤油の出番でしょう。
次は美味しいみそ汁や焼きおにぎりを楽しみにしましょうか……。




