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星が降る、雨が降る、猫が降る  作者: 文月ゆり
それは突然に
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 長谷は思った通り次の電車に乗っていた。時間も大体、十九時半丁度だった。


「よう!」


 長谷は改札口を通って駆け寄ってきた。


「お前少し痩せたか?」


 瞬を見た瞬間に長谷は言った。きっと、会社員をしていた頃よりは痩せていると思う。あの時は不摂生していた。よく飲みにも行ったし、おつまみに揚げ物は絶対だった。朝は食べていなかったし、昼と夕食はコンビニ弁当で済ましていた。そんな日々から今はこうだ。余計な金はないから、ろくなものも食べれない。節さんに夕食は貰っているが、大体和食で、太りそうな食べ物は出てこない。酒も時々、自宅飲みで缶ビールを嗜むくらいになっていた。


「体重は量ってないから、わかんないけど。やせたと思う。最近、身体が軽いんだよな」

「ちゃんと飯食ってんのか? ニートしてるみたいだし、心配だ」

「おいおい、ニートはやめろって!」


 長谷は前と変わらない笑い声を上げた。長谷は、学生時代サッカー部だった。瞬より背は少しだけ高い。筋肉もそれなりにありそうだ。顔は小顔で整っている。髪は短髪の黒髪。肌はほんのり焼けている。誰が見てもイケメンだと言うだろう。会社に勤めていた時から、長谷は女性に人気があった。何度か合コンにも行ったが、長谷に全部持っていかれた。うらやましいと思う反面、きっとモテるやつはモテるなりに苦労もあるんだろうなと、都合のいい解釈をした。


 変わっていない。変わったのは自分だけか。一歩先を行く長谷の背中を見て、瞬は眉をひそめた。


「つーか、ここは新宿とはえらい違いだな。まだ早いのに人が全然いねーし、辺りも暗いよな」

「まぁ、俺には合ってるけどな」

「よし、お前のおすすめの居酒屋行こうぜ」

「居酒屋? そんなの知らねーよ」

「は? 知らねーのかよ」

「そんな余裕ありません!」

「だったな」


 長谷は意地悪そうに笑う。


「じゃぁ、ここら辺で探すか」


 二人は近くをうろつき居酒屋を探した。明治通りから裏口に入ってみた。すると、一軒、おもてに提灯がかかっている小さな居酒屋を見つけた。名前は《かくれや》。大分古びた建物だった。瞬と長谷は中に入ると、優しそうなおばちゃんが招き入れてくれた。


「いらっしゃいませ。空いてる席に座ってちょうだい」


 ニコリと陽気に声をかけられる。他の客は、カウンターにしょぼくれたオヤジが一人飲んでるだけだった。二人は木製のテーブル席に座った。


「決まったら声かけてね」


 おばさんは厨房のカウンターからそう言う。他に従業員は見えない。一人で切り盛りしているのかもしれない。中もあまり広くなかった。長方形の空間に木製のカウンター席に椅子が五つ。そして、テーブル席が二つあるだけだった。電球色のほんわかした明かりが店の中を包み、ホッとする空間を演出している。カウンターの上のスペースにはいろんな種類の酒瓶が置かれてあった。レジカウンターには、数種類の招き猫が置かれてある。店の奥の細い道には、のれんが掛けられていた。きっと、トイレがあるんだろう。壁に貼られてあるメニューには、今日のおすすめがあった。魚が網で焼かれる音がする。いい匂いだ。二人はメニューを見ながらいくつか頼んだ。おすすめの牡蠣の炙り焼きと、鮮魚刺身盛り合わせ、そして、二人が大好きな唐揚げ。酒はやっぱりビールだった。


「よし、今日は飲むぞー!」


 ビールジョッキが来ると、長谷はテンションを上げる。乾杯をして、一気に飲み干した。


「かーっ!! やっぱり会社帰りのビールが一番うめー!!」


 瞬は長谷の飲みっぷりに昔を思い出す。そういえば、こういうやつだった。


「雨野、遠慮しないで飲んでくれよな」


 長谷はそういうが、なんとなく遠慮してしまう。金がないことが、こんなにも肩身が狭いものなのかと思い知らされていた。

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