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part.16-1 溶けない氷は……

 翌日、現実世界で目を覚ました僕は無言のまま登校の支度を済ませ、朝食を取る。慣れもあってか、最近は家が一人である事に何とも思わなくなった。とはいえ茜に助けられたのも大きいだろう。今日も恐らくいつもの公園沿いの道に茜がいる。そう思いながら家を飛び出し、いつの間にか息が切れるもの忘れて走り出した。

「あ……」

 僕を見るや木陰で待ちぼうけしていた茜が顔を上げる。たちまちパアっと表情を変えて大きく手を上げた。

「おはよーしょーたー!」

「……おはよう」

「なんか息が荒いけどもしかして走ってきた?別に急ぐ時間じゃないのに……あ!もしかして早く私に会いたかった……とか?」

「そんなんじゃない、単に時間を見誤っただけだ」

 と、僕がそっぽを向くと茜はわざとらしく落胆する。

「えー、残念……」

 言いながらとぼとぼと歩き始めた茜に付いて行く。基本的に茜の行動はオーバーリアクションでわざとらしいが、それゆえに意外と感情が読みにくい。

「ところでしょーた、今日って部活あるの?」

「え?あー、そういえばあったな」

「そういえばって自分の部活じゃん……それなら私も行っていい?どうせ今日の英語課題でるだろうし教えてあげるよ」

「それはありがたいな……別にいいよ。多分岡田も許すだろうし」

 そう言うと、茜は「ヤッター!」と、(≧▽≦)みたいな表情で呟いた。


◉ ◉ ◉


 時間は経過して放課後、茜と二人になれる事に高揚しながら僕は化学室に入ったが、その高揚感が一気に消沈した。

「しまった……忘れていた」

 黒板に書かれた『Please wait』(ここで待て)の文字。また始まってしまうのだ、パンジャンの哲学講座が……。そうこうしている内に化学室のドアが開かれる。

「やっほーしょーた!」

「茜か……今すぐここを離れた方が良い」

「ん?ドユコト……?」

 本気で意味が分かっていない茜を無視して僕は続ける。

「アイツ普通じゃないんだ!このままじゃ二人とも殺されて……」

「いや話が見えないよ……まあいいや、数学教えて?」

「ああ……まあいいや、その内分かるか……」

 半ば放心状態で僕は適当な席に着き、茜はその隣に座る。

「……ところでしょーた」

 勉強道具を広げながら茜は尋ねる。

「ん?」

「久々に聞かせてよ、異世界のこと」

「あー、最近忙しくて話せなかったな」

 そう呟いて勉強道具を広げながら、僕はこれまで異世界での出来事を粗方話した。ヘルメピア連合王国に出向いた事、そして……、

「そこにあったのが『パンジャンドラム』だ」

「……なにそれ?」

「今はまだよく分からない。でも、パンジャンドラムは昔、ヘルメピアを救った神器と言われていて、今もヘルメピアの人たちはパンジャンドラムを崇拝しているんだ」

「へー」

「何より不可解なのが……」

「話は聞かせてもらった!」

「うわっ!!」

「きゃっ!!」

 いきなり背後から何者かによる声がかけられて僕と茜が奇声を上げる。振り向くといつの間にか岡田が立っていた。

「お、岡田先生!?」

「話は聞かせて貰ったよ佐伯……いや、翔太!どうも君からパンジャンドラムと似たスピリチュアルを感じていたんだが、まさかそんな境遇に立たされていたとは……!」

「いや何を言ってるんですか!」

「……あの、先生はパンジャンドラムを知っているんですか?」

 話の流れに付いて来れていない茜は不意に岡田にそう尋ねた。

「茜!?お前、なんて事を……!」

「……まさか君もパンジャンドラムに興味を抱いているのか?」

「いえ別に……」

「ああ、そうか……」

 茜からの素の返事に岡田は目に見えて落胆する。しかしその直後、体制を立て直して僕の前に立った。

「だがしかし、まさか異世界にパンジャンドラムが存在しようとは思ってもみなかった。一人のパンジャンドラマーとして、最大限に之を恥じよう……」

「いや何を言ってるんですか……っていうか、今の話信じるんですか?僕が異世界でパンジャンドラムを見たっていう話……」

「当然だ。何故なら、それがパンジャンだからだ!」

 力強く胸に手を当て、まるで宣誓でもするかのようにはっきりと岡田はそう言った。

「頭痛くなってきた……茜、ここは逃げた方が」

「じゃ、じゃあお先に……」

「待ちなさい、まだ話は終わりじゃない」

「ええ……」

 半ば強引に茜は席に戻された。


◉ ◉ ◉


 結局、日が落ちるまで岡田のパンジャン授業は続いた。

「ねえ、結局パンジャンって何だったの?」

「知るか……」

 その日の帰り道、茜の問いに力なくそう答えた。

「まあいいや、でも良かったよ。しょーたが落ち込んでなくて……」

「え?」

「しおりちゃんの自殺から立ち直れたみたいで」

 にっこりとした笑顔で茜はそう言った。

「……あー、そうだな。お陰でだいぶ立ち直れた」

「うん。だからさ……」

 そう言って茜は僕の正面に回り込んだ。

「そろそろ、お父さんと話してみたら?」

「……え?」

 予想していなかった茜の発言に僕は呆けた声を上げる。

「お父さん、今もずっと家に帰ってないんだよね?」

「ああ、そうだな……」

「しょーたはそれでいいの?」

「……そりゃあ、良い訳ないけど」

「だったら今のうちに話した方が良い、どうせあれから顔合わせて無いよね?」

 と、茜は言った。

「……今なら話せるかな?」

「っていうか今が良いよ!この期を逃せばきっと受験勉強で忙しくなるから……」

 迷いを見せる僕に茜はそう言った。


 『佐伯 友文(さいき ともふみ)』——僕の父さんは栞が自殺してからワーカーホリックとなり、家に帰る日がなくなってしまった。きっと家庭の事なんて忘れて今も仕事をしているんだろう。いや、家庭の事を忘れる為に仕事をしているんだろう。


「……それもそうか。分かった、父さんと話を付けてみるよ」

 僕は茜にそう言った。

「うん、頑張ってね」

 見送るように茜はそう言った。その後、僕らは分かれてそれぞれの帰路に就いた。


続く……


TIPS!

ヘルメピア連合王国①:通称『パンジャンの王国』力のある国だが変わり者が多い

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