表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

下層の人々

「最近の犯罪の増加傾向について、その元凶が何なのかを辿ると、このでろーんサイトのでろーんニュースに行き着くのです」

「はぁ?なんだそのでろーんニュースってのは?」

「ええ、まずでろーんという何でも出来る便利なサイトがありまして、そのサイト内でネットニュース記事を上げているのです。それがでろーんニュースです」

「へえ、最近はネットでもニュースが見れるのか」

「中村さん、昔気質なのは良いですけどちょっと遅れてますよ。もう随分前からこういうサービスはあるんですよ」

「知らなかったなぁ。ニュースってのは新聞かテレビで確認するしな。で、そのネットニュースってのがどうして最近流行りの国民の静かなる暴徒化に繋がっているんだ?」

「はい。まぁ見て下さいよ。ここにこうして先月のニュース記事が上がっているでしょう。ちょっと読んでみて下さい」

「ふんふん。なんだコレは?まず取り上げたネタがテーマとして脆弱、下らないなぁ。そして誤字脱字がちょいちょいあるし、文章も拙いなぁ。これでプロの仕事か?」

「いえ、必ずしもプロだとは限りません」

「なんだ?素人がニュースを書いているのか?」

「まぁネット記事なんてのに質は求めませんよ。ちょっと暇な時にさらーと読むくらいのものですから最低限こういうことがあったと分かれば細かい所はスルーなんです」

「いい加減だなぁ。大丈夫なのかこのサイト」

「で、重要なのは記事の下、コメント欄があるでしょう?」

「ああ、あるなぁ。しかしすごい数のコメントだ。なかなかご立派な口調のコメントじゃないか。これは何だ?テレビみたいにネット記事にもコメンテーターのがついているのか?」

「いいえ、そこに書かれているコメントは素人のものです。つまりこれを読んだそこらの人間です」

「え?有識者でもないただの素人がこんなに偉そうに、こんなにたくさんの数のコメントを?コメント投稿時間も真昼が多いな」

「ええ、まぁ会社にも行かない暇な連中が多いのですよ」

「へぇ~。で、そんなただの人がニュースの感想なんかを吐いてそれで何になるんだ?」

「何も。彼らはただ想っったことを書いて満足しているだけです」

「え?何だそれ?どういう心理でそうなるんだ?」

「中村さん、そこには我々のように日々忙しく、そして充実している者には実感として理解出来ない心理が働いています。今回の事件を心理学の面から分析した専門家がいましてね。彼が言うには、こういう人達は普段から発言の場と発言権を持っていないのですよ」

「つまり、私生活でコミュニケーションが不足している奴が、ほんの寂しさ紛れに書いていると?」

「まぁそんな所ですね。単純に暇潰しというのもあるでしょう。こうしてちょっと過激な目立つコメントをする者には自己顕示欲を満たす目的もあります。それからコメントに第二者、三者が更にコメント出来る機能があります。そうすることで、ここの利用者同士コミュニケーションも取れるんですよ。ここはちょっとしたネットコミュニティでもあるんです。まぁ下層コミュニティですがね」

「確かにな。ネットという目には見えない世の中の下の下の層だな。色んな奴がいるもんだ」

「先程も言ったように、我々には無い心理の下で彼らはここを利用しています。でも、こんなものが心の救いになる人もいるんです。人の不幸をあざ笑うような攻撃的なコメントが多く見られるでしょう。こういう連中は特定の一人を攻撃することで自分を優位に起き、それによって精神の平静を保っています。ここに愚痴を書き込んでうさ晴らしをしている者もいます。そんな感じで、図らずもこのサイトは人の精神面を支える役を担っていたんです」

「ふーん。何か闇が深いなぁ。飯食って寝てで感情の荒波を沈めることが出来ないものかね?」

「中村さんのように誰もが精神コントロールに長けている訳ではありません。心が弱く貧しい連中だって少なくないのです。そういう者がはけ口として求めた場がこのサイトです。あと、あなたはそれ以前にちょっと鈍感……」

「え?何だって?」

「ゴホンッ……いいえ、何も。で、次の話です。今月からの記事を見て下さい」

「あ、コメント欄がない!何でなくなったんだ?」

「中村さんも読んでの通り、閲覧者のコメントはネガティブだったり暴言だったり、そもそも記事とは全く関係ない荒らしだったりで非常にマナーが悪い。善良なサービス利用者には不快な機能となったんですよ」

「で、運営側でコメント機能を消したと」

「ご名答!」


「中村さん、ここからが今回の事件と深く繋がってきます。コメント機能を奪われた彼らはストレスのはけ口を失った。しかし、はけ口ってのはどこかに代わりを見出さなくてはなりません」

「まさか、それで今回の事件に……」

「そうですよ。最近、我々警察を困らせるあれこれの事件。民衆がこそ泥や器物損壊などの悪さを頻繁に働くようになったことにはこれが関係しているのです」

「まさか。こんな下層コミュニティを奪われた鬱憤が大小の犯罪に繋がるはずが……」

「それが繋がるんですよ。最近集中している軽犯罪、その犯人を調べていくと、皆がこのサイトで書き込みすることを常にしていた者だと分かったのです。まぁこんなところにみみっちいことを書くような連中ですから、やった悪さもほとんどが規模の小さなものでしたがね。それだけがせめてもの救いですよ」

「取るに足らんと思っていたこの下層コミュニティが、以外にもこれまで犯罪防止になっていたってことか」

「そうなんですよ。面白いですよね。いや、この犯罪者が増える現状は困りますが、この因果関係は興味深いでしょう?」

「確かに、いや、にしても分からないものだ」

「実際、捕まえて話を聞いた奴の中には、コメント機能を失ったストレスのはけ口として万引きに手を染めたと供述したのもいたそうです」

「ネットと社会との繋がり、侮れんなぁ。日本、大丈夫か?」

「中村さんが心配する気持ちも分かりますよ。現代人は自分の機嫌を取るのに忙しく、そのくせそれが不得手な奴が多いんです」

「その点、お前なんかは簡単だよな。美味いもの食って嫁さんとイチャついていればご機嫌なんだろ?」

「いや~まぁね~恥ずかしながらその通りです」


「あ、また仕事ですよ」

「次はどこだ?」

「そこのスーパーですよ。万引きが出たと、また下層の民ですかね?」

「さぁ?何だろうが迎えに行かないとな。全く困ったもんだ。警察をもっと暇にさせてくれよ」

「中村さん、今日も元気に逮捕と行きましょうよ」

「ああ、お前みたいにお気楽な奴がいるのはある意味社会の救いなのかもな」

「それを言うなら中村さんだってなかなかのものですよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ