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part.17-1 パンジャンドラマーの誇り

 一か月後、

「夏休み、だーーーーーー!!!」

 化学室で二人、ビーカーのお茶を飲みながら茜はそう叫んだ。

「おいおい、今年は受験なんだぞ?」

 その茜に呆れるような声で僕は言う。

「分かってるよ、しょーたは冷たいなぁ……」

「別に冷たくないだろ……にしても呼び出しておいて遅いな。そろそろ30分だぞ……」

 言いながら僕は窓に目を向けた。そう、今日は岡田に呼び出されて僕達二人は化学室に居るのだ。何故茜まで呼ばれたのかは知らんが……。

「また長いホームルームでもやってるんじゃない?」

 茜は黒板に書かれてある『Please wait』の文字を見ながらそう言った。流石に茜の表情にも呆れの色が出始めている。

「帰るか……」

 僕はそう言っておもむろに帰り支度を始める。その時だった。

「待たせたな!!」

 その声と共に勢いよく岡田が化学室に入室した。僕も茜もあまり歓迎する様子は無い。

「流石に遅いですよ」

「悪い悪い、ヒーローとパンジャンは遅れてやって来るものなのだよ。何故なら、パンジャンはヒーローだからさ?」

 その言葉と共に岡田はウインクを一つ決める。

「……で、何の用ですか?まさか茜まで呼ぶなんて……」

「決まっているだろう、パンジャンについてだ」

「はぁ……」

 岡田の発言に僕は呆れるような返事を返す。

「まあいい、今日は俺がパンジャンの事を聞きに来たんだ」

 と、岡田は言った。

「……え?」

「翔太、君は見たんだろう?異世界のパンジャンドラムを……」

「まあ、その通りですが……」

「聞かせて欲しいんだ、異世界で輝くパンジャンドラムの栄光というものを……」

「いや別に輝いてはいないですけど」

 そう前置きした上で、僕はヘルメピアの事、異世界の事……そして、パンジャンドラムやヘルベチカ計画について知る限りの事を話した。

「……なるほど、その『パンジャンドラム・レプリカント』とやらのせいで、計画は頓挫したのか……」

「いえ、頓挫したかどうかはまだ分かりません。ただ、その可能性は高いかと……」

「聞いた限りだとレプリカントはほぼパンジャンドラムと変わらない構造になっているはずだ。しかし何故パンジャンが異世界に……?」

「それは分かりません。でも、パンジャンドラムはヘルメピアを救った神器なのだとか……」

「なるほどな……一つのロケットエンジンの存在が、新たなパンジャンドラムを生み出したという事か……」

「あ、あのー」

 僕と岡田が話している中、申し訳なさそうに茜が尋ねた。

「これって私が来た意味あります?」

「ああ、勿論だ。君も異世界パンジャンについて何か思うところがあれば遠慮せずに是非言ってくれ?」

「はぁ、特に無いですけど……」

「そうか、随分退屈そうだな……では、君に仕事を与えよう」

「……仕事?」

 茜は怪訝そうに尋ねる

「そうだ。時に住屋、君は英語の成績が良かったな?」

「……はぁ、まあそうですけど……」

「私が君を呼んだのはこのためだ。君に本国イギリスのパンジャンドラムにかんする資料を収集、確認して欲しいと思っていたのだ」

「……私が?」

「そうだ、なんせ私は英語がからっきしでな?勿論、君が良ければの話だがね?」

 そう言って岡田は茜の方を向いた。

「まあ、それでしょーたの為になるっていうのなら……ただし、しょーたはともかく私にまで変なこと吹きこまないで下さいよ?」

「おい待て何で僕は良いんだよ」

 茜の発言に僕が抵抗した。

「まあいい。兎に角住屋、君はこれからパンジャンドラムについて調べて見て欲しい。私もパンジャンの全てを知っているとは限らないからな」

「……分かりました」

 言って、茜は化学室に備え付けられているPCを起動した。


◉ ◉ ◉


 その後、一通り思いついた内容をネットサーフィンしてパンジャンドラムと異世界の関連性について調べた。当然ながら異世界に関しての情報は存在せず、パンジャンドラムの情報についても既知の内容ばかりだった。

「ふむ、こんなものか……やはり私の見立て通り、レプリカントやヘルベチカに関してはこの世界の内容ではないらしい」

「どうやらそのようで……」

 岡田のつぶやきに相槌を打つ。

「なるほど、ひとまず今日はこれくらいにしておこう。また明日、パンジャンドラムについてより詳しく調べて行こう」

「えーまだ続けるんですか?」

「勿論だ。住屋、君も必ず来るんだぞ?」

「まあいいですけど……」

「じゃあ、解散しますか」

 そう言って僕は帰り支度を始めた。

「ああ、お疲れ様」

 岡田はそう言って僕らを見送った。


◉ ◉ ◉


「どうだった?」

「どう、とは?」

 帰路の途中、一緒に帰っていた茜が僕にそう尋ねた。

「今日の調査、役に立ちそうだった?」

「うーんそうだな、今のところは特に目新しい情報は無かったけど、僕も英語関係で茜には頼ろうと思っていたところなんだ。今後も協力してくれると嬉しいよ」

「そっか……なら、帰ってからもちょっとだけ調べてみるよ!しょーたも何か思いついた事があったらいつでも言ってね?」

 茜は振り向きざまにそう言った。

「ああ、助かるよ」

「それじゃあ、また明日!」

 そう言って僕らは別れた。


「……ただいま」

 家に帰ってから僕はそう言った。勿論、こう言ったのには訳がある。

「翔太か、おかえり」

「おかえりなさい」

 玄関を上がると、父さんと母さんが出迎えてくれた。そう、もうこの家は一人じゃないのだ。父さんも無事に退院し、母さんはまだ療養中だが、時々家に帰ってきている。

「随分遅かったじゃないか、何かあったか?」

「部活だよ、化学室で受験勉強しても良いって先生が言ってくれてね、それに甘えてる」

 と、僕は言った。勿論これは半分以上嘘だが、まさかパンジャンについて調べているなんて言えるはずがない。

「そうか、夕食も出来ていることだ。早く来い」

「はいはい」

 言いながら僕はリビングに向かった。


続く……


<今日のパンジャン!!>

例えどんな力で捻じ曲げられようとも、進路は常に変わらない。

パンジャンドラムはただ、正義への道を進むのだ。

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