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part.17-8 パンジャンドラマーの誇り

 ヘルメピアの王城へ着いてからは部屋を案内された。荷物を下ろしてからカローラさんと再合流し、ヘルベチカ計画の指導者から今回の研究についての説明を受けた。僕達の最終目標は『パンジャンの残光を量産すること』——つまり、ヘルメピア連合王国でも量産する事が可能なロケットエンジンを制作する事にある。過去にカローラさんはロケットエンジン『R-4463 レディ・ロケット』を開発したのだが、このロケットは魔法エネルギーを使用しており、その消費エネルギーは膨大なものとなる。その為、量産には多くの魔法資源を要するが、そんなものはヘルメピアの国力を以てしてもは絶望的であり、量産は不可能との判断を受けたらしい。それがこれまでの出来事、しかし僕がパンジャンドラムの推力源を発見した。つまり、

「君たちが証明してくれたデータを基に、R-4463を改良し、ヘルメピアでも量産可能なロケットを作り上げて欲しい」

 と、ヘルベチカ計画の指導者は締めくくった。本開発計画のコードネームは『Leishent(レイシェント)』——このコードネームから、僕とカローラさんは『チーム・レイシェント』と呼ばれる事となった。


◉ ◉ ◉


「こ、これは……」

 ヘルメピア王国軍から要求されたロケットの性能は想像を絶するものだった。推力の最低ラインは問題ないが如何せん資源が少なすぎる。物理資源を用いるパンジャンの残光、魔法資源を用いるR-4463……そのどちらを用いても軍の要求する省資源に達する事は出来ないものだった。

「相変わらず上も無茶な事を言う……まぁ、それだけ期待されてるって事だね?」

 さも当然のようにカローラさんは言った。

「以前、ヘルベチカ計画に関与していた時もこのような要求を?」

「ああ、ロケットの解析、開発よりも上との交渉の方が辛かったさ?良いかいショータ、上層部は開発過程の報告書を読まない。だから私らの……いや、科学や魔法の限界なんて知らないし興味も無いのさ」

「……なるほど、ではこの要求は?」

「明日にでも上層部と交渉してくるよ、アンタは計画実現の構想でも組んでおきな」

「分かりました。紙とペンを持っていきます」

「ああ、そこに置いてあるから好きに使いな」

 筆記用具一式をカローラさんから借りて僕は自分の部屋へ戻った。


◉ ◉ ◉


 翌日、現実世界にて、

「そうか、確かにそれだけの条件でロケットを制作する事には無理があるだろう」

 一通りの話を聞いた岡田はそう呟いた。

「ええ、これ程の条件でロケットを制作する為には推力を制限しなければなりません、そうすると今度は軍が要求する推力のスペックを満たせなくなります」

 と、僕は紅茶を飲みながら答えた

「ふむ、魔法資源とやら次第だな……翔太、R-4463のスペックについてもう少し詳しく聞かせてくれないか?」

 と、岡田は尋ねる。

「ええ、R-4463は魔法エネルギーを推力源としたロケットエンジンです。推力自体はオリジナルのロケットと相違ない程らしいのですが、エネルギーの消費が激しい事からやはりヘルメピアでの運用は出来なかったようです」

「なるほどな……となると、魔法エネルギーと物理/化学エネルギーの2種を混合させた新たな推力源の確立——これなら軍の要求をクリア出来るのではないか?」

「なるほど……それならもう少しR-4463についてのデータを掘り下げないといけませんね」

「ああ、それから計画を立てよう。魔法についてもう少し知識を深めてくれ」

「了解です」

 と、僕は言った。


◉ ◉ ◉


 それから1週間、僕は魔法やR-4463ロケットに関する情報を集めた。どうやらR-4463は風魔法と炎魔法を混合させた推力発動システムが採用されているらしく、構造は複雑なものだった。しかし、炎魔法を僕が解明した物理推力に置き換える事で魔法と物理エネルギーを混合させたハイブリットエンジンの開発が可能ではないかと僕は考えた。

「炎魔法を物理エネルギーに置き換える事で魔法:物理の推力比は単純計算で4:6に置き換わる、か……悪くないかもしれない」

 だが、それでも軍が要求する省エネルギーには届かない。その点はカローラさんが現在交渉中だが、論争は劣勢との事だ。

「はぁ……うん?」

 不意にドアがノックされ、後ろを振り返った。

「どうぞ?」

 僕が声を掛けると、ドアが開く。入って来たのはカローラさんに仕えるドラゴンの妖精、グレンだ。

「やあ、カローラ様から君を手伝うように言われてね、順調かい?」

「ちょうど今壁にぶつかった感じだ。なぁグレン、R-4463の魔法推力について知りたい、推力を保ちながらエネルギーを抑えるとなると、あれが限界なのか?」

「そうだよ、そこはカローラ様が長年かけて編み出した技術なんだ。以前のヘルベチカ計画でも同じような要求があってね、多くの実験を通して省エネルギーの研究を行っていたんだ。あれが限界だと自信を持って言えるよ」

「そうか……思ったより壁は高そうだ」

 そう呟きながら僕は天井を見上げた。グレンの言う事に間違いはないだろう。となると、エネルギーの省力化は物理エネルギーの方に焦点を置くべきだが、正直もう限界だ。他のロケット燃料ならばあるいは可能なのかもしれないが、そのいずれもヘルメピアで生産するには技術不足と言える。

「まあ、奇跡を信じて明日、魔法推力と物理推力を混合させた実験を行ってみるとしよう」

 そう呟きながら僕はペンを下ろした。


続く……


TIPS!

カローラ・L・アルテスタ①:ヘルメピアで博士号の資格を得る前は冒険者を務めていた

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