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86.ある日の夕食

 アーネの家から帰ると、

「アネルマ様がお前と食事をとりたいと言っているんだが……」

 サンチョさんが俺に声をかけてきた。

「ああ、わかったけど、傭兵の俺が屋敷になんか入っていいので?」

「年齢的にも近いから、アネルマ様も気に入ってるんじゃないのか?

 まあ、カミロ・グリエゴ公爵から俺たちの面目も保ってくれたしな」

「グリエゴ公爵といえば、ダンゲルは?」

「俺の下についたよ。

 これで兵も強くなる」

「そりゃ良かった」

 俺は頷いた。


 すると、サンチョさんはその後黙る。

「どうかしたか?」

 俺が聞くと、

「いいや、屋敷に行ってくれるか。

 アネルマ様が待っている」

 サンチョさんに言われて俺は屋敷に向かった。

 中に入ると、執事に連れられ、屋敷内の食堂へ。


「お呼びにより、参上しました」

 席につくメンバーを見ると、アネルマ様とその母親マリーダ様。

 あとは居ない。

「席につくのだ」

 アネルマ様に言われ、ナイフとフォークが準備された席に座った。

「それでは」

 俺が席につくと、料理が運ばれ、アネルマ様とマリーダ様が祈りをささげる。

 俺もそれに従った。

 そして、ナイフとフォークで食べる。


 淡白な肉だな。

 だが、ソースと合う。


「この肉は?」

 俺が聞くと、

「ラプティオンという魔物の尻尾だ。

 群れで行動して、群れで狩りをする厄介な魔物だ。

 ただ、尻尾は淡白だがうまい」

 アネルマ様が説明をする。

「確かに美味い」

 俺は頷いた。


 色々な食事が俺の前に並び、それを平らげる。

 そして、食事も終盤に差し掛かり、デザートらしいドライフルーツを摘まんでいると、

「ケインよ、それで話があるのだが……」

 アネルマ様が俺に声をかけてきた。

「何でしょう、アネルマ様?」

 とおれが問い返す。

 と少し間を置いて、

「正規兵にならないか?

 お前が居れば、ケイン・ハイデマンに勝てるかもしれん。

 サンチョと同じ、騎士長になってもらってもいい。

 そうすれば、伯爵家も安泰だ」

 とアネルマ様が俺を覗き込む。。

「それは無いですね。

 俺は冒険者です。自由を好みます。

 今回はたまたま冒険者ギルドの募集で女性伯爵の依頼があったから来てみたまでです。

 ですから、傭兵でお願いします。

 仇討の戦いにさえ出ないかもしれません」

 俺の返事を聞き、

「そうか……」

 あからさまにがっくりと肩を落とすアネルマ様。

 

 一応、バレンシア王国の伯爵だしね。

 言わないけど……。


 申し訳なく思っていると、

「それで、ケイン・ハイデマン本人が何のため、このメルカド伯爵家に?」

 マリーダ様が俺を睨み付けた。


 おっと……。


「えっ? お母さま、本当ですか?」

 驚くアネルマ様。

「アネルマ。考えてもみなさい。

 傭兵がナイフとフォークをこれほど上手く使う姿を見たことがありますか?

 手づかみで食べるのが当たり前です。

 確かに礼儀に通じているだけなのなら、貴族の次男三男もあり得そうですが、これほど強い冒険者なら、有名になっているはず。

 冒険者ギルドで調べさせてみましたが、そんな話はありませんでした。

 騎士長という高額な給料が出る地位を断るのもおかしいですし、今の話では仇討の戦いにさえ出ないかもしれない」

 マリーダ様がアネルマ様を見て言う。

「だからと言って……なんで?」

「既にファルケ王国が敵討ちの出陣をするという話は聞こえているでしょう。

 そのために兵を集めていることもわかっているはずです」


 すげー、全部当たってるよ。

 こういう人じゃないと貴族の奥様は難しいのかね?

 脳筋っぽかったバルトロメのフォローをしていたのはこの人だったのかもしれない。


「で、どうなのです?」

 マリーダ様が俺を見た。


 潮時?

 肯定しようが否定しようが、もう普通の傭兵とは見てもらえないか……。

 疑惑を覆すようなネタもない。

 言い訳も難しそうだ。

 仕方ないな……。


「さすが、鉄壁のバルトロメの奥様。

 その通りです」

 俺は言った。

「やはり……」

 マリーダ様が納得した時、アネルマ様は剣に手をかけた。

「待ちなさい! アネルマ!

 それで、私たちはあなた達に勝てるのですか?」

 とマリーダ様が聞いてきた。

「んー、勝てませんね。

 定期の戦争で使っている平原のファルケ王国側の出口には砦も設置しましたし、出口を囲むように壁も作ってあります」

「もう? あそこには何もないと、最近の報告で聞いている!」

 アネルマが言う。


 情報が古いのだろう。

 まあ、砦なんて何カ月や何年単位で作る物。

 それが一日でできるなんて考えないか……。


「もし、あの平原に到着したとしても、兵を展開できないでしょう。

 我々の兵士は、数は少ないですが、精鋭です。

 守る分には万を相手できると思います。

 それに、俺の周りには、人だけでなく魔物も居ますから」

 俺が天井を見ると、アーネがススと天井から降りてきた。

「これは、アラクネのアーネ」

「アーネでございます。

 以後お見知りおきを」

 綺麗な挨拶をするアーネ。

「他にも神祖のカミラ。カイザードラゴンのミンク。

 まあ、他にもヴォルフにフェネクス……意志を持つ魔物が仲間に居ます」

「たしかに、私たちは負けますね。

 カイザードラゴンなどが居るとしたら、万の兵でもどうにもならないでしょう。

 カイザードラゴンを倒すには、剣にも魔法にもたけた者が必要。

 我々は最前線に立たされ、後ろから公爵の兵に押され、前方ではカイザードラゴンのブレスに晒されるのですね。

 アネルマは戦死。私はカミロ・グリエゴ公爵に……メルカド伯爵家は無くなる」

 マリーダ様が悲しい目をしていた。


「ちなみにメルカド伯爵の領地ってどの辺なんですか?」

 俺が聞くと、

「ラフティーの街とその周辺の村になる」

 アネルマ様が言った。

「そう言えば、ラフティーの町は、いつもの平原に抜ける山道のファルケ王国側の出口でしたね」

「よく知っているな」


 まあ、空から見たからね。

 ふむ……。


「寝返らない?」

 いきなりの俺の言葉にアネルマ様とマリーダ様が驚いていた。

「弱体化した伯爵家、マリーダ様はカミロ・グリエゴに、アネルマ様は次男だったっけ? 乗っ取られて食いつぶされておしまい。

 だったら、こっちに寝返ればいいんじゃないかなと……。

 こちらに来ても、伯爵の地位を維持することはできないが、最低限貞操は守ることはできる」

俺は言う。

「もし、我々が寝返ったとしても、山道しかないのだ。

 攻められたら援軍さえ来ない。

 どちらにしろ潰されるではないか!」

 アネルマの問いに。

「いい人質が居るじゃないか。

 公爵って言えば、国王の親類。

 いい人質になるんじゃないかなぁ……。

 まあ、カミロ・グリエゴという人質だけでなく、実際に壁や砦を作って攻められないようにもするがね」

 俺が言うと、

「ああ、そういう事ですか」

 マリーダ様は気付いたようだ。

「我々は攻め込み、降伏し、カミロ・グリエゴ公爵とその取り巻きを捕虜にする。

 そして、それを盾に、領地を保証してもらう」

 と言ってニヤリと笑った。

「んー、ちょっと違うかな。

 領地なんて俺が保証するよ。

 そのまま、ラフティーの街に攻め込むからね。

 カミロ・グリエゴにはお金と食料になってもらおうかね……」

「ケインよ、言葉が変わった」

 唖然とするアネルマ様。

「アネルマ様。これがいつもの旦那様です」

 アーネが笑う。


「それでどうします?」

 俺が聞く。


 まあ、それでもバルトロメ・メルカドの敵を討ちたいと言われれば、それまでだが……。


「アネルマ。あなたが決めなさい!」

 マリーダ様がアネルマを見た。

「私は、あんな弱々しい男は嫌いだ。

 いくら父上を討った男だとしても、私が困ったときに私の前に現れたケインの方が好きだ!」

 アネルマがいろいろとブッ込んできた。

「まあ、わかってはいましたが……。

 朝練の相手をがケインに変わり、カミロ・グリエゴ公爵の件以来、最近の食事の時にケインのことしか言いませんでしたからね……」

 マリーダ様が頭を抱える。

 アーネもヤレヤレと手を広げていた。

「もう! お母様!」

 アネルマが赤い顔をして怒る。

「まあ、正規兵になるというのなら、ゆくゆくは……とは思っていましたから、別に文句は言いません」

 ヤレヤレと言うようにマリーダ様が言う。

「えーっと、名乗りもしていなかったんだけど。

 それって卑怯じゃないの?」

「ケインだとは言っていたからな。

 気付いたのが母上だというだけだ」

と一蹴される。


 んー、その理論がわからない。

 オヤジさんに似て脳筋なのか?

 感情で動くタイプ?

 でも、こっちについてくれるなら……。


 俺は姿勢を正し、

「では、伯爵家の領地を安堵する方法と、カミロ・グリエゴ公爵を捕らえる方法を考えましょうか」

 と言うと、

 アネルマ様とマリーダ様が姿勢を正す。

 そして、裏切りの話し合いを始めるのだった。


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