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案内人丸投げの異世界転生


なんか人の役に立ちたいなぁ。

そんな風に漠然と願いつつニートやってたら、ある日ぽっくりと死んでいた。


 気付いたらSFチックな電脳空間のような所に浮かんでいて、目の前のウィンドウ画面には幽体離脱者の視点とでも言わんばかりに前世での映像が映し出されている。

 実家の畳六畳の居室で、家族が俺の死体を囲んでめそめそと泣き暮れていた。


「私の息子の竜哉がまさか何の前触れもなく心臓麻痺で死んじゃうだなんて……うぐっふぐっ、かけててよかった生命保険!」

「うえ~ん、お兄ちゃんが莫大なお金になっちゃったよえぇ~ん!」

「お兄ちゃんの死を通じてお小遣いが増えちゃうようわぁ~ん! 10連ガチャ~!!」

「良かったな竜哉ぁ。豪勢な葬式をしてもらえるニートなんて今日日そうそういるもんじゃないぞぉ。お前の分まで特上寿司たっぷり食ってやるからなぁ」


 悲劇とは程遠いふざけたやり取り。親切心なのか悪趣味なのか、この映像を見せてくる神的存在に若干怒りを覚えないでもない。

 というか母さん生命保険かけてたのか。というか本音漏れてるぞ妹弟よ。というか長年無職だから盛大な式は上げないで下さい父さん、普通に赤っ恥かくだけだから。あと寿司俺にも食わせろ。


 突っ込みがすでに届かない世界に来てしまったことを少々寂しく思いつつも、俺の存在が世の中の何の役にも立っていなかったばかりか、家族の負担になっていたことは事実なので、正直あまり悲しくもなかった。

 むしろ金に換金されたなら最後くらいは役に立てただろうし別にいっか、くらいの軽い気持ちだ。


 だってこの状況、どう考えても生まれ変わり。

 どう見ても転生目前。


 だったら古い自分なんかとはさっさとおさらばして、新しい人生に気持ちを切り替えた方が遥かに有意義だろう、俺はそんな風に前向きに考えたわけだ。


 やがて不毛な映像が消えて、半透明なウィンドウがステータス画面のようなものに切り替わる。


 名前:田無たなし 竜哉りゅうや

 年齢:25歳

 髪型:黒、ニートヘア

 体格:だらしない中肉中背

 職業:無職

 性格:真面目風 怠慢風 ダメ人間


 おいなんだニートヘアって。なんだ怠慢風って。表記に悪意しか感じないのは気のせいか?

 しかし俺の突っ込みに答えたのは、転生恒例の女神的存在ではなかった。


〈これから新規人生における初期ステータスのクリエイトを開始します。何かご質問はございますか?〉


 機械的な女性の人工音声。そこはかとないAI臭。こういうのは人間離れした絶世の美人女神が懇切丁寧に相手をしてくれると信じ込んでいただけに、何やら物足りなさを覚えないでもない。

 さらに質問をしてみると、直接答えが返ってくる代わりに、わずかなタイムラグのあとに手書き画像のようなものがアップで表示される。同時に録音された明るい音声が流れる。



『新規転生者へ


 現代女神は出張中です♡

 そこで自分大好きなクセに前世の世界にそれほど執着のないあなたに朗報!

 ファンタジー風味のいわゆるRPG的世界観に転生できるって言ったら、するよね?

 ニートだもんねっ、選択権は特に必要ないと思ったので用意しませんでしたっ♪

 そんなわけで、サクッと冒険して、ヤバい世界をちゃちゃっと救っちゃって下さい!

 女神は相手をする暇がないので、カルマポイントを使って自由にキャラメイクしてねっ☆

 レッツ・世界救済っ・ウィザウト・ミー!!


                       by太陽よりもまぶしい女神』



 ………。

 と、どうやらそういうことらしい。

 人が目の前にいないからって言いたい放題言いやがって。腹が立つが、あげた拳のやり場がない。

 大きなため息をひとつ。

 死んだときくらいもっと丁寧に対応して欲しかったが、きっと女神ほどの身分になると忙しすぎて転生者一人ひとりの相手をしている余裕なんてないのだろう。

 昨今では特に増えてるって聞くしな。


 そんなわけで、ロクに返事もしてくれない機械音声には期待せず、しぶしぶ独りでクリエイトをはじめることに。

 RPG風世界への転生をするか否かだって?

 そんなのは愚問中の愚問。むかつくが女神とやらの言う通り、こんなことでワクテカしてしまうニートには選択の余地などない。


 またどうやらクリエイト前にヘルプウィンドウで確認したところ、カルマポイントとは前世の行いを数値化したものらしい。要は善行の分だけ数値がプラスされ、ステータス変更の自由度が増すということ。実にシンプルだ。

 しかも俺はすべての運気を使い果たす前に、早々に人生をリタイアしてニートになったためか、そこそこポイントが溜まっていた。これを利用して、さっそく新しい人生設計をはじめる。


 超精巧な3Dモデルの俺の姿を見ながら、髪色を落ち着いたブラウンにし、顔を原型を失わない程度に元の俺よりも若干すっきりと整える。

 身長を数センチ伸ばし、体格をやや筋肉質に変更。

 なんで全部ちょっとずつしか変えないかって? あんまり変えすぎると、元の自分から離れすぎて、人生を引き継いだ感じがしないだろ?

 俺は、〝俺らしい〟新しい人生をはじめたかった。自分への余計な執着を捨てれば、とっくに前世でも何かしらの成功はしていただろうが、完璧に別の誰かになってしまえば、きっと新しい人生で何かを成し遂げても達成感は感じられないに違いない。そんな風に考えたわけだ。

 ほんと、腹が立つが女神とやらの言う通りですわ。


 プロフィール画面で、自動翻訳機能を有効にする。

 ステータスは、俺好みの素早さと攻撃力を高めに。

 人生開始ポイントは、当然駆け出し冒険者の地に設定。

 赤ちゃんからリスタートすると、ポイントは加算されるが成長に時間がかかるので却下。そんなに気長な性質じゃない。

 チート武器も欲しかったが、魔剣はカルマポイントが高すぎてやめた。


 などなど、大部分設定が終わる頃に、還元ポイントの存在に気が付く。

 どうやら既存のステータスをマイナスに転じるだけで、カルマポイントを得られるらしい。しかし最初からそこまで無茶する必要あるのか? などと考えているうちに、性格の欄を未設定だったことに思い至る。

 性格――

 元の性格はそのままで、オプションとして個性を付加できるらしいが、その中に一つ、気になる項目があった。


『無性に人助けしたくなる情熱』


 ………。

 前世の俺は、理性と称してあらゆる他人に対して警戒心をこじらせた結果、誰のことも信じられなくなり、やがて内にこもるようになった。

 明確なきっかけなんてなかった。気付いたらそうなっていた。

 〝誰かのため〟に動くことをやめてしまったら、誰も〝俺のため〟に何かをしてくれることはなくなっていた。

 そんな自分を、次の人生では繰り返したくなかった。

 なにが〝俺らしく〟だと呆れるが、同じ轍を踏むくらいなら、多少性格を捻じ曲げてもいいとさえ思えてくる。

 〝情熱〟が欲しい――

 〝誰かのため〟になれる人間になりたい――


 それで、気付いたらそのオプションを付加していた。

 画面を見たまま、感慨深くため息をついていると、ふいに周囲が真っ赤なアラートに包まれる。


〈メイキングタイム終了15秒前。カルマポイントがオーバーしています。採算が合わない場合、ランダムにステータスが修正されます。前例として知能が低下し、精神が幼児退行して『じゅびるじゃー!』以外に何も喋れなくなり冒険に著しい支障をきたした実例がございます。ただちに修正することを推奨します〉


 や、やべぇ……

 じゅびるじゃーはヤバいだろ……

 真っ赤に明滅するアラートに急かされながら、俺は慌ててステータス画面を開く。

 減らしても困らないもの、減らしても困らないもの……

 体力は基本中の基本。戦闘が中心となる世界なら、攻撃力や素早さを失いたくはない。ガイダンスの言う通り、知力を失うなんてもってのほか。かといって外見を細かく変えるほどの時間はもうない……

 そこで俺は、とっさに運気の項目に指をかけ、数値を減らし始めていた。

 RPG的な仕様だとすれば、運気なんてアイテムドロップとか、クリティカルダメージに関わるものくらいだろう? 実直なスタイルを貫けば、特に減らしても問題はないはずだ。

 そんなことを考えつつ数字を変動させ、やがて元々それなりに高かった運気がゼロに差し掛かる直前で、脇に表示されていたカルマポイントが強制的にマイナスからゼロに変わった。

 どうやらギリギリ間に合わなかったらしい。


〈メイキングタイム終了。開始地点の設定をリセットし、不足ポイントを補完しました。それでは新しい人生を開始して下さい〉


 しまった欲張り過ぎた……と思うと同時に、周囲は光に包まれ、浮遊感と共に意識は薄れていった。



プロローグ読んで下さってありがとうございます。基本、副題通りのロクでもない話になる予定です。どうぞ気長にお付き合いくださいませ…………

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