表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/130

9.申し出

 後ろの荷馬車からは護衛の冒険者らしき男が弓で攻撃しているが……ダメだなこりゃ、役に立っていない。

 逆に怒らせているようだ。

「オークが荷馬車を追っかけてるな」

 カミラが手で庇を作り遠くを眺めていた。

「仕方ない。

 とりあえず、助ける?」

 俺が言って走り出すと、

「わかった」

 と言って、カミラも走り出す。


 あれを一度に相手するのは手間だ、何とか楽に倒せないかね?

 あいつらも呼吸して活動に必要な酸素を得ているなら、頭を水で覆われれば呼吸できなくなって溺死するかな?


 俺は手に魔力を込め、水魔法でオークたちの頭を囲うように水球を作る。

 すると水球の中でオークたちがもがきはじめた。


 走って酸素が要るところで水の中に突っ込まれるんだ。

 息ももたないか……。


 しばらく見ていると、オークがゴボリ吐息を吐く。

 そして動かなくなった。


 ん、魔力の反応が消えた。

 全部溺死したみたいだね。


 ふと視線が刺さる。

(ぬし)は規格外。

 私の出番がなかった」


 ありゃ、カミラがちょっと拗ねたかな?

 いいとこ見せたかったとか?


「カミラがいるから安心して魔法を使える。

 ありがとな」

 と俺が言うと、カミラの機嫌がみるみる直っていった。


 チョロいぞ、カミラ。


 俺たちがオークを収納魔法で仕舞っていると、さっきの荷馬車が戻ってくる。

 そして、馬車の御者台から商隊の隊長らしき恰幅のいい男が降りてきて、

「すごいですね、あの数のオークをあっという間に……。

 そしてその収納魔法」

 と、声をかけてきた。

 手には多くの指輪。

 魔力を感じる。

「そちらも大変でしたね」

「えーっと、リーダーは?」

 カミラだと思っていたのだろう。

「一応僕ですね」

「そうだ、リーダーはケインになる」

 カミラも同意する。

「これは失礼しました」

 恐縮する男。

 額から汗が出始めた。

「いいんです。

 私は十歳の子供です。

 二人のパーティーで、リーダーはどっちかと聞かれたら、大人を選ぶのは当然です」

「そういっていただけると助かります」

 額の汗を拭きつつ男は言った。


「それにしても、どうしてあの数のオークがこの荷馬車を襲ったのですか?」

「後ろの冒険者たちが一匹のオークを小遣い稼ぎだと襲ったのです。

 しかし仕留めきれずに暴れた。

 それに気付いた周囲のオークたちが追いかけ始め、あの有り様です。」

 男は後ろに乗った冒険者たちを睨み付けていた。

 その視線に気付き、申し訳なさそうな冒険者たち。


「私の名はルンデル。

 王都で商売をしております」

 深々と頭を下げるルンデルさん。

「私の名はケイン。

 こっちが私の護衛のカミラになります」

 俺とカミラは頭を下げた。

「護衛?

 貴族様か何かで?」

「いいえ、ただの腐れ縁です。

 護衛ということで一緒に住んでいます」

 と俺は説明する。


「提案があるのですが?」

 ルンデルさんが聞いてきた。

「何でしょう」

「すでに日も傾きかけ、このまま王都に向かっても閉門時間に間に合いません。

 そこでこの場所で夜営をしようと思います。

 そこで夜営時の護衛と、明日の王都までの護衛とを引き受けてもらえないでしょうか?」

 揉み手で聞いてくるルンデルさん。

「カミラ、どうする?」

 俺はカミラに聞いた。

「私は構わないが……。

 思う以上にオークを狩ることもできたし、明日帰ったとしても問題はあるまい」

「こう言っていますので、引き受けます」

「そうですか、ありがとうございます。

 当然ですが食事はこちらで準備させてもらいます。

 後でお呼びしますね」

 そう言うと、ルンデルさんは荷馬車の方に戻っていった。


 馬車三台で周囲を囲み、中央で焚き火が燃えている。

 シチューだろうか……いい匂いがしている。

 俺たちは囲みの外にテントを張り、その横に焚き火を起こす。

「ケイン様もあの輪の中に入れば?」

 ルンデルさんが俺たちに近づいてきた。

「いいえ、遠慮しておきます。

 先に依頼を受けた冒険者が中に居ればいい。

 私たちは外で魔物の監視をします。

 それに元々、夜営の訓練ついでにこの場所に来ました。

 食事だけでも甘えています。

 だからこの位置でいいのです」

「夜営の訓練?」

「はい、私は騎士になるつもりです。

 今後王立の学校に入れば、夜営の訓練があると父は言いました。

 その練習も兼ねてここに来たのです」

 ルンデルさんは首を捻る。

「先程は魔法で倒しましたよね」

「使いましたけど?」

「剣も使えると?」

「そうですね」

 そう俺が答えると、

「剣の腕は私より大きく勝ります」

 とカミラが言った。


 するとルンデルさんは、

「カミラ様の冒険者ランクは?」

 と聞いてきた。

「Bですね」

 とカミラが答える。

「ケイン様の冒険者ランクは?」

 次は俺だ。

「Dです」

 と答えた。

「突然ですが、あなたの援助をしてもいいでしょうか?」

 とルンデルさんがいきなり言う。

 さらに揉み手だ。


 何かに気付いた?


「その歳でケイン様はDランク。

 更にはカミラ様の腕を越える。

 ギルドの水晶での判定が赤か虹。

 滅多に居る人材ではありません。

 後に鬼神を越えるでしょう」

「鬼神」つまり父さんの二つ名を聞き、クスクスと笑うカミラ。

 少し恥ずかしい俺。

「どうかしましたか?」

 ルンデルさんは俺たちを見て不思議そうな顔をする。

「いいえ、なにも」

 俺はそう返した。

「それでは……そんな有能な若者の援助をしておけば、私にも何か良いことはあるでしょう。『先行投資』と言うものです」

 俺は少し考えると、

「そうですね、でもお金の援助はいいです。

 知識の援助をしてくれると助かります」

 と言った。

「知識の援助?」

「私は今日始めて王都から出たような若造です。

 ルンデルさんに比べれば、全然知識を持っていません。

 だから私が困ったときにその知恵を貸してもらいたいのです」

「お金よりも知識ですか……畏まりました、両方の援助をさせていただきます」

 こうしてルンデルさんは俺の援助をすると約束すると、荷馬車の輪の中に戻っていくのだった。


読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 一緒に居た冒険者 護衛依頼だったのでしょうか? 依頼なら最低だな。 依頼者危険にさらして 小遣い稼ぎもないでしょう。 小遣い稼ぎ。 きっちり倒せる人ならそうだろ 集団で釣ってしかも倒せんとか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ