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94.お泊り

 食事が終わり、暖炉があるリビングで、再び降り出した雪を見ていた。

「さて、そろそろ帰りますか……」

 俺が言うと、

「さすがに、こんな中、帰れとは言わない。

 馬車も出せないからな。

 こちらから、伯爵家に連絡を入れておく」

 クレール様が言った。

「それならば、ミンクに連絡をしますのでご安心ください」

「ミンクとは?」

「お父様、カイザードラゴンよ。

 あの指輪でミンクちゃんに連絡が取れるの」

 ラインが説明する。

「まあ、そういう事なんで……」


「ミンク、ラインの所に泊まるってカミラに言っておいてくれ」

 と念じると、

「畏まった」

 という返事。

 そして、

「カミラ(ねえ)が『ラインとごゆっくり』だって」

 という意味深な返し。

「承った」

 ハイハイ……。


「それでは、客室を準備しておきましょうか」

 ミーナ様がメイドに指示を出した。

 スッとメイドが下がる。

 部屋の準備に向かったようだ。


 別のメイドが出した紅茶で温まっていると、ラインが隣に座って体を預けてきた。

「まあまあ……」

 ミーナ様が言うと、

「あとは若い二人で……」

 居座ろうとするクレール様と興味津々なハンスを連れてミーナ様が去った。


 今更お見合い?


 クレール様が悲しい目をしているのは、自分からラインが離れるから?

 いや、今夜はミーナ様に寝かされないから?

 敢えて再び言っておこう……頑張れ……と。



「ケイン~」

 あっ……酔ってる……。

 そう言えば、ラインがワインを飲んでいたな……。

 今度はミーナトラップ?


「ちゅー」

 あー、居たなぁ……。

 飲んだらキス魔になる奴。

 あっ、抱き付いてきた。


「部屋の準備が出来ました。

 ライン様とご一緒にどうぞ」

 という事らしい。

 ラインを抱き上げて、メイドの後ろを行くと、既に準備された客室

 意外と広い。ちゃんと風呂も準備されていた。

「部屋にある、ベルを鳴らしていただければ、すぐに駆け付けますので。

 ごゆっくりどうぞ」

 と言って、意味深に笑うと、メイドは去っていった。

 ちゃんとわかって言っているらしい。

 まあ、荒れたベッドの片付けとかもしたことがあるのだろうな。


 ラインはというと……。

 あーあ、寝たよ……。

 ミーナ様の仕込みは完璧でも、ラインがこれじゃね。

 寝込みを襲う気も無いし……、風呂入って寝るか……。


 何もせず、ラインの寝顔を見ると寝るのだった。



 日が変わったころ、

「こら!」

 コツンとおでこを小突かれて起こされる。

「なに?」

 ラインの顔を見ると素に戻っていた。

 酔いが醒めたようだ。


「何で一緒に寝てるのに、何にも起こってないのよ」

 機嫌が悪いライン。


 プンプンって?

 なんかせないかんの?


「何か起こっていた方が良かったのか?

 ちなみに、リビングで甘えてきてからのこと覚えてる?」

「えっ? リビングで甘えたの?

 食事が終わったところまでは覚えているんだけど……」

 えーっと、俺が思うより前から酔っていらしたらしい。

 こいつにあまり酒を飲まさない方がいいか……。


「甘えてきた後、段取りされたこの部屋に来た訳だ。

 ラインと一緒になれって設定だったんだろうが……」

「でも何も起こっていない」

「何もしていないからな。

 起きたら終わってた……ってのは良くはないんじゃないかなと……。

 だから、可愛い寝顔を堪能していました」

 そう言ってラインを見ると、

「そっ……そうなんだ」

 ラインは顔を赤くしていた。

 それでも、

「まだ朝までは時間があるから……おいで」

 と声をかけると、ラインは擦り寄ってくる。

 少し緊張気味のライン。

 俺は抱き寄せて、頭を撫でた。



「こんな事してたんだ」

 満足げなライン。

「まあ、いろいろね」

「レオナが言ってたのもよくわかる」

「そう?」

「お母さまから話に聞いていたのと違う。

 女性の方から動かないと……って言ってたんだけど……」


 ミーナ様は能動的らしい。

 どっちかというとラインは受け身。

 慣れが無いっていうのもあるのかもしれない。


「それは、夫婦によっていろいろ流れが違うからじゃない?

 一緒に暮らしている間に追々決まっていくんじゃないかな」

「うん、そうだね。

 私は、ケインに導かれる感じの方がいいな」

 そう言うとラインは抱き付いてきた。


 ラインがベルを鳴らすと着替えを持ったメイドが現れる。

 俺の分まで準備されている。

 準備万端。


「二人でお風呂に入って着替えます」

 ラインが言うと、

「着替えの手伝いは?」

 と聞かれた。

「ああ、俺が手伝う」

 というと、

「畏まりました」

 メイドは去っていった。


 二人で風呂に入り、お互いの体を堪能すると、服を着替える。

 ドレスのようなものではなかったので、手伝うことなどほとんどなかった。

 部屋を出ると、俺の腕を抱くライン。

 嬉しそうに俺を見上げていた。


 朝食の時、少しやつれたクレール様とテカテカのミーナ様が席に座っていた。

 搾り取られたらしい。

 ハンスは不思議そうにクレール様を見ている。


 弟か妹ができるかもな。

 言わないけど……。


「ライン、良かったわね」

 喜ぶミーナ様に、ラインは頷いた。

 口もきかないクレール様。

 まあ、娘が寝盗られたのだから仕方ないか。


 朝食を終えると、

「ケイン、兵の数は足りているのか?」

 とクレール様が聞いてきた。

 昨日の戦いの跡を見せるクレール様。

「まあ、何とか……。

 カミロ・グリエゴ公爵を捕虜にした時、道中で触れ回ってくれたおかげで、集まっています。

 まあ、父と母のお眼鏡にかなう者が少ないのが現状です。

 戦争は騎士や魔法使い、弓使いだけで決まる者ではないので、お眼鏡にかなわなくても歩兵として雇い入れてはいます。

 今なら、旧メルカド伯爵領と合わせて三千ほどでしょうか?」

「もう少し要るな。

 部隊を率いる者を数人、そちらに回すようにしよう」

「それは助かります。

 兵士に指示ができるものが居ないと、ただの烏合の衆になってしまいますから……」

「まあ、一応、義理とはいえ、お前の父になるからな」

 義父の威厳?

 しかし、キスマークがついた首を見せながら言われてもなぁ……。

「はあ……」

 気のない返事をしてしまう。

「嫌なのか?」

「いえいえ、滅相もない。

 ありがたく、いただきます」

 俺は頭を下げた。


 結局、昼過ぎまでは雪のせいで外に出られず、雪かきが終わる昼頃にラインと共に屋敷に戻った。

「昨夜はお楽しみでしたね?」とでもいうような、意味深な笑顔をカミラやアーネにされてしまう。

 ミンクは……わかっていないかな?

 そして、カミラへの報告という、ガールズトークが始まるのだった。


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