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星が降る、雨が降る、猫が降る  作者: 文月ゆり
それは突然に
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5

 いつの間にか眠ってしまった。お爺さんの呼びかけに瞬は目を覚ました。


「終わったよ。顔も剃るかい?」

「あ、大丈夫で……っ!?」


 瞬は思わず声を失った。スマホの画像をもう一度引っ張り出して、自分の髪型と比較してみる。


「え、え、えぇぇ!?」

「どうかな? 大体同じだと思うんだけども」


 お爺さんの目を疑った。鏡には全く違う髪型が映っていた。角度を変えても、どっからどう見ようと別物だ。案の定、瞬の不安は的中してしまったのだった。


「あ、えっと……。もういいです。お会計お願いします……」

「カット三千円ね」


 瞬は項垂れながらカウンターまで行き、財布を取り出し金を払った。外に出ると、セットされた髪をクシャリと指で崩した。スマホをカメラモードにし、自分を映してみる。――うまいことアレンジすればマシになるかな。瞬は憂鬱そうにため息をついた。


 なんとなくそのまま周辺をブラついてみた。すると、今まで気にもしなかった発見がある。コンクリートの隙間から生えている小さな花や、道の隅に置かれてある可愛らしい地蔵。溝渠(こうきょ)を流れる水のにおい。散歩をしてみると、ちょっとしたものが見えてきたり、感じたりする。――散歩もいいもんだな。瞬はそんなことを思いながらゆっくりと歩く。


 一時間くらいして、小腹が空いた瞬はラーメン屋に入った。店内は狭く、席はカウンターだけだった。とりあえず、その店で一番安い醤油ラーメンを券売機で買い、厨房のおじさんに渡した。やや経って、ラーメンがきた。美味しそうな匂いが湯気と共に瞬の顔にかかった。具はとてもシンプルで、ナルトにメンマ、薄くスライスされたチャーシューが2つ。白髪ねぎがちょこんと真ん中に飾られていた。腹が減っていたのもあって、一口がでかい。スープも残さず、一気にたえらげてしまった。「いい食いっぷりだねぇ」おじさんがニコリと笑ってくる。瞬はそれにこくりとはにかむ。「ごちそうさまです」瞬はそう言って、店を出た。


 スマホを見る。十五時三十分。空は少しオレンジ色に変わっていた。肌寒くなり、上着のコートをはおり直す。手のひらを口元に持ってゆき息を吐いた。やはり十二月。昼は温かいと思ったが、日が落ちたら急に寒くなった。舐めていた。――手袋してくればよかったな。瞬はちょっとした後悔を感じた。と、そんな時だった、道行く先に廃れた古本屋らしき店があった。小さい看板には『本お売りください』とだけあった。だが、その店はただの住居に見える。よく見ないと気づかず通り過ぎてしまいそうだ。瞬は、そっと中に入ってみた。薄暗い。独特な古本のにおいがする。ほんのり甘く感じるのはバニラやアーモンドなどの香り成分と同じ化合物が含まれているから。このにおいは好きだ。瞬は口角を上げる。辺りを見渡すと、ほとんど小説ばかり並んでいた。入口の方から順に奥へと本を辿ってみる。それにしても暗い。――店員はいないのかな? 瞬は小さな店内をグルっと一回りしてみた。会計カウンターはあるが人はいない。その後ろには目隠しのようにのれんがかけられてあった。――奥が住居なのかな。瞬はのれんの隙間からそこを覗いてみた。すると、誰かすっと通り過ぎる人影が見えた。

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