106’.わが村6
えーっと、村人です。
ラムル村のアベイユの群れが飽和状態になってきました。
分蜂というのが進んで、周囲の花畑では賄いきれなくなっているようです。
それでも、周囲の花畑から何とか蜜を運んできているようです。
村長に相談すると、領主様に話をしたようです。
「領主様からお前に頼みがあるらしい。
イロマンツの村に行ってもらいたいという事だ」
「イロマンツの村……ですか?」
聞いたことがありません。
その事に気付いたのでしょう、村長が、
「ああ、領主様が新しく得た土地に作った村だという事だ」
と言った。
確か、ファルケ王国との戦争に勝ったと聞きました。
その時に得た土地なのでしょう。
「少々特殊らしいのだが、報酬も出るという。
お前がこの村のアベイユを取り仕切っているのは領主様もご存じだ。
そこで、お前に白羽の矢が立ったのだろう」
「そうですか……それならば仕方ありませんね」
確かに、私はこの村のアベイユを取り仕切っています。
お陰で給料も高く、働きがいもあります。
娘もできたので、ちょっと離れたくはありませんが、少しは領地に貢献しないと……
そして、話を聞くと、イロマンツの村の引っ越しの付き添いという話だった。
それならば……。
この地のアベイユの女王からは、既に説明がしてあるようで、
「今度の土地は暖かいらしいぞ?」
「花はどんな物があるんだろう」
そんなことを話すアベイユと共にアベイユの巣を積んだ馬車が洞窟を行きます。
えっ……。
そして、洞窟を抜けると、見たことが無い土地。
「お前がご主人様の言っていた男だな」
この洞窟の秘密を他人に言えば、お前は殺されるかもな……」
そう言って体が大きな……色々大きな女性騎士が現れました。
ミラグロスという領主様の婚約者だそうです。
地図で見れば凄い距離離れた場所。
それを洞窟でバイパスしている。
こんなことができることがバレれば……。
言いません! 家族にも言いません!
墓場の中まで持って行きます!
「それでは行くぞ!」
騎士様に守られ、アベイユたちと共に、イロマンツの村に移動を始めた。
そんなに時間もかからずに、レンガ造りの村が見えてくる。
そこに立つのは……えっ? ミノタウロス? ラミア?
コボルドも居る。
私、こんな魔物と戦っても負けます。
「ミア、連れてきたぞ。
ご主人様から話があった、ラムル村の男だ」
「あちきはミア。
そんなに怖がらなくても襲ったりはしんせんよ。
これでも、侯爵の婚約者でありんすから。
それで、これがアベイユの巣でありんすか?」
大きな……ミラグロス様と同じく大きなラミアがニコリと笑って私を見た。
えっ、うちの領主って手あたり次第?
ミラグロス様が私の心を見透かしたように睨む。
余計な事を考えないようにしよう。
「ええ、これがアベイユの巣です。
この箱を広場に置いておけば、アベイユたちが周囲の花から蜜を集めてきます。
会話も可能なので、アベイユたちが住み良いようにしてやれば、蜜の量が増えたりします」
「そうでありんすか」
ミア様が頷いていた。
私は、今回のアベイユのリーダーに、
「どの辺がいいかな?」
聞いてみた。
「そうですね、日当たりとかを考えれば、あの辺でしょうか……。
壁が風よけになっていますし……。
一度あの場所に置いていただいて、周辺の花を探すようにします。
出来れば、この周辺に花畑を作っていただければ、今後群れを増やすことも可能ですね」
「うちとあまり変わらないか……」
「そうですね」
アベイユのリーダーが言った。
「ここにアベイユが入った箱を」
私が言うと、知らない間に現れていたミノタウロスやコボルドが箱を移動させていた。
「ここの村長をやっているタウロスだ。
花を咲かせればいいというが、どうすれば?」
タウロスというミノタウロスが聞いてきた。
「主に、花の種を採取して、時期を見て植えています。
薬効がある花なんかを植えれば、その薬効がある蜜を作れると聞きましたが、我々の知識では無理でした」
「ほう……」
牛の顎に手を添え考えるタウロスさん。
「こちらには草木に詳しいトレントも居る。
そう考えれば、そう言う薬効の草を探して周囲に植えれば……」
魔物って、こういう考え方するんだ……。
人間と一緒だな。
「どうした?」
「いや……私たちと考え方が近いんだなって……」
「そうか? ああ、ケイン様に感化されたんだろう」
タウロスさんの口角が上がる。
「今、私はこの村を栄えさせなければいけない。
そのためにどうすればいいか考えれば、あなたが言った情報を上手く使い、我が村の者を使って、ただのアベイユの蜜ではない物を作ればいいかと思ったわけだ」
タウロスさんはフフンと鼻を鳴らしていた。
二、三日、イロマンツの村に滞在し、世話の仕方や蜜の回収方法を教えると、私はラムル村に帰る。
娘に、
「父さんはミノタウロスに会ったぞ」
と言うと、
「嘘!」
と一蹴されてしまう。
娘よ……。
嘘じゃないのだぞ!
でも、この子が大きくなったら、娘も連れてイロマンツの村に行ってみたい。
私の嘘を撤回させるために……。
娘が少し大きくなって、タウロスさんにびっくりする姿を思い浮かべる。
そんな我が娘の姿を想像し、やっぱり可愛いと思いながら、口角を上げる私が居た。




