part.17-3 パンジャンドラマーの誇り
それから翌日、現実世界で目を覚ました僕は手早く支度をして夏休みであるにも関わらず学校へ向かう。部活という名を盾にした岡田克典のパンジャン講座というやつだ。茜と合流した僕たちは早速化学室へ入る。
「……岡田先生」
化学室に入室するや、岡田が一人、室内で僕らを待っていた。何でもいいが僕はともかく茜に関してはとばっちりとしか言いようがない。
「来てくれたようだな、では始めよう」
言いながら岡田は僕達を席に誘導する。黙って指示に従い、席に着いた後、僕は岡田にこう言った。
「岡田先生、一つ質問があるのですが……」
「……どうした?」
「パンジャンドラムのロケットエンジン……あれは何を燃料に動いているのでしょうか?」
「愛と希望」
「はぁ?」
岡田から適当な言葉を貰い、半ば苛立った口調で僕はそう返事した。
「いや落ち着きたまえ、流石にロケットの構造や燃料に関しては私も分からない」
「だったら最初から……」
「ブリティッシュ・ジョークというやつだ」
岡田の発言に僕は無言で目頭を押さえる。
「気に召さなかったかな?まあいい、ロケットの燃料が知りたいのか?」
「ええ、パンジャンの残光を再び動かす事が出来るのなら、ヘルベチカ計画に一歩前進できるかもしれないのです」
と、僕は言った。
「なるほど、君らしい考えだ。私の知る限り、残念ながらパンジャンのロケットに限定した日本語文献は存在しない。私としても『これではないか?』という候補は存在しているのだが、いかんせんソースが不足している。だが英語文献となると話は別だ。そうだろう、住屋?」
「はぁ、まあ、その通りですね」
急に茜に話を振る岡田だったが、茜は終始適当な返事を返した。
「そんな顔をするな、翔太だって君の力を欲している。そうだろう?」
そう言って岡田は僕に話を振る。正直言って岡田の話に乗るのは癪だが、ここは乗るしか無いだろう。
「そう、ですね。茜、僕も異世界の為にロケットの推力源にかんする情報が必要なんだ。どうか力を貸してくれないか?」
「まあ、最初からそのつもりだったし……んじゃ、暫く調べていればいいんだね?」
「ああ、ネットは繋がっているからそっちのPCを使ってくれ」
言って岡田は化学室の一角に置いてあるPCを指した。茜はそこに座り、黙って作業を始める。
「翔太、あらかじめ聞いておきたい。異世界の文明はどの程度まで進んでいる?」
「中世の時代と同程度といったところだと思いますよ」
「そうか……もしかしたら、その文明レベルではロケットは動かないかもしれない。あらかじめそれを理解しておく必要はあるだろう」
「勿論そのつもりです」
と、僕は答えた。
「それならいいんだ。では、我々は準備を始めよう」
「準備?一体何の……」
「実験だよ。ここが何の部屋なのか忘れたのか?」
「実験と言われても……何の実験ですか?」
「勿論ロ『ロケット燃料に関して』だ。住屋が調べた内容を僕らで実証する。そうして初めて真実にたどり着けるだろう。違うか?」
「なるほど、そのために……」
「爆発物は基本的に準備室の奥にしまっているはずだ。手伝ってくれ?」
「分かりました」
そう言って僕と岡田は準備室へ向かった。
◉ ◉ ◉
その後、僕らは茜の情報を基にロケット燃料のサンプルを作り、燃焼実験を行う。試験の結果は良好なものでおおむね意図通りのものが得られたと言えるだろう。
「何とか、燃料のサンプルが出来ましたね」
「ああ、今日はこの位にしておこう」
満足した表情で岡田はそう言った。
「ロケットに関してある程度情報をある程度まとめておいたんでこのPCに残しておきますよ」
と、茜は言った。
「ありがとう、回収しておくからPCの電源は付けたままでいてくれ」
「はい」
そう言って茜は自分が元いた席に戻って来た。
「では解散としよう、夜道には気を付けるんだぞ?」
「まだ昼です。お疲れ様でした」
言いながら、僕と茜は化学室を後にした。
「ふぅ……ねぇしょーた、午後は暇?」
帰り道の途中、茜はふとそう尋ねてきた。
「え……まあ、特に何もないけど」
「それなら近くの図書館で勉強して行かない?図書館デートといこうじゃないか!」
胸を張って茜はそう言った。
「いやデートってお前……」
「?違うの?」
と、茜は首を傾げる。
「いや違うとは言い切れかもしれないけど……」
口ごもる僕をひとしきり笑ってから茜はこう言った。
「では行こう!」
「いやまだ行くって言ってない……まあいいや」
未だ口答えする僕に茜は「はいはい!」などと言って僕の手を引いて行った。
続く……
TIPS!
岡田克典②:紅茶よりもコーヒー派だが最近無理して紅茶を飲んでいるらしい




