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part.17-2 パンジャンドラマーの誇り

 翌日、異世界で目を覚ました僕は栞と共に朝食の支度をする。カローラさんが既に料理を作り終えていた為、僕たちは料理の運び係だ。

「結局、例のヘルベチカ計画はどうなっているんだろうね?」

 不意に栞がそう呟いた。

「さあ、ルーディが調べているって言っちゃあいたけどあの様子じゃあ新しい情報は無さそうだねぇ」

「……やはり、ついえたとはいえ軍事計画ですからね。そう簡単に調べられるものではない、か……」

 カローラさんの言葉に僕はそう呟いた。

「心配しなさんな、この手の情報戦は根気がいる。むしろここまで来れたんだ。きっと真実にたどり着けるだろうさ?」

 励ますようにカローラさんは言った。

「……なるほど、そうですね」

「さあ、分かったらこのバケットをテーブルに運んでおくれ?」

 そう言われて僕はカローラさんから様々な種類のパンが入ったバケットを受け取る。

「これで、一通り準備が終わりましたね、今日はクロワッサンが多いな」

「シオリのリクエストさ?さあ、二人を呼んできておくれ?」

 カローラさんがそう言うと、栞は表情を誤魔化すようにぺろりと舌を出した。

「なるほど、じゃあ僕はルーディさんを呼んでくるよ。栞はイヴァンカを……」

「分かった」

 そう言って僕たちはリビングを後にした。


◉ ◉ ◉


 それから午後になって僕はいつも通り情報処理魔法の訓練を受ける。

「鍵は……これです」

 そう言って僕は無造作に置かれた鍵の中から一つを手に取って南京錠に差し込んだ。

「……やった!」

 鍵を捻るとガチャリと音が鳴る。たちまち南京錠が外れてシャックル(南京錠の逆U字になっている部品)が開いた。

「おお、よくやったね。最近は百発百中じゃないか」

「カローラさんのお陰です。ありがとうございます」

「気にするこたぁないよ。……そろそろ新しい魔法を教えても良いかもしれないね」

「……それは」

「付いておいておいで、外で教えるよ」

 言われるままに僕はカローラさんに付いて行った。


◉ ◉ ◉


 屋敷を出てからしばらく歩いてロード・トゥ・ブリティッシュ平原に出た。何故か栞も呼ばれており、栞も居る。

「ここがいいな、ここで始めよう」

「一体なにをするんですか?」

「その前にショータ、アンタは弓なんかの射撃武器を扱ったことはあるかい?」

「……いえ、無いです」

「無い、か……()()()()()()()だ」

「……え?」

 僕の困惑をよそにカローラさんは平原の一角に的を置いた。

「シオリ、これから射撃訓練を行う。ただし、目隠しをした状態で射撃するんだ」

「え、私が……?」

「そうだ、射撃の指示はそこのショータが行ってくれる。彼の指示に従うんだよ?」

「え、僕が……?」

 カローラさんの言葉に僕達兄妹は似たような反応を示す。

「そうさ、今から私がアンタに教える魔法は『マークコード』——射撃物の弾道を読む情報処理魔法さ?」

 と、カローラさんは言った。


◉ ◉ ◉


 『マークコード』とは、弓や魔法などの射撃攻撃、投石等の投射物の弾道を情報処理魔法で読み取る魔法だ。この魔法では投射物の物理的構造や重量、風向きといった情報を正確に読み解く事が重要となる。

「マークコードを覚えられれば射撃武器が容易に扱えるようになるだろう。覚えて損はないだろう?」

 と、カローラさんは言った。

「なるほど、確かにそうですね」

「じゃあ始めようか。今栞は目隠しした状態で魔法射撃の準備を行っている。アンタは栞の射撃魔法の弾道を呼んで指示を送ってくれ?」

「分かりました」

 そう言って僕は言われた通りに魔法を使う。

「栞、右を向いて……よし、それでいい。あと上に向けて……」

「……こう?」

 目隠し状態の栞は困惑気味に尋ねる。

「そこで止まって……これで良いのか?」

「私に聞かないでよ」

 栞に突っぱねられて僕は一瞬目を逸らした。その後意を決して的を睨む。

「撃て!」

「パイクリート・ニードル!」

 僕の合図で栞は勢いよくパイクリートの針を射出する。

「……当たった?」

「いや、外れた」

「……兄さん?」

「いや初めてだったんだよしょうがないだろ!」

 目隠しを外して僕を睨む栞に僕は言い訳をする。

「はいはい、喧嘩しなさんな。もう一回行くよ?」

 カローラさんが仲介に入り、仕切り直しとなる。2回目の訓練を行ったが、これも案の定外した。というか目標にかすりもしていない。3回目、4回目……と、訓練を続けたが、やはり命中には至らなかった。情報処理魔法のノイズが多く、現状では正確な情報がどれなのかすら分からない。

「こんなものか……今日はここまでにしよう」

 カローラさんの言葉で訓練は終了となる。

「……結局1発も当たらなかったじゃん」

「許してくれよ栞、夕飯のクロワッサン分けてやるからさ?」

「子ども扱いしないでよ!」

「じゃあいらないの?」

「……いるけど」

 ふてくされたようにうつむきながら栞はそう言った。

「……いやぁ、微笑ましい兄弟のやり取りってところだねぇ……」

 後ろから付いてきていたカローラさんがそう言った。

「……いや別にそんなんじゃ……」

「おっと、夕飯の前にちょいとパンジャンの残光を見に行きたい。付き合ってくれるかい?」

「?何かあったんですか?」

「いやなに、日ごろの日課さ。付いてこないなら先に帰っててくれ」

「いえ、行きます。栞も来る?」

「私も行く」

「じゃあ決まりだね」

 そう言って僕たちはカローラさんの後を付いて行った。


◉ ◉ ◉


 『パンジャンの残光』——かつてヘルメピアを救ったとされるロケットエンジンの事だ。その筒状の物体は70年という時を経たにしては綺麗な状態を保っていた。

「私は日々コイツの手入れをしているのさ。と言っても、出来る事といえば周りの錆落としくらいだけどね?でも、大分錆は落ちているだろう?」

「……手伝いますよ」

 そう言って僕と栞は砥石を持った。

「ありがとう、二人は表側を手伝っておくれ?」

「「はい」」

 そう言ってパンジャンの残光の表面を擦る。ある程度錆は落としてあるらしく、残っているのは細かい錆くらいのものだった。

「カローラさん、パンジャンドラムは何処からやって来たものなんですか?」

 ロケットを磨きながら僕はそう尋ねた。

「さあ?それは文献によって言ってる事がバラバラだからなんとも言えないねぇ……なんでも、空から突然降って来たとかいう話まであるくらいさ?」

 と、カローラさんは答えた。やはりパンジャンドラムは本来、僕達がいた現実世界のものなのだろう。どうやってここまでやって来たかは不明だが、もしかすると何かしらの力で転移したのかもしれない。

「……いや、まさかな?」

「ん?なんか言ったかい?」

「いえ、なんでもありません」

 僕は慌ててそう答えた。どうやら無意識に声が出てしまっていたらしい。


 何故かここに流れ着いてきたパンジャンドラム。そのロケットである『パンジャンの残光』、この推力源は今も解明されていないとカローラさんは言った。もしもパンジャンドラムが本当に現実世界のものであるとするならば……、

「今、ロケットの推力源の情報を知る事ができるのは、僕だけという事になるのか?」

「なんだいショータ、さっきからぶつぶつと……」

 カローラさんの言葉をよそに、僕は立ち上がる。

「……カローラさん、もしかしたら僕は、『パンジャンの残光』の推力源を特定できるかもしれません」

「……それは、冗談ではないのかい?」

「ええ」

「何故そう思える?」

「……今まで隠してきましたが、僕が住んでいた場所にパンジャンドラムの情報があるんです。もしかしたらそこに……」

「推力源に関する情報が……?」

「確実ではないので分かりません。ですが一度、『パンジャンの残光』を僕に任せてはもらえないでしょうか?」

 僕はそう言った。カローラさんは一考の後、こう答える。

「……また、おっぱじめようってのかい?」

「……と言いますと?」

「私ゃ怖いんだ。ヘルベチカ計画がまた動き出したら……って考えると、ミルドの時と同じような悲劇が起こるかもしれない」

「……」

「勿論パンジャンの残光は今もここに置いてある。本当ならこんなもの、捨てちまえば全部終いなんだけどね……ただ、コイツは私に仕事をくれた。私をここまでの地位にのし上げてくれたのさ」

「それは……」

「少し考える時間をくれ、悪いようにしない為の……」

「……勿論です。僕も今すぐとは言いませんから」

 と、僕は言った。

「ありがとう。さあ、ルーディ達が腹を空かしてる頃合いだろう。そろそろ帰るとしようか」

「「はい」」

 そう言って僕たちはパンジャンの残光が置かれている小屋を後にした。


続く……


TIPS!

ヘルメピア王国軍『ROYAL ARMY』①:シールドボウを扱う為、兵士は食事中に逆の利き手でフォークを持つ等の両利きになる訓練を受けている。

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