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98.ファルケ王国の王宮

 再びフィリベルトです。

 カミロ・グリエゴ公爵の馬車はトビケンの王宮の中に入った。

 侯爵は馬車を降りると、すぐに王宮の中に入っていった。

 そして、俺とケイン様は兵士に周りを囲まれる。


「お前がケイン・ハイデマンだな。

 私はアルベルティ・アルバネーゼ伯爵。

 戦場で負けたことが無い。

 王への謁見の前に、私と戦ってもらおう」

 ハゲでぶよぶよの体の男が現れた。

「ハート様?」

 ケイン様が呟く。


 何だそりゃ?

 それにしても、耐えられる馬は居るのか?


「んー、一つ聞きたいんだけど、模擬戦だよね」

 ケイン様が聞く。

「若造が……。

 しかし、模擬戦でも人は死ぬことが有るが、それでもいいか?」

「死ぬのは嫌なので、代理を立てます。

 俺の従者のフィリベルト。

 こいつに勝ったら戦いますよ。

 こいつに勝てなければ、戦う気にもなりません」

「言ったな!

 瞬殺してくれるわ!」

 顏を赤くしてアルバネーゼ伯爵が言った。

「梅干し。

 ブッチャー?」

 ケイン様がまた訳の分からない事を言う。



 俺たちは馬を降りると、訓練場のようなところに通された。

 高貴そうな者たちが観客席に立っている。

 見せ物にされるようだ。

 ニヤニヤしているのは、アルバネーゼ伯爵っていうのが勝つと確信しているかららしい。


 でも、正直なぁ……。


「ケイン様、どの程度にすれば?」

 俺はケイン様に聞いた。

 あまりやりすぎるのも良くはないと考えたからだ。

「お前、エアスラッシュ使えるか?」

 と聞くケイン様。

 エアスラッシュとは、剣の先に真空波を作り、遠くの者を斬る技術。

 ある程度の技量があれば、魔力を使わなくても使えます。

「まあ、それぐらい使えないと、あのダンジョンじゃ勝てませんから」

 俺はケイン様に答えた。

「それであのデブの両足を斬れ。

 切断してもいい。

 俺が戻す」

 ケイン様の指令。


 ただ、ちょっとやりすぎじゃない?

 まあ、一応上の言うことは絶対。

 ケイン様は治療魔法が使える。

 だから問題ないのかね?


「はいはい……。

 このままじゃ、俺が恐れられますが……」

「従者が強くても、俺は恐れられるだろ?」

 とのこと。

 槍を持って訓練場に行くときに、

「頑張って!」

 とエレンが声をかけてきた。


 んー、女性に応援されるのもいいな。

 はっ……これがケイン様が頑張る原因?


 俺は槍を持つと、デブの前に立った。

 デブも槍らしい。

 体の大きさから、リーチが長いらしいが、

「始め!」

 の声で、いきなりエアスラッシュを使う。

 デブの脛の部分で両断され、デブはそのまま倒れる。

「足が! 足がぁ!」

 大量の出血で血だまりができ始めていた。


 唖然とする兵士たち。

 こんなに一瞬で終わるとは思っていなかったのだろう。


「お前ら何してるんだ!

 助ける気は無いのか!」

 ケイン様は飛び出すと、重そうにデブの足を持ち治療魔法でつなぐ。

 今度はデブが唖然としていた。

「大丈夫ですか?

 私の従者が手加減を誤り、怪我をさせてしまってすみません」

 ケイン様がデブに言った。

「いや……」

「模擬戦でも人が死ぬなどと言われ、少し緊張したのかもしれませんね。

 フィリベルト。謝りなさい」

 ケイン様の口角が上がっている。

 これは、嫌でもやれという事なのだろう。

「すみませんでした。

 本来ならば、骨折程度で済ますところを、切断などと……」

 俺が謝ると、

「えっ……ああ。

 君は私に負けるとは?」

「思っていませんよ?

 私が負けるのは、ケイン様の周りに居る者たちだけです。

 そのために鍛えていますし、ベルト師匠に鍛えられてもいますから」

 ニコリと俺が笑うと、何も言わずデブは脂汗を流すのだった。


 俺たちはその後謁見の間へ。

 俺たちが中に入ると、普通の男が居る。

 ファルケ王国国王、ペルリ・ファルケ。

 温厚そうな顔だが、玉座の周りに半裸の女性を従えていた。

 これが王の威厳というやつらしい。


 大臣らしき男が俺たちを紹介すると、

「お前がケイン・ハイデマン伯爵か?」

 国王が聞いて聞いた。

「ええ、そうです」

「メルカド伯爵をその下に従えたとか?」

「まあ、カミロ・グリエゴ公爵が無理難題を言っていたお陰で、簡単でしたよ?

 無償というのは難しいにしろ、乗っ取りと体の提供はやりすぎたんじゃないでしょうか?」

 ケイン様が言うと、

「私はそんなことはしていません。

 ケイン・ハイデマン伯爵の作り話です!」

 カミロ・グリエゴ公爵が汗をかきながら否定する。

 表立って言われるとは思っていなかったようだ。

「恩を着せずに、普通に兵を貸し出すのならば、メルカド伯爵はそのままあの場所でバレンシア王国の壁になっていたと思いますが?

 それを拒否するほどの何かがカミロ・グリエゴ公爵との間にあったと思えるのですが。

 貴族の娘とは言え、自分が望む男の所に行きたいと思うようです。

 結果、カミロ・グリエゴ公爵よりも、俺の方が良かったようですね」

 ケイン様がニコリと笑って言った。


「グリエゴ公爵よ。

 申し開きは?

 私の方にも、そのような話が届いているのだが……」

 あっ、これ、事前調査済みだ。

 逃げ場がない奴。

「私はお前の叔父だぞ?」

「だから何です?

 そのせいで、メルカド家が離反しました。

 それも、攻め取ろうにも壁ができており、無理です?

 叔父上も知っているでしょう?

 壁を越えてきたのですから……。

 あの壁を超えるために何人の兵士が必要ですか?」

「ファルケ王国の力を使えば……」

 言葉が弱くなる。

「何をバカなことを言っているのです。

 うちのアルベルティ・アルバネーゼ伯爵が従者に一撃ですよ?

 それよりも強いというケイン・ハイデマンの配下も居るのです。

 どうやって、あの壁を抜くのですか?」

「それは……」

「叔父上。

 勝手なことをしないでください。

 バルトロメ・メルカドの仇討は考えていたのです。

 しかし、今回のことで、あなたを取り戻すために金と兵糧を払うことになり、兵は維持できても兵を動かすことはかなわなくなりました。

 このお金は、民が我々に預けた税金です。

 それを、バレンシア王国のために使ったのです」

 正論を言われ、カミロ・グリエゴ公爵は何も言えなくなっていた。

「叔父上の処分は後にします。

 覚悟しておいてください」

 国王がそう言うと、カミロ・グリエゴ公爵の両脇に騎士がつき、連れて行かれるのだった。




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