90.平原の魔物
ハイデマン伯爵です。
えーっと、結局、平原は俺管理になってしまった。
王に丸投げされた感じ。
改めて、平原を見回ると、周囲の山を水源とする川が何本か流れ込んで、湿地帯になっている場所も……。
さて……、何を育てるかって?
湿地帯と言えば、米!
幸い、ファルケ王国で手に入れた米を持っていたので、直播きでチャレンジしてみようかと思っているところ。
ちなみに、一人です。
カミラやアーネ、リズにライン、レオナの王都組や平原の砦を取り仕切るミラグロスには言ってある。
たまには女性陣が居ないのもいいかと……。
「旦那様、平原だから、問題ないとは思いますが、お気をつけてくださいませ」
とカミラに言われてしまう。
何が問題ないのだろうか……。
あれ?
地の魔法を使って湿地帯をあぜ道で、綺麗な正方形に区切って、田んぼを作っていたのだが「シャー!」と威嚇されてしまった。
よく見れば、布で必要なところだけを隠した女性……いや小さな女の子?
あっ上半身が人型で下半身が蛇……。
髪の毛は長く濃い青。皮膚が水色で鱗はくすんだメタリックブルー。
ラミア? 初めて見たな。
俺は、じっと見てしまう。
「威嚇しているが、俺何かしたか?」
聞いてみると、
「お前はなぜこの地を変える?」
と逆に聞かれてしまう。
開拓に不満だったらしい。
「ん? この地は俺が貰ったんだ。
だから、俺がやりたいようにするつもりだったんだが……。
もしかして、湿原はお前の住処なのか?」
コクリと頷くラミア。
「それは済まなかったな」
湿原に作った畦道を無くした。
「お前一人で、この地を?」
ラミアは驚いた顔で俺を見ると、
「人に頼むとお金がかかるからね。
基本の所はいつも俺が作っている」
と俺は苦笑い。
意味が分からないのかラミアが首を傾げる。
そりゃそうか。
「じゃあ、別の場所を……」
俺は、まず平原真ん中で区切るように砦までの道を作ることにした。
そして、丁度平原の中央になるところに広場を作る。
まあ、この辺は建物でも作ればいいだろう。
俺の後ろからシュルシュルと体をくねらせて、付いてくるラミア。
「で、何で俺の後ろをついてくる?」
聞いてみると、
「魔力が欲しいから」
と、どこかで聞いた言葉。
「何で?」
「幼体である私が成体になるにはオスの魔力が必要」
「オス?」
俺を指差すと、ラミアはコクリと頷いた。
「で、魔力を吸い取られて、カラカラになった所を食われるとか?」
冗談半分で聞いてみたが、目を逸らされた……。
うわ……本当だったんだ。
しかし、魔物たちも魔力を得るのが大変だな……。
カミラしかり、アーネしかり。
ミンクは……魔力を欲しがらない。
生成する何かを持っているのかも……。
ま、それはいいとして。
「死ぬのは困るなぁ……」
俺が頭を掻いていると、ドスドスと何かが走ってきた。
牛の頭で人型の魔物。
結構威圧感がある。
「お前、この女をどうするつもりだ」
おっと、ミノタウロス。
その顔でどうやって発声を?
なんて思っていると、巨大な斧を振り被って叩き落とす。
俺はその斧を片手で摘まんだ。
衝撃から足元がベコリと凹む。
そんな俺をミノタウロスは腰を抜かす。
「『どうするつもりだ』と聞いて、返事もしてないのに攻撃したら、死んでしまった相手は返事できないでしょうに!」
少し怒気の入った俺の言葉に、
「おっ……おう……」
ミノタウロスはたじろいだ。
「普通の人だったら死んでるからな!
それで何?」
聞くと、
「いや、お前がこの子を襲うのかと思ってな……。
集落の長として、守りに来たのだ」
ミノタウロスが言う。
「俺、この年代は手を出さないよ?
ノータッチだ!」
俺は全否定した。
そんな時、なぜかラミアが怒ったようになり、俺の腕に噛みついた。
「ん?」
よく聞くチューチューという音。
抜けていく魔力。
ああ……俺死ぬのかな?
多分死なない気がする……。
でも、俺、よく血を吸われてるよな……。
カミラに、アーネ。
あれ?
ラミアは驚きの目で俺を見ると、血を吸う速度が上がる
そして、
「ゲフッ」
と盛大なゲップをして、吸血が終わった。
「あれ?
死なない……。
カラカラにならない。
食べないと大きくなれない」
驚きの目で見るラミア。
「死んでカラカラになって食われるの前提で、吸われた訳ね」
ヤレヤレだ……。
まあ、カミラとアーネのせいで、吸われ慣れてるしカミラが吸っても魔力が枯渇するようなこともない。
ラミア程度じゃ問題がないのかもしれないな。
「お前、大丈夫なのか?」
ミノタウロスが聞いてきた。
「吸われ慣れてるからな……」
「違う。俺の斧を……」
「そっちか……。
んー、それは鍛えてるから」
力こぶを作る俺。
「一応、ミノタウロスの力は、魔物では上位の方だと思うのだが……。
力もそれなりだと思っている」
「俺の周りにはそれ以上の者も居る。
その程度なら、問題ない訳だ」
話を聞いて唖然とするミノタウロスに俺はニコリと笑って言うのだった。




