表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/121

part.17-7 パンジャンドラマーの誇り

 それから数日が経過した。異世界ではカローラさんがパンジャンの残光に関するこれまでのレポートを王国へ提出、直ちにヘルベチカ計画の再発足を促した。勿論、カローラさん自身も計画の参加者となるだろう。そして、

「……僕も、ですか?」

「ああそうさ。ショータ、アンタはパンジャンの残光を動かした第一人者だからね。議員側からの注目を浴びるのは当然の事さ」

 と、カローラさんは言った。そう、僕もヘルベチカ計画の開発スタッフとして話がやって来たのである。

「……ルーディさん、どうします?」

 やや自信なさげに僕はそう尋ねた。

「受けるべきだろう。当然だ、俺たちはヘルベチカ計画の足取りを掴む為にここまで来たんだ」

 と、ルーディさんは答える。

「……僕に、務まるのでしょうか?」

「当然さ、アンタはもう立派なパンジャンドラマーとして議員から注目されている。きっと成し遂げられるはずだ」

「パンジャンドラマーって……まあいいや、そこまで言うのなら引き受けます。必ず成功させて見せますので……!」

「頼んだよ、もうアンタは私の教え子なんかじゃない、同じ開発スタッフとして共に戦おうじゃないか!」

「はい!」

 と、僕は言った。


◉ ◉ ◉


 それから翌日、

「ふむ、そんな事が——」

 これまでの話を一通り聞いた岡田はそう言った。

「これも岡田先生と、茜のお陰だよ」

「うん!……って事は私達もヘルベチカ計画開発スタッフの一員になるのかな?」

 と、茜はいたずらっぽく笑って見せる。

「まあ、そうなるかな?」

 と、紅茶を飲みながら僕も答える。

「なるほど……では本日から科学部を改めヘルベチカ計画開発部と改名しよう」

「それはやめて下さい」

 務めて冷静に僕はそう答えた。

「そうか……だが、ヘルベチカ計画は過去にミルド村の崩壊という事故を起こしてしまったのだろう?失敗は許されないな?」

「その通りですね。安全第一で行きましょう」

 岡田の言葉に僕はそう答えた。

「ああ、我々も可能な限りのサポートを尽くそう」

「よろしくお願いします、開発内容は追って知らせます」

「頼んだ」

 そう言って今日の部活は解散となった。


◉ ◉ ◉


 その後、僕は茜と二人で下校する。

「しかし想像できないなー、しょーたが国を挙げて行う程のプロジェクトに参加だなんて?」

「……なんだよ?」

 からかうように言ってきた茜に僕は鬱陶しそうな表情を返す。

「まあ、不便があったら言ってよ、何が出来るか分かんないけど……」

「ああ、と言ってもまだ何も聞かされてないから……その時が来たらよろしくな?」

「ん」

 と、茜は満足そうに笑って見せた。

「ところで、話は変わるけど」

 そう言って茜は僕の一歩前に出た。

「ん?」

「しおりちゃんは元気?」

「……ああ、元気だよ。この間なんて僕が取ってたパンを奪って行ったからな?」

 茜の問いに少しだけ間を置いて僕は答えた。

「ふふ、そっか、よかった——」

 と、茜は答える。その表情は本当に安心しているようだ——、

「——しょーたがシスコンで」

 ——そう思った矢先、茜は急に表情を変え、いたずらっぽくそう言った。

「っ、違うわ!」

 思わず一瞬せき込んだ僕を茜はひとしきり笑う。

「冗談だよ、まあ何はともあれ良かった、私も一度会いたいなー」

 遠くを見ながら茜はそう言った。

「会えずとも僕が話しておくよ、伝言も承ろう」

「……じゃあ、伝えておいて?『今度また遊ぼう』って」

 一考の後、茜はそう言った。それは叶わない伝言でもある。だけどそれでも栞の親友からの伝言だ。

「分かった、そう伝えておくよ」

 と、僕は答える。

「ん、よろしく」

 と、茜は言った。


◉ ◉ ◉


 翌日、異世界にて、

「ショータ、起きな?今日は王城に向かう日だ」

「ん……」

 カローラさんが僕を起こす。そう、今日から僕たちは王城で働く事になるのだ。早々に支度を済ませ、カローラさんと共に屋敷の外に出た。屋敷の庭では僕とカローラさんの他に、見送り目的で栞、イヴァンカ、ルーディさんの3人も居る。

「翔太、くれぐれも気を付けてな」

「ああ、行ってくるよ!」

 イヴァンカとあいさつを交わし、栞の方を向く。

「栞、茜から伝言だ。『今度また遊ぼう』だとさ?」

 と、僕は栞に伝える。

「茜ちゃん……そっか、懐かしいな……」

 と、栞は呟いた。もう叶わない伝言だ。それでも栞は少しだけ嬉しそうにはにかんだ。

「うん、遊ぼう!絶対だよ?」

「ああ、伝えとく」

 そう言う栞に僕はそう答えた。そしてルーディさんの方を向く。

「ショータ、しばしの別れだな。必ず成功させて来い。面白い土産話を期待してるぞ?」

「約束します」

 そう言ってルーディさんと握手を交わした。

「挨拶は終わったかい?じゃあ行くよ!」

 カローラさんに促されて僕も馬車に乗る。

「さあ、ヘルメピアの王城へ行こう!」

「はい!」

 そう言って僕とカローラさんは、屋敷を後にした。


続く……


TOPIC!!

パンジャンドラム・レプリカント試作2号機 危険度 ???


パンジャンドラム・レプリカント試作初号機の後に作られたパンジャンドラム。


初号機は盛大な失敗に終わったものの、ヘルベチカ計画は潰えることなく試作初号機の改良という路線で継続された。これには反対する王国議員も数多くいたが、ヘルメピア王国初となるパンジャンドラムの制作——この熱狂的な夢を費やすにはあまりにも無力であった。


初号機の失敗を踏まえ、試作2号機では胴体内にデッドウェイトを設け、パンジャンドラムの重量を重くしている。しかし、単純に重量を重くしただけでは軽量化に重きを置いて設計された車輪部分が非力で、その重量に耐え切れず自壊してしまうという結果に至り、再設計を余儀なくされる。この為、試作2号機の完成は初号機完成から1年が経過したヘルメピア独立歴65年(西暦2010年)となる。試作2号機は随所に強度を持たせており、華奢な見た目の初号機とは対称的な存在であり、初号機は『サラブレット』、2号機は『ウォーホース(軍馬)』と呼ばれた。


しかし、搭載するロケットエンジンは初号機と同じく『R-4463 レディ・ロケット』であり、搭載数も初号機から変更されていない為、重量増加に伴って速度性能は初号機に劣っており、特に加速力の低下が著しかった。しかし、速度低下から軌道は安定しており、部品脱落が無い事は勿論、横転どころか、軌道が逸れる事も無かった。これはロード・トゥ・ブリティッシュ平原が極めて平坦な地形である事もそうだが、試作2号機の安定性があってこそのものであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ