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1.転生

 ガガガガガ……。

 久しぶりに帰った実家で、コンバインを使い稲を刈る俺が居た。

「慧、あの人ももういい歳だから、あなたがたまに帰ってくると喜ぶのよ」

 老齢の女性が声をかけていた。

「俺も母さんに呼ばれて仕方なく帰ってきたんだがなぁ」


 老齢の女性……つまり俺の母さんは、俺の休暇周期をどこからか知っており、ピンポイントで電話をかけて用事を押し付ける。

 まあ、俺も彼女が居る訳でもなく、暇なときはパチンコに行く程度だったので、体を動かすついでと付き合っているのだ。


「いいじゃない?父さん嬉しそうにしてるじゃない」

 ニコニコの母さん。

「俺にはわからんよ、タバコを吸って俺を厳しく見てるオヤジの事なんて……」

 俺がコンバインを使う姿を厳しそうに見るオヤジが居た。


 稲刈りを終え、少し遠い会社の寮まで高速を使い帰る途中。

「えっ、何でだ?

 トンネルの照明がついていないなんて聞いたことが無い!」

 訳もわからず急ブレーキを踏み、ABSが効く音がすると何かに当たり、そのまま体だけがどこかに落ちていくように感じた。



 気が付くと、見たことのない天井が見える。

 天井画なんてテレビでしか見たことが無かったのに。。

 木造だよなこれ……結構太い梁……なぜに?

 ふと横を向くと、泣いている金髪碧眼のドレスを着た一人の女性。

 めっちゃ綺麗やん。


 そしてそれを支える映画から出てきたような帯剣した黒髪の筋骨隆々の一人の男性が居た。


 しかし、なぜに俺を見て泣く……。

 俺はこんな二人の事は知らない。

「えーっと……」

 と言ったつもりだが、

「あーう……」

 と声が出た。

 そんな俺の声を聞いた二人がピクリと体を震わせ、俺のほうをガン見する。

「何かあったのですか?」

 と言ったつもりが

「だうあーあーあ」

 と声が出る。


 ああ、この声聞いた事ある。

 赤ちゃんだ。

 そういえば、従妹が連れてきた赤子を抱かされた時に、似たような声を聞いた気がする。

 つまり俺って赤ちゃん?


「ケインが……ケインが……生き返った」

 縋りつくように女性が頬を寄せてくる。

 俺は涙でぐしょぐしょだ。

「あーあー(何が何やら)」

 俺が嫌な顔をしてしまったようだ。

「ごめんね、お母さんが悪かったわ。びしょびしょにしてしまったわね」

 と、高価そうなレースが入ったハンカチで俺の頬を拭く。

 女性は俺の母親という事らしい。

「信じられん、医者も司祭も『ケインは天に召された』と言っていたのに」

 と男性が話していた。

 俺は何かの台の上に置かれていた。

 見あげると、十字架の上に丸いものが付いているものがある。


 アンクって奴か?

 いや、よく見ると違う。

 宗教の象徴的な奴かな?

 そして、ここは霊安室。

 死者との別れを行う場所。

 推測するに、元々ケインと言う子がいて実際に死を迎えたがその空いた体に俺が入り込んだ形?

 つまり転生と言う奴か?



 そして今、俺が住んでいるのはハイデマン家。

 そして俺の父親が当主ベルト・ハイデマン、黒髪でブラウンの瞳。

 身長二メートルを超えているように見える。

 王都の騎士団の部隊長らしい。

 母親がミランダ。金髪碧眼の美人。

 まさに美女と野獣。


 俺の住んでいる家は、騎士団持ちの家らしく、二階に両親の寝室に、父さん、母さんそれぞれの部屋、一階には玄関兼居間。食堂に台所と言う感じであった。

 広めの庭があり、父さんが朝練を行う。

 そして厩があり、そこには父さんをのせて戦場を駆けるロウオウと言う黒い馬が居た。


 俺が転生したとき泣いていたのは、やっと授かった後継ぎ息子のケインが死んだためのようだ。

 まあ、俺としてはどうしようもないので、後継ぎ息子ケインとして生きていくことにする。


 さて、転生した先がアレなところらしい。

 んーアレ……なかなか出てこない。

 ……おう、やっと出た。森や平原には魔物が現れるような剣と魔法の世界って奴だ。

 学生の頃に呼んだ、〇―ドス島や風の〇陸のようなもの。

 そんな世界で生き抜くには俺自身も魔法か剣が使えなければならない。

 すでに生存競争が始まっていると考えていい。

 俺には赤子のころから意識があるという利点がある。

 体が満足に動かない今は魔法主体で、体が動かせるようになって筋トレが可能になれば、スタートダッシュが可能

 この利点をを生かさず何とする!


 すでに、ハイハイで移動ができるようになっていた。

 昼間、俺には乳母が付けられており、柵が無いとはいえなかなか目を盗んで部屋を出ることことができない。

 それでも隙を見つけては父さん母さんの部屋に入り本を読む。

 結局は乳母に見つかり、部屋に戻されるんだが……。

 最初は何もわからなかったが、読むうちに字がわかるようになった。

 父さんの本棚中にはエロ本のような物もあったが、興味がない俺は特に魔法の本を読み漁った

 母親も結構高名な魔法使いだったらしくそういう本が本棚にあったのだ。

 変な呪文を使ったり、精神論的なことが書いてあったりした本の中に

「魔法はイメージ。

 魔力を使い事象が発現する過程を形にして結果を出す」

 ある本にそう書いてあるものがあった。

 何だかしっくりくるその言葉が気になっていた。


 ある日、乳母が本を読みふける俺を見せるために母さんを連れてきたようだ。

「奥様、ケイン様が本棚に行って本を読んでいます」

 あまりにも逃走を図る俺に対して、母さんに告げ口をしたようだ。

「本当に読んでいるのね。ケインはまだ生まれて一年も経っていないのよ?」

「しかし、私が目を離すと必ず奥様の本棚に行って本を開いています。

 そして真剣にその内容を読んでいるように見えます」

 二人が来たのに気付いた俺は、振り返って二人を見た

 俺はニッコリと笑う。

 そして、二人の前で『魔法はイメージ』を実践してみたのだ。

 左人差し指の先に魔力?を通し可燃性ガスに変換し圧縮。

 さらに魔力で発火温度以上の熱源を作って近づければ……。

「ボウォア」という音とともに結構大きな火球ができた。

 そして、意識が遠のく。

「ケイン!」

「ケイン様!」

 その声を聞きながら意識を失った。


 ふと目覚めると、涙を流す母さんの顔。

 俺が目を覚ましたのに気付いた母さんは

「ケインが目を覚ました!」

 と言って俺を抱き上げる。

「もう……また目を覚まさなくなるのかと思った。

 魔力切れを起こしたのね。

 でも、こんな歳から魔法が使えるなんて……」

「おーえんはあい(ごめんなさい)」

 そう言って俺は両手を伸ばし、母さんの頬に触る。

 何かを決心したように母さんは俺を見たのだった。


 魔法を使った経験もなく、思ったままに魔法を使ったせいで、魔力切れを起こして暴走したようだ。

 結局、髪の毛が焼けチリチリになって気を失ったこの事件は、物心ついても母さんに揶揄われることになる。


 母さんは俺の部屋に居ることが多くなった。

 そして、俺の部屋には母さんの魔法書が置かれていた。


 魔法の体系は、火、水、風、土、闇、光、無属性の七つがある。

 火、水、風、土についてはその名の通り。

 闇は状態異常が多いが影移動という便利なものもある。

 光は逆に能力上昇を行うものが多い。

 無属性は念動力とか収納とかである。


 俺が母さんを見ると、

「さあ、存分に魔法の練習をすればいい。

 私が見ていてあげるから」

 俺はいろいろな魔法に手を出しては気絶するを繰り返した。

 失敗すれば母さんがフォローしてくれる。

「この子、四代元素も……えっ、闇も?

 聖魔法も?

 まさか無属性まで!

 私を越える魔法使いになるわ」

 嬉しそうにミランダ母さんが言っていた。


 伝い歩きができるようになる頃には俺は気絶することもなくなり、人に披露できそうなぐらいの水芸もできるようになった。

 隠れたいときは、影に隠れてやり過ごしたりもする。

 それを見る度ミランダ母さんはそれをニコニコと見ていた。


 そして、歩けるようになったことで俺は体を鍛え始める。

 家の中をとにかく歩いた。

 前の世界で痩せるために買ったEMSマシンが懐かしい。

 一カ月ぐらいで使わなくなったが……。


 ん?腹に弱い電撃魔法でいける?


 ライトニングの魔法は覚えていたが、自分に使ったことは無い。

 使ってみると、普通の電撃が出た。

 結構デカい音がして床に穴が開き、母さんに困った顔をされる。

 それでも、少しずつ少しずつ小さくして、静電気ぐらいまで抑えることができるようになる。

 さらに、点ではなく面で電撃を出せるようになった。

 腕に使うと、小さなパチンという音と共に筋肉がビクンと反応する。


 おぉ、無意識にこれができるようになれば、寝ている間に鍛えられるな……。


 まあ、実際、寝ていても電撃は出せるようになった。

 後に聞くと、俺が寝る時、下腹部に手を添えビクビクしているのを見て、驚いていたらしい。

 俺も最初のうちは筋肉痛で動くのも大変だったがそのうちに慣れた。


 一歳半を越えたころ、俺は普通に走り回れるようになっていた。

 それを知ったベルト父さんは、俺の体に合わせた木剣を与えてくれた。

あーいあと(ありがとう)

 と俺がベルト父さんに頭を下げると、ベルト父さんは優しい目をして俺の頭をワシワシと撫で、

「強い魔法使いもいいが、強い騎士にもなるのだぞ」

 と言うのだった。


 父さんは魔法ばかり使う俺を気にしていたようだ。。


 毎日のように剣を振り、毎日のように魔法を使い、俺は鍛えた。

 三歳ごろになるとミランダ母さんから計算を教わる。

 問題については前の世界の小学生レベルの問題だ。

 一応高校卒の俺には緩い。

「あの人より計算が早いわ」

 すでに計算ではベルト父さんは越えているようだ。

「父さん、これ教えて」

 と聞いてみると、足し算に両手を使うのはやめて欲しかった。

 ただ、正解ではあった。


 三歳ごろ木剣を軽々と振るう俺を見て、ベルト父さんが、

「相手をしてやろう」

 と俺の前に立ちはだかる。

 リーチの無い俺の体、しかし容赦なくベルト父さんは攻撃してくる。

 今まで鍛えた体で何とか攻撃をいなすことができた。

「こいつ……」

 父さんはニヤリと笑う。

 結局父さんに勝つことはできなかった。

 ボコボコだ。

「三歳の子を相手に何をしているの!」

 ミランダ母さんに父さんは怒られていた。

「その辺の騎士になら一撃を与えられるな。

 三歳でこの強さか……この強さは俺の血だな」

 と言って嬉しそうに頷いていた。

 魔法のほうばかり目立っていたから、父さんも気にしていたのだろう。

 その日から、父さんとの朝練が開始されることになった。


 五歳になると母さんが、

「もう、あなたに教えることは無いわ」

 と、苦笑いをしながら言った。

「あなたは私の知ってることをすべて吸収した。

 魔力も魔力操作も既に私を越えている。

 だから、もう好きなように遊べばいいわ。

 語学も堪能。

 剣もベルトと互角。

 ああ、どんな凄い男になるのでしょう。

 お願いだから悪い方には行かないでね」


 切なる願いって奴らしい。

 俺も、悪いことをしたいとは思わないけどね。

 そして、俺はやっと屋敷の外に出ることを許されるようになった。


 父さんは、国を守るために戦場へ行く。

 他の国との戦いが始まったらしい。

 父さんはバレンシア王国の騎士らしく、ファルケ王国の侵攻を止め、押し返すために呼ばれたそうだ。

「鬼神ベルト」それが父さんの通り名らしい。

 父さんが家を出る時

「家を守るのはお前だ、これをやろう」

 と一本の剣をくれた。

 俺の手になじむ、小さいながらも綺麗な剣。

 軽銀……つまりファンタジーの産物、ミスリルらしい。

 刃渡りで四十センチ程度だろうか。

 俺の最初の武器になった。



読んでいただきありがとうございます。

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