99.従者と騎士
「さて、我が国の恥ずかしい所を見せてしまったようで申し訳ない。
この醜態を忘れてくれるなら、好きな女を連れて行っていい」
そのために、両脇に揃えていた訳か。
年齢層が広いのも頷ける。
納得する俺。
「誰でもいいって訳じゃないんですよね。
たまたま出会って、たまたま好きになる。
そこに居る人はそうじゃないですから……」
するとケイン様が俺を見た。
「そうですね、国王が言う通り、女性ならば誰でもいいというのなら、エレンと言う騎士が居ました。
私たちの世話をしてくれた騎士です。
私の従者が、その騎士を気に入ったようです。
その騎士を貰いましょうか」
「従者が騎士にだと?」
「関係ないでしょう?
うちの従者は、そちらのアルベルティ・アルバネーゼ伯爵よりも強いのですから。
それに本来は、女性は物じゃありません。自分の方を向いてもらって連れてくるものだと思いますよ。
まあ、今までの流れで、エレンとフィリベルトの仲がいいので、問題がないのであれば、我が家の騎士になってもらいたいだけです。
フィリベルトも、そのうち騎士になるでしょう。
その後、妻も必要になりますし……」
俺を見てニヤニヤするケイン様。
やられた……。
そりゃ、エレンは気に入ってはいるけども……。
他国の騎士をなんて……。
「良かろう。
確かエレンには両親は居なかったな。
家の格も低い」
国王が言った。
確かに、エレンは騎士団の中でも浮いた存在だったが……。
「そりゃ良かった。
我が家の新しい騎士には家の格などは関係ありません。
喜んでいただいて帰ります。
ただし、向こうが嫌がるのであれば、諦めます」
ケイン様は笑いながら言うのだった。
「ケイン様」
「どうした?
これで、お前も俺と同じだな」
「それを狙っていたのですね?」
「フィリベルトは、俺を守ったってことにもなる。
それに、エレンの事を気に入っていたのだろ?
楽しそうに話をしていたじゃないか。
まあ、俺たちが求めても、向こうが断るかもしれない。
それは帰るころにわかるさ」
ケイン様が言った。
俺たちが出発する時には、見送りの兵士などほとんどおらず、アルベルティ・アルバネーゼ伯爵が挨拶に来た程度。
ファルケ王国が準備してくれた馬は、そのまま貰ってもいいことになった。
乗りこなせる者が居なかったらしい。
「私は戦であなた達と戦いたくない。
一騎当千が二人。
いや、鬼神さえ居る砦をどうやって攻められましょう?
屍の山を築くのがオチです」
そう言っていた。
アルベルティ・アルバネーゼ伯爵、ファルケ王国の武では一番らしいので、心は折れたようだ。
ケイン様は話しを聞きながらウンウンと頷いていた。
「私どもも、襲われない限り戦う気などないのです。
現在の国境で満足していただけるのなら、関を開き交易したいぐらいです」
ケイン様が言った一言に反応し、
「では、我が懇意にしている商人を紹介しても?」
アルベルティ・アルバネーゼ伯爵がケイン様に言った。
「それはいいですね。
壁の砦まで来ていただければ、話を通しておきましょう」
「間者が入るかもしれませんが……」
「私は今、あなたを信用しましたので、それで裏切られるならそれまでですね」
「それほどまでに……」
アルベルティ・アルバネーゼ伯爵が感動したのか涙を流す。
そして、
「それでは、そのように取り計らいます」
と頭を下げた。
そして、俺たちが帰るとき、エレンは馬を曳いて現れる。
「私も間者かもしれませんが、いいのですか?」
赤い顔をしてケイン様に聞くエレン。
間者多いな。
「んー、その時はフィリベルトに責任を取ってもらうからいいよ」
「えー、俺っすか?」
「嫌なのか?」
ケイン様が問うと、俺を覗き込むエレン。
「いや……そうじゃないけど……」
そう言うしかないだろ?
「とりあえず、エレンはお前が世話しろ。
一応、ラムル村の屋敷に部屋も準備してやる。
これで、俺と同類ができた」
ウンウンと頷くケイン様に、
「同類とは?」
聞くエレンに、
「動くたびに婚約者や愛人が増える人のことらしい」
俺が言うと、
「それは……当たり前なのでは?」
エレンが言う。
「皆がそうだったらいいんだけどね」
ケイン様が呟いた。
「ケイン様の場合、カミラ様、リズ様、ライン様、レオナ様、アーネ様、ミラグロス様、ミンク様にアネルマ様、そして、ミア様。
多すぎでしょう?」
「まっまあ……確かに。
要はそれだけの方を満足させればいいとは思います」
「まあ、満足させてるんだろうね。
だから、揉めない。
カミラ様がバランスを取っているんだろうし」
確かにすげえよなぁ……。
「私がバランスを取ればいいのですか?」
エレンが俺の顔を見て言った。
「えーっと」
俺はケイン様を見る。
「私はフィリベルトの妻になればいいのですよね?
その予定で、私はケイン様に呼ばれたのでは?」
エレンもケイン様を見ると、
「その通り」
ケイン様が言う。
「では、そのように。
末永くよろしくお願いします」
「えーっと、早くない?
俺まだ従者だし」
「それはですね……。
私は従者だからフィリベルトを好きになった訳じゃないんです。
王都への旅の間、私を助けてくれたフィリベルトが好きになったんです。
あのまま、ファルケ王国に居ても、低い身分の私は、あのまま独り者だったり適当な貴族の後添いでしょうし。
私にとって、ケイン様の申し出は良かったんだと思います」
エリスが笑った。
こんな感じなのね……。
断れない雰囲気。
まあ、断る気もないけど。
「俺の方もよろしくお願いします」
俺が頭を下げると、
「人のイチャイチャを見ても楽しくない。
さっさとバレンシア王国に帰るぞ」
ケイン様がライアンを走らせ始めるのだった。




