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美帆は十二月のカレンダーを見つめ、今日の日付に赤いペンで印をつけた。
「あと、七か月」
美帆はポツリとつぶやく。
――ピンポーン
突然、玄関のチャイムが鳴った。美帆は「はーい」と声を上げ、ドアを開ける。
「時田 美帆さんでお間違えないですか?」
「はい」
「お荷物です。ここにハンコかサインお願いします」
宅急便のお兄さんが小ぶりの段ボールを持ちながら指で伝票を差してくる。美帆はそこにサインをして、段ボールを受け取った。
「ご苦労様です」
「失礼します」
お兄さんが帰ったあと、美帆は宛先を見た。すると、時田 鈴子と書かれてあった。「鈴子さんだ……」美帆は呟く。少し重みのある段ボールを六畳の居間の床に置くと、しっかり止められたガムテープを指ではがし、開いてみた。中には数種類の野菜が入っていた。美帆はスマホを手に取ると、あるところに電話をかけ始めた。
「あ、お母さん? お野菜ありがとうございます」
『ああ、届いた? あまりたくさんは送らなかったのよ。ダメにしちゃうとあれだし』
「はい、嬉しいです。でも、なんか悪いです」
『そんないいのよ。私がしたくてしてることなんだから。それに全部庭で採れるものだし。良さそうなの入れといたから。良かったら食べてね。美帆ちゃんには元気でいてもらいたいし』
「はい……」
『美帆ちゃん?』
「なんですか?」
『いや、なんか返事が元気なさそうだったから……』
「すみません……」
『あ、いいのよ。気にしないで。ただね、ずっとこのままじゃいけないと思うのよ。まだ難しいかもしれないけど、美帆ちゃんには前向きに生きていってほしいの。あなたには幸せになってもらいたいから……。きっと景介もそれを願ってると思う』
「はい……」
美帆は小さくうなずいた。
『ごめんなさいね。まだ無理よね。私もそうだし……。余計な事言ってしまったわ。じゃぁ、身体には気を付けてね。また連絡頂戴よ』
「お母さんも……」
電話は切れた。美帆はスマホを握りしめ、ベッドに倒れるように横になった。「景介……」美帆はそう呟くと、さめざめと泣き始めた。
美帆はそのまま眠りについてしまった。起きた頃には部屋は真っ暗だった。「雨?」雨の音がした。美帆は慌てて電気を点け、窓を開けてみた。小ぶりの粒が空から落ちていた。ベランダに出て、すぐに洗濯物を取り込むと、居間に置かれてあった、さっきの段ボールに目がいった。小さく息をつく。
今日は日曜日。何をすることもなく終わってしまった。鈴子さんに貰った野菜を保管すると、ヤカンに水を入れ、火にかけた。今日は何も作る気が起きなかった。台所の棚からカップラーメンを取りだす。こういう時のために、いくつか買っておいたのだ。――今日はこれでいっか。お湯を入れて三分待っている間、居間にかけられた時計をみた。「あ!」美帆は時間を見ると、あるものを用意し始めた。小皿に、キャットフードを入れはじめたのだ。もうすぐ来る時間だ。美帆は待ち構えた。
――ガリガリガリ
来た。窓のところから爪を研ぐ音が聞こえた。大体同じ時間に来るのだ。美帆は窓を開けると、そこには小さな黒猫が待っていた。美帆は微笑み、小皿をその猫に差し出した。
「おいしい?」
猫は必死でそれを食べている。美帆は顔を上げた。すると、先隣の家から男がこちらを見ていることに気が付いた。美帆はじっと見ていると、男は急に部屋に入っていった。美帆は首を傾げる。
「あ、そういえば」
空を見ると、雨はもう止んでいた。
 




