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part.15-3 Pykrete needle!

「ぐっ!……うわあああああああああああ!!!」

 膨大な情報量に耐え切れず、僕はその場に蹲る。この感じ、シュバルツ・アウゲンを使った時と同じだ。

「さあ坊や、私と話しをしよう。なんだっていい、話題が思い浮かばないなら天気の話でも良いさ。何か君から私に話しかけておくれ?」

 痛みに耐えつつ何とか立ち上がるが最早カローラさんの声なんて聞こえない。

「おや、立った……今まで半信半疑だったが、どうやら初めてでシュバルツ・アウゲンを使用したって話は本当だったんだねぇ……強度を上げるよ!」

「……っ!ああああああああああああああ!!!!」

 なんとか立ち上がった途端、更なる情報量が僕の頭を襲う。強い痛みの他に激しい耳鳴りが響いており、とても立てるような状態に無い。

「も、もうダメです……助け……!」

「……もう音を上げたのかい?まだ5分も経っちゃいないよ?」

 そう言って僕の弱音も虚しくただひたすらに訓練は続く。

「うわあああああああ!!!」

 僕は蹲ったまま、凄まじい程の情報量に飲まれていく。五感は全て情報処理魔法のノイズで覆われ、いっそ楽になりたいと思う位だったが、それでも意識が飛ぶ事は無かった。

「……限界のようだね?」

 身動きすら出来なくなった僕を見かねてようやくカローラさんは魔法を解いた。

「はぁ……はぁ……」

「どうだい坊や、シュバルツ・アウゲンを使った時とどっちが苦しかったかい?」

「……正直、今の方が苦しいですよ……」

 息を切らしながら僕はそう答える。

「そうかい、でもこれはシュバルツ・アウゲンの3分の2程度の情報量しか存在しない。あんたがシュバルツ・アウゲンを使った時は脳死状態が始まっていたんだろうねぇ。まったく、よく生きていたもんだよ」

 と、カローラさんは言った。呆れ半分、関心半分といった表情だ。

「あと1分休憩したら再開だ。それまでに心の準備を整えておくんだね」

「……ま、またやるんですか?」

「当たり前さ!なんだい、怖気づいたのかい?」

「……」

 まさに図星というやつだ。何も答えられない。

「……大丈夫だ、深呼吸しな?次からはこうはならないよ」

「……本当ですか!?」

「ああ、あんたが上手く情報をコントロールできるなら、の話だがね?」

 と、カローラさんは言った。含みのある発言に僕は戸惑う。

「目を閉じな、魔法の軌跡が見えるはずだ。そいつを弾く様にすればいい。まあ、ものは試しだ。いくよ!」

「はい!」

 言われて目を閉じ、静かにその時を待つ。次の瞬間、またしても凄まじい程の情報量が流れ込んできた。

「うわああああああああああああああ!!!!」

「やっぱり一度や二度じゃ上手くいかないか……」

「はぁ……はぁ……」

 そう言ってカローラさんは魔法を解いた。

「どうだい?あたしの言ってた事は分かったかい?」

「はぁ……はぁ……分からないです」

「そうかい、じゃあもう一度……!」

「ぐっ!うわああああああああああああ!!!」

「分かるまで続けるよ!脳に届く前に情報を見つけて捨てる、この動作を出来るようにするんだ!」

「はぁ……はぁ……」

 息を荒げながら僕は力なくその場に蹲った。

「さあ、立ちな?まだまだ続くよ!」

「うぅ……」


◉ ◉ ◉


 その後、小刻みに魔法を受け続けるという訓練を軽く1時間は続けた。この時間は正に地獄としか言いようがないが、少しだけカローラさんの言っていたことが分かった気がする。情報が頭に入ってくる直前、一瞬だけ光のような何かを感じ取った。

「……いい加減辛くなってきただろう?そろそろ理解して欲しいものだね」

「はぁ……はぁ……」

 要はこの光のような何かを避けてしまえば良いという事だ。だが、その瞬間があまりにも短い為、避けようがない。それでもやるしかない、出来なければこの訓練が終われないのだ。

「じゃあいくよ!」

 呼吸を整えながら目を閉じる。光が見えるその瞬間だ。

「……今だ!」

 次の瞬間、僕は初めて『情報を捨てる』という動作に成功した。光を避け、今まで感じてきたその痛みを回避する事が出来たのだ。

「おお、出来たじゃないか」

「や、やった……」

「……体力的にも限界かな?よく頑張ったよ……」

 達成感から一気に脱力し、その場に倒れこもうとした僕をカローラさんが支える。

「おっと、寝るなら自分の部屋まで行きな、それくらいはできるだろう?」

「は、はい……」

 ふらつきながら僕は自室へと戻っていった。


◉ ◉ ◉


 その後、自室に戻ってからは倒れる様にベッドへ潜り、そのまま眠りに付いた。3時間程眠った後、ルーディさんが僕の部屋までやって来る。

「おい起きろ!いつまで寝てるんだ」

「んん……」

「夕食の準備ができたらしい。皆リビングで待ってるぞ?」

「……分かりました」

 僕が起き上がった事を確認したルーディさんは早々に部屋を去った。あくびをしながら軽く身だしなみを整え、僕も後に続く。リビングでは既に栞達が待っていた。

「やっと来た。遅いよ、兄さん」

「悪い、少し寝過ぎていた」

「まあいいや、冷めない内にささっと食べちまうよ」

 カローラさんがそう言うと、各々食事を始めた。

「……栞、今日の訓練はどうだった?」

 と、僕は栞に尋ねる。

「魔法訓練の事?それなら大丈夫だったよ!もう少しで取得できそう」

「そうか、なんだったけ?魔法の名前」

「パイクリート・ニードルだよ。兄さんは?」

「……死ぬかと思った」

「……え、大変だったの?」

「……ああ、死ぬかと思った」

「兄さん、それさっきも聞いた」

 栞は冷たい視線を浴びせながらも闇を感じたのかそれ以上聞いてくる事は無かった。

「いや悪いね、だけどショータ、今のあんたならシュバルツ・アウゲンだって使えるだろうさ?」

 カローラさんは僕達のやり取りに笑いながらこう答えた。

「何!?それは本当ですか?」

 この会話を聞いていたルーディさんが食らいつくように尋ねる。

「ああ、だが意味はなさないだろうがねぇ?」

「……?どういうことです?」

「ショータは今日の訓練で情報の『捨て方』を学んだ。だけど全ての情報を捨ててちゃなんの役にも立たないだろう?」

「まあ、何の情報も拾えないんでそうなりますね」

 これを聞いていた僕はそう答える。

「ああ、だからショータは今、シュバルツ・アウゲンを使っても死にはしない。だけど、『必要な情報を拾う』という動作はまだ教えていないんだ。だから今のショータがシュバルツ・アウゲンを使ったとしても何の意味もないってことさ」

「なるほど、そういう事でしたか……」

 ルーディさんはそう言いながら、落胆気味に席に戻った。

「ショータ、今夜シュリュッセルを使ってみな?何かが違うだろうさ?」

「……分かりました」

 カローラさんの言葉に僕はそう答えた。


◉ ◉ ◉


 夕食を終えると僕は栞から妖精『ソフィー』を借りて自室に戻る。

「シュリュッセル!」

 自室で一人、シュリュッセルの魔法を練習していた。無造作に置かれた鍵の中から手に持っている南京錠の鍵を探す。

「……これか?」

 手に取った鍵を南京錠に差したが、鍵が回らず南京錠が開かない。

「嘘だろ?……いや、これが今の僕の実力か……」

 そう言いながら僕は持っていた鍵を机に置いた。

「珍しいね、今まで君のシュリュッセルは百発百中だったのに……」

 事の顛末を見ていたソフィーが僕にそう言った。

「いや、今までは魔法の使い方が悪かったんだ。なんというか、今まではゴリ押しで魔法を使っていたけど本当のやり方はそうじゃない」

 と、僕は答えた。シュリュッセルにおいて必要なことは『鍵穴に合う鍵を探すのに必要な情報』のみを正しく抽出することなのだ。今までなら不必要な情報も込みで雑に魔法を使って当てられていたが、それでは上位の魔法を使いこなせない。本当に難しいのはここからだという事だ。

「よしソフィー、もう一度魔法を使わせてくれ」

「……今日は栞の訓練にも付き合っててもうヘトヘトなんだよ……明日じゃダメかい?」

「あーそうだったな、わざわざ付き合ってくれてありがとう」

 そう言うと、ソフィーは力なく僕のベッドまで飛んで行った。

「栞の部屋に行けよ……まあいっか」

 呆れ半分でそう呟きながら、僕は部屋の明かりを消した。


続く……


TOPIC!!

パンジャンの残光


ヘルメピア王国内で発見されたパンジャンドラムに装備されていたロケットエンジンの通称。


小説『パンジャンドラムが異世界転移!?』の『Episode 3.Road to British』にて、

パンジャンドラムが修理される際、パンジャンドラムにはロケットが合計10基搭載されているが、

健全なロケットエンジンは全部で11基であり、ロケットが1基余っている状態だった。

この時のロケットエンジンは一時期行方不明となっていたが、

ヘルメピア独立歴57年(西暦2002年)にヘルメピア王城のはずれにある古小屋から発見され、

これが『パンジャンの残光』と命名されており、ヘルベチカ計画発足に至ったと言われている。


『パンジャンの残光』が発見されて以降、直ちにリバースエンジニアリング計画が持ち上がり、

これが後に『R-4463 レディ・ロケット』等、ヘルメピア王国内での様々なロケットエンジンを生み出している。

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