111.トクンプの街
えー、俺、冒険者です。
まあ、最近冒険者になったばかりの新人なんですけど、この街のダンジョンは実力ごとに階層が分かれていて、「二十五階ぐらいまでは順を踏めば行ける」と言われています。
お陰で、自分に合った魔物が見つけられて、徐々に育っているのがわかります。
冒険者の街トクンプの冒険者ギルドは賑わい、素材などの売買が盛んになっています。
まあ、そのお陰で、トクンプには更に冒険者が集まり、その冒険者に物を売る物だけでなく、冒険者を食い物にする者も現れている訳で……。
影で酒、女、博打などが流行り、それを取りまとめる者が必要となっていました。
ちなみにいかさま博打に一度やられたことがあります。
「いかさまだ!」
とは言ってみたものの、結局証拠はなく、ボコボコにされたのを覚えています。
そんな、奴らが増え始めた頃、一人の美しい女性が現れたのです。
街の一番大きな屋敷に住みついたその女性。
数人の女性を手足のように使い、駐在する騎士と連携して瞬く間に街の裏を取り仕切るようになりました。
表ではルンデル商会に居る女主人。
愛想よい笑顔を我々に振りまきます。
しかし、従わない者たちは、
「この街で人を殺さない。領主とそれに連なる者に不利になることをしない」
という約束をして解放しているそうです。
駐在所からヘコヘコしながら出て行く者たちを見たことがあります。
しかし、それでも反抗する者は、証拠を炙り出され、街に居られなくなった者も居ます。
何十人もの手下が居る組織が一晩で居なくなったことも……。
俺はそんなことしないし、女主人と接点もありません。
ただ、組織が潰された日に、口元に血をつけた、はちきれんばかりの筋肉の男が歩いているのを見かけたとか、女主人の指先から光る糸が飛ぶと、組織の者の首が飛んだとか、噂は絶えません。
俺に声がかかることはないと思うけども、あまり相手したくないですね。
死にたくないです。
気をつけないと……。
たまに、少女がその女主人と話しています。
「アーネ姉」
と呼んでいるところを見ると、似てはいないのですが、姉妹のようです。
街の裏路地でそのその少女を攫おうとした男たちが、ワンパンで吹き飛んでいるのを見ました。
「一向に悪い奴は減らんなぁ」
と見かけに合わない言葉を使っています。
何者なのでしょうか?
一度領主が来た時には女主人が甘えるように抱き付いてるのを見ました。
領主愛人ですか?
あんな美人を?
うっ羨ましい……。
領主も元冒険者だそうです。
俺も頑張ったら、ああなれるのでしょうか?
お陰でこの街は住みやすく、周囲の村から食料も補給されるので食費も安い。
まだまだルーキーな俺にとっては住みやすい街。
いつかは、あんな女性を……。
俺は遠くを見ます。
あれ?
えーっと、パーティーメンバーに睨まれています。
俺が女主人ばかり見るからだそうです。
うちの魔法使いは、幼馴染。
「え? お前、幼馴染だから、俺とパーティー組んでいるんじゃないの?」
と聞くと、「バシーン」とビンタされました。
そんな様子を見ていたのか、女主人が近寄ってきます。
「おっ俺に用事ですか?」
出来るだけ焦っていないように声をかけました。
「あのね、あの子、幼馴染だけじゃなくて、あなたが好きだからついてきてるのよ?
考えてもみなさい。魔法使いであれば、あなたと組まなくても、他のパーティーから声がかかるの。
あの子、全部断ってるんだから」
女主人が言いました。
「何でそんなことを?」
「私はこの街のことを全て把握しているの。
ちゃんと謝れば許してくれる。
さあ、早く行って!」
言われるがまま、俺は幼馴染みの所に行って謝りました。
「わかったわよ……許してあげる」
許してくれたようです。
そして、
「お前、俺のこと好きなの?」
と聞いてみました。
「バッ、バカ!
そんなはずがないでしょ!」
よく見れば頬を赤らめている。
幼馴染に胡坐をかいて、気付かなかった俺。
「気付けなくてごめんな」
というと、
「もう……『いいわよ』って言ったのに……。
許してるんだから良いじゃない」
少し嬉しそうにする幼馴染。
そして、幼馴染の手を握ると、
「じゃあ、今日は三階に行こう」
とダンジョンへ向かう俺だった。
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