part.17-4 パンジャンドラマーの誇り
「では行こう!」
「いやまだ行くって言ってない……まあいいや」
未だ口答えする僕に茜は「はいはい!」などと言って僕の手を引いて行った。
図書館に付いてから僕と茜は早々に席を取って各々参考書を漁る。分かりやすそうな参考書を取って席に戻った。
「おまたせ」
なにやら本を取って来た茜は僕の隣に座る。
「……洋書?」
「ダメ元でパンジャンドラムの文献を漁ってみたけどなんとか見つかったよ。まさか本当にあるとはね?」
そう言いながら茜は僕の目の前で洋書を広げる。
「しょーたも一緒に翻訳してみようよ、勉強にもなるだろうし……」
「……それもそうか」
そう言いながら、僕は本のタイトルに目を向けた。
「Panjandrumer’s pride……」
本のタイトルを静かに呟く。僕でも分かる。その意味は『パンジャンドラマーの誇り』だ。
「なんというか……凄そうだな。タイトルだけで胸焼けがするよ」
敬遠気味に僕はそう呟いたが、とりあえず表紙をめくる。内容は『もしもパンジャンドラムが実戦配備されたら』という内容だった。茜と協力しながら翻訳を進める。……なんというか内容はかなり破綻していると言えるほど無茶な設定が多かったのだが、パンジャンドラムを活躍させたいのならこうでもしないと仕方がないのだろう。
「んー、何というか読みごたえはあるんだけど……」
何やら複雑な表情で茜は呟いた。
「まあ、僕らの役に立つかと言われれば微妙だけど……うん、まあちょっと面白かったしこの本借りてみようかな?」
パンジャンドラムが敵の重戦車を踏み潰すシーンがあるのだが、それが中々に胸熱な展開だった。勿論納得はいかないのだが……。
「……うん、岡田先生に見せたら喜ぶんじゃない?」
「めんどくさい事になりそうだからそれはしない」
と言うと、茜は「そっかー」と、少し残念そうな表情で呟いた。
◉ ◉ ◉
その後、僕たちは『Panjandrumer’s pride』の洋書を借りて図書館を後にする。茜と別れてからは寄り道する事無く家に帰った。
「お帰り、翔太」
「ただいま、父さん。母さんは病院?」
家に帰ると父さんが僕を出迎えた。
「ああ。だが、もうすぐ完全に退院できるんだとか……」
父さんは少し嬉しそうにそう言った。
「それは良かった!何かパーティでも開かないとだな?」
廊下を歩きながら僕はそう言った。
「ああ、お前の方はどうだったんだ?」
「僕?いつも通りだよ」
「部活、まだ引退しないのか?」
「まあ、そうだね。……ただ、部活と言っても先生が受験勉強の事を教えてくれるんだ。ほとんどはその為だね」
「へぇ、それはいいじゃないか」
と、父さんは言った。勿論パンジャンの事は一切話していないが、まぁ話す必要もない事だ。
「さぁ、メシにしよう。今日は珍しく俺が作ったんだ」
「へぇ、それはすごいな!」
そう言いながら僕たちはリビングに向かった。
◉ ◉ ◉
それから翌日、カローラさんの屋敷で目を覚ました僕は早々に朝食を済ませ、魔法の訓練となった。今回からは本格的に栞と合同での訓練だ。僕は『マークコード』という情報処理魔法の訓練で、栞は『パイクリート・ニードル』の訓練だ。この為、前日での訓練と同様に栞は目隠しをして訓練を行っている。
「パイクリート・ニードル!」
その言葉と同時に勢いよくパイクリートの弾丸が飛ばされる。僕の指示通りに栞は魔法を放ったが、パイクリートは目標から大きく逸れる方向に着弾した。
「やはりダメか……」
とはいえ情報処理魔法はトライ&エラーの繰り返しだ。この事はシュリュッセルで散々学んできた。
「どうだいショータ、上手くいきそうか?」
「難しいですね。まだまだ先は長そうです」
唯一の救いと言えば何を失敗したのかが大方判断出来る事にある。まあ、それを修正すればまた新たな失敗が出てくるのだが……。
「そうだねぇ、アンタも薄々勘づいてるとは思うけど情報処理魔法ってのは効果が地味なくせに取得までが長いんだ。だから情報処理魔法を扱う魔導士は少ないのさ。取得しようとして挫折した魔導士も少なくない」
「……なんとなく想像できます」
と、僕は苦笑した。
「だからアンタは諦めないで欲しいね。確かに情報処理魔法は地味だけど、マスターすればきっと冒険の役に立つだろうからさ?」
「勿論分かってますよ。僕は情報処理魔法で栞を救ったんです」
「おや、そうなのかい?」
「ええ、だからシュバルツ・アウゲンを使いこなして見せます。必ずです」
「いい心がけだ。だけど、そろそろソフィーの魔力も切れる頃合いだろう。今日はここまでだね?」
「おっとそうか……栞―、今日はここまでだ!」
そう言うと、栞はとてとてと僕らの元へ近づいてきた。
「お疲れ様、今日もありがとう」
「ん」
いつのまにか栞は僕の魔法が失敗している事に悪態をつかなくなっていた。そのまま僕らはカローラさんの屋敷へ帰り、昼食の支度をする。
「ショータ、昨日の返事だ」
と、不意にカローラさんが僕に話しかけてきた。
「昨日の……パンジャンの残光について、ですか?」
「ああ、一晩中考えたよ。もしかしたらこの答えが間違っているのかもしれない——今もそう思えて仕方がない。だけど……」
そう言ってカローラさんは一拍置いた。
「少しだけアンタの言葉を信用してみる事にするよ。パンジャンの残光に、再び光を灯しておくれ?」
「……カローラさん」
それはつまり、パンジャンの残光が僕に託されたという事になる。
「ありがとうございます。約束します」
「ああ、くれぐれも壊すんじゃないよ?」
「勿論です!」
そう言ってカローラさんの手を取った。
◉ ◉ ◉
昼食を終えて僕は一人、パンジャンの残光が置かれている小屋へ向かった。パンジャンの残光に手を触れ、ゆっくりと額を当てる。
「燃料のサンプルは完成している。黒色火薬だって存在するんだ、ギリギリ異世界でも作ることが出来るはずだ」
そう呟きながらパンジャンの残光から額を離す。
「待っててくれ、必ず光を灯して見せる……!」
それだけ言って僕は小屋を後にした。
続く……
TIPS!
パイクリート・ニードル:綿を用いて作り出した氷の針を敵に飛ばす攻撃魔法。貫通力が高い。




