7.冒険者登録
そして俺が十歳になる年、ついに父さんに勝つことができた。
その日、
「ケイン、冒険者ギルドに登録に行くぞ」
と、父さんが言った。
「何でですか?」
「お前は十二になれば学校へ行く。
その実習で遅かれ早かれ冒険者ギルドに登録をして魔物を狩ることがある。
今のお前は家でやる事と言えば、カミラさんとの組手ぐらいなんだろう?」
「母さんと勉強もしているけど……」
実際に習うことと言えば、簡単な計算問題と字の書き取り程度だった。
それでも「計算については、ベルトを超えているわね」と母さんに言わしめる。
小学校の低学年程度の問題だ。高卒の俺には緩い。
「父さん。
そういう選択肢があるのはうれしい」
俺がそう言うと、
「早速行くぞ」
と言って、俺を連れ、父さんは王都の冒険者ギルドへ向かった。
「ここが冒険者ギルドだ」
レンガ造り地上三階建て、横幅は五十メートルぐらいあるだろうか。
「さすが王都!」と言っていい大きさだった。
中に入ると様々な種族。
そして職業。
一見して戦士や魔法使いに見える者も居た。
父さんは受付に向かい冒険者ギルドの職員と少し話す。
すると、水晶玉に手をかざすように言われた。
水晶が虹色に明るく輝く。
冒険者ギルドの職員はすごく驚いていたが、父さんは当然のような顔をしていた。
そして、俺の名の冒険者ギルドカードが出来上がるとすぐギルドを離れるのだった。
「父さん、何でギルドの職員は驚いていたの?」
「ああ、冒険者は強さでGからSSSで別れているんだ」
そう言えば、カミラがそんなことを言っていたな。
「そのランクを決めるのがあの水晶。白がG、青がE、黄色がD、緑がC、赤がB、そして虹色がA以上に相当する。あの職員はA以上の輝きを見たことが無かったんだろうな」
そう言って、説明をしてくれた。
「父さんは見たことがあったの?」
「ああ、ちなみに俺も虹色に輝いた。
ミランダもらしい。
だから、お前が虹色に輝いても当たり前だと思っている」
「そうだったんだ」
「悔しいのはその輝きが俺のより明るかったことだな。
まあ、既にお前に負けているんだ当然と言えば当然か……」
父さんは苦笑いをする。
そして、
「いくら能力がA以上だとはいえ、お前の冒険者ランクはDから始まる。
本当にケインがAランクだと言えるように頑張れ」
「わかったよ父さん」
こうして俺の冒険者登録は終わり冒険者の仲間入りをした。
「じゃーん」
カミラに俺の冒険者ギルドカードを見せる。
カミラはそれを見ると、
「やっと主が冒険者になったな。
これで一緒に依頼が受けられる。
これでお金をこの家に入れられる。
居候も卒業だ。
しかし、Dランクと言う事はDランク以上の色で光ったのだろう?」
「虹色だったぞ」
「何?
さすが我が主だ。ちなみに私は赤だった」
カミラは冒険者ギルドに入った時はBランク相当の能力を持っていたわけか。
「にしても、何でカミラはBのままなんだ?」
「私は血を得るためぐらいしか依頼を受けなかったしな。
だから、数をこなしていない。
やっと主と一緒にやれるのだ、楽しみだな」
「そういえば、カミラが依頼を受けたら俺も一緒にBランクの仕事ができるって言ってたんだよな」
「実際はBランクが受けられる仕事になるから、Aランクまでは大丈夫だ。
オークやトロル、そして、ワイバーンも狩ることができるぞ。
依頼も高額だし素材も売れる」
「それはいいんだがな、俺としては食事のバリエーションを増やしたい」
確かに母さんの料理は美味い。
しかし、バリエーションが乏しいのだ。
それは、香辛料が乏しく、塩も高い。
新鮮な肉や野菜も手に入りづらい。
そう言う理由もあるのだろう。
魚というものを干物でしか見たことが無かった。
そして、卵も牛乳も見たことがない。
「で、どうするんだ?」
「せめて、卵と牛乳があればねぇ……」
「卵?
牛乳?
何だそれは?」
「俺があると嬉しいと思う物だ。
そうだ、カミラは冒険者として何年も活動しているんだから知らないか?
こんな感じの卵を産む魔物や、こんな感じの乳を出す魔物を」
俺は地面に絵を描いた。
「ああ、知っているぞ。コッコーとホルスだな。
コッコーはこの近くにもいるだろうが弱いからすぐ逃げてなかなか見つからない。
ホルスは多分草原に居る」
「居るんだ」
「ああ、居る」
「それを捕まえるにはどうすればいい?」
「まずは奥様に許可をもらって、それぞれの魔物を服従させないといけない。
そのための飼育小屋も要るぞ。
あとコッコーは鳴き声がうるさい。
近所迷惑にならないようにしないといけない。
そこは服従の時に指示しないといけない」
だよなぁ、住宅密集地で鶏飼ったら、うるさいって苦情来るだろうし。
「って事は、まずは母さんだな」
「そういうこと」
早速、母さんのところへ行った。
「魔物の卵を得るために、コッコーを飼いたいんだ」
「ダメ!やめなさい。
コッコーの卵を食べた人で死んでいる人もいるんだから。
コッコーの卵を食べる人は、それを食べないと生活できないような人。
料理も茹でるか焼くしかない。
私はそんなにひもじい思いをあなたにさせていないはずよ」
卵の認識が良くないな。
食べる物がない者が食べる食材だと思われているようだ。
カミラが言っていたが、コッコーは弱い。
だから、襲われると卵を放置して逃げるんじゃないだろうか。
比較的王都の近くに居るというコッコーのそういう卵を拾うと、腐りかけやピータンもどきが混じってもおかしくはない。
そして卵に当たって治療できずに死ぬのかもしれない。
つまり新鮮な卵というのを食べたことがないのだろう。
「母さん。
卵というのは栄養満点で美味しいんだ。
食べるには新鮮な物が要る。
だから、五羽でいいから飼わせてもらえないかな」
俺がそう聞くと母さんは腕を組み、
「わかったわ。
ただし、私が最初に食べる。
あなたを死なせるつもりは無いわ」
と言った。
「いや、死ぬような料理は作らないから……あと、ホルスを飼っていいかな?」
「ホルス?」
「ああ、ホルスの乳は美味しいんだ。
あと、飲むと胸が大きくなる効能があるという……」
「ぜひ飼いましょう」
食い気味に母さんが反応した。
「飼うのはロウオウの横が開いていたと思うからそこに入れて、餌は飼い葉でいいかしら」
かあさん即決だね。
それも乗り気。
母さんカミラよりちょっと貧弱だからね。
気にしていたんだね。
「ケイン、私も飲んでいいかな?」
「ああ」
カミラは胸をもっと育てたいんだ。
俺は歓迎。
こうして、コッコーとホルスの飼育許可が出た。
ヨシ!
「さて、カミラ」
「なんだ?」
「コッコーを飼う小屋を作りたい。
でも、母さんにお金を出してもらうのもな……」
「遠まわしだな」
「ちなみにBランクの依頼って、報酬いくら?」
「そうだな、小金貨五枚から大金貨一枚ってところだろう」
五万円から百万円か……。
結構差があるな。
「カミラ。
依頼を受けて木材と大工道具を手に入れたい」
「木材は解体の手伝いとかでももらえるぞ?
まあ、相談次第だが」
「うし、まずはBランクで大工道具。
そのあと解体の手伝いで木材を手に入れる方向で」
「主よ、心得た」
俺たちは冒険者ギルドへ向かうのだった。
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