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part.17-9 パンジャンドラマーの誇り

 それから異世界で1日が経過し、開発するロケットの方針が粗方纏まった。設計図を広げ、岡田先生のアドバイスやこれまでの資料、経験を基にプロットを作り始める。そんな中、僕の部屋にノックオンが聞こえた。

「カローラだ、入っても良いかい?」

「ええ、どうぞ?」

 僕の返事と共にカローラさんは入室した。

「やあショータ、順調かい?」

「何とか……方針はそこの紙に書いているので自由に読んで下さい」

 言って、山積みになった紙の束を指さした。ここにきてようやく異世界語の読み書きが出来るようになってきた。それでもまだぎこちない所はある。その辺りはグレンやカローラさんに手伝って貰っているのだが……、

「へぇ、パンジャンの残光の推力構造とR-4463の複合……仕組みは面白そうだねぇ」

 書類に目を通しながらカローラさんは言った。

「そっちはどうでした?」

 僕は設計図を作りながら、カローラさんに尋ねた。

「ああ、何とか上手くいったよ。詳細はこの資料を見ておくれ?」

「……それは良かったです!」

 言いながら振り向いて、カローラさんからの資料を受け取った。

「さぁ、これで私の仕事は終いだね」

「……え?」

「そりゃそうさ、今の開発者はアンタだ。私はショータのサポート役でしかないんだよ?」

 と、カローラさんは言った。

「……そうでしたね」

「まあ、仕事が終わったと言ってもこれからは私もサポートするよ。困った事があれば言っておくれ?」

「分かりました。そうします」

「ん、頼んだよ!」

 そう言ってカローラさんは退出しようとしたが、その直前で立ち止まった。

「おっと忘れていた。アンタと話をしたいって言ってた人がいてね?」

「……僕と?」

「ああ、ヘルベチカ計画の技術主任『エルヴィン』伯爵だ」

「名前は聞いたことがあります。ヘルベチカ計画の最高責任者ですよね?」

「そうさ、明日の夜アンタを食事に誘いたいと言っていた。光栄なことだね。その日は空けておいてくれ」

「……分かりました」

 そう言ってカローラさんは今度こそ退出した。

「明日の夜か……どんな人なんだろうか?」

 休憩がてら天井を見上げながら僕はそんな事を呟いた。


◉ ◉ ◉


 それから1日、現実世界では岡田先生や茜と共にロケットの推進についてより詳しい議論を行い、異世界にその結論を反映させた。やはり、ここまで来れたのは岡田先生や茜の協力あってこそなのだろう。そうこうしている内に約束の夜となった。僕は衣装を着替えて食事会に向かう。緊張が走る中、会場のドアを開けた。

「エルヴィン伯爵、初めまして、佐伯翔太です」

「おお、君が……」

 僕が頭を下げると、エルヴィンという男は言いながら僕を値踏みするかのように一瞥した。

「まあ掛け賜え。随分と疲れた事だろう」

「失礼します」

 言って僕とエルヴィン伯爵は席に着いた。テーブルの上には豪華な料理がいくつも並んでいる。見るだけで既にお腹が満たされそうだ。

「開発は順調のようだな、君のレポートは読ませてもらった」

 エルヴィン伯爵が食事に手を掛けたのを見計らって僕も同じように食べ始める。食事の作法などはある程度カローラさんに教えてもらったが、やはり慣れない貴族との食事だ。動きがぎこちないし料理の味も最早分からない。

「ありがとうございます」

「君に一つ聞いてみたい事があったんだ。パンジャンの残光についてだが、君はパンジャンの残光に魔法を付与すると言っていたな?」

「はい」

 僕がそう言うと、エルヴィン伯爵は自分の髭を撫でながら頷く。

「実に面白い話だ。これまでパンジャンの残光は魔法を使用し、動作しているものだと考えられていた。過去にパンジャンの残光を研究していたカローラも、その例外では無い」

 エルヴィン伯爵は続ける。

「そんな中、君はその考えを否定し、いとも簡単に原理を解いて見せた。一体どうやってこの答えに辿り着けたのだ?」

 と、エルヴィン伯爵は尋ねる。……随分と回答に困る質問だ。ここは異世界、まさか『ネットで調べた』なんて言えるはずがない。

「……パンジャンの残光を調べた時、ふと見つけたんです」

「見つけた?」

「黒い、油のようなものがこびりついていました。それを取って火にかけると、激しく燃え上がる」

「君はそれが燃料だと思ったのか?」

「ええ。それからはこの物質を特定する為に試行錯誤を繰り返しましたよ。詳細は資料で報告した通りです」

「ふむ、君はこの国に2人といない功労者だな」

「……光栄です」

 と、互いに笑顔を見せる。打ち解けたという雰囲気ではないが、笑顔になれただけ荷が軽くなったような気がする。

「……ありがとう、お陰で少し君の事が知れた。君にヘルベチカ計画の一端を任せられるかどうかはまだ分からない。だが、くれぐれも励みたまえよ?」

「はい、勿論です」

 言って、僕たちは握手を交わした。


◉ ◉ ◉


 こうして食事会はなんとか事なきを得た。部屋に戻ってから深いため息を吐き、ベッドに寝転がる。

「……かなり緊張したな。これからもこんな機会があるのだろうか?」

 不安になりながらも自室に戻れた安堵感で、部屋の明かりを消すことも忘れて眠ってしまった。


続く……


TIPS!

佐伯 栞⑤:井上紗耶香をはじめとするいじめグループに苛められており、それが原因で自殺してしまった

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