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part.15-1 Pykrete needle!

 翌日、現実世界で目覚めた僕は早々に支度して学校へ向かう。いつの間にか朝の気だるさも無くなり、無感情で通学路を歩いていた。

「……あ、しょーただ!やっほー!!」

 いつもの曲がり道、茜が僕を待っていた。腰掛けていた電柱から離れる時、その反動で彼女の赤毛がふわりと揺れる。

「……やっほー」

「元気無いよ?もう一回!」

「うるせー」

 僕がそう言うと、茜はいつもの高笑いを上げる。いつものように二人で通学路を歩くが、それも何故か懐かしく感じた。

「……?どしたの?」

 少し俯いた僕の顔を茜はのぞき込んできた。

「いや、何でも無いさ。なんかこの(くだり)が懐かしく感じて……」

「……ふーん、変なの!」

 そう言って茜は僕から顔を離した。去り際にふわりと彼女の残り香が鼻腔をくすぐる。

「あーあ、陸上部も今日で終わりだよ。これからは勉強に集中しなくちゃ……しょーたの部活も今日で引退?」

「……いや、僕はまだ続くよ。岡田(科学部顧問)曰く手伝って欲しい事があるんだとか……」

 と、僕は呆れ気味な表情で言った。今からやる実験の授業と言えば限られているが、何があるのかは検討も付かない。

「へー、じゃあ私もちょくちょく顔見せようかな?」

「……そうしてくれ」

 そう言うと茜は「ヤッター!」と、両手を広げた。


◉ ◉ ◉


 その日の放課後、僕は化学室に居た。教卓後ろにある黒板には『Please wait』(ここで待て)と、筆記体で書かれている。この字は岡田のものだ。

「……なんだか嫌な予感がするな」

 そう、僕がパンジャンドラムについて調べていると、急に岡田が表れて講義を開始した。それ程までにあの人はパンジャンドラムに熱意を持っているのだろう。僕としてもパンジャンドラムの情報を求めてはいるものの、彼の講義は哲学的過ぎてよく分からない。

「……仕方ない」

 そう言って僕は教卓に座った。携帯を開いて岡田がやって来るのを待つ。久しぶりにWEB小説『涙まみれのこの異世界転生に救いはないんですか!?』のページを開いた。最後に読んだ時から5話くらい更新されている。どうやら主人公の『レオ』はカドゥ村を発ってからガレルヤ王国城下町へ向かったらしい。

「……僕たちとは違う道か。結局レオらしき人物には会えなかったな」

 もしかしたらすれ違っている可能性もあるが、僕たちはもうヘルメピア王国という別の国に居る。最早会う可能性は無いと言えるだろう。

「……さて、もう帰っていいかな?」

 と、独り言を呟く。だってもう小一時間近く待っているのだが一向に来ないのだ。まあ岡田だし問題ないだろうと考え、本当に帰り支度をしていると、ようやく岡田が化学室にやってきた。

「すまないな、ホームルームが長引いて……って、何勝手に帰ろうとしているんだ」

「いや、だって遅かったし……」

 言い訳しながら僕は背負っていた荷物を下ろす。

「……それで、手伝う事があるんですよね?」

「何を言っているんだ、そんなものこじつけに決まっているだろう?本当の目的は……」

「あーもういいです帰ります!」

「待ちなさい、君はパンジャンドラムになりたくはないのか?」

「パンジャンドラムになりたくはねえよ!」

 思わず僕はそう叫んでしまう。直ぐに逃げようとしたものの岡田に腕を掴まれてしまった。

「まあ少し落ち着け。お茶でもどうだ?」


◉ ◉ ◉


「……や、やめろおおおおおおお!!」

「フッ、威勢は良いが、身体は正直なようだな?」

 と、岡田はネットで拾ったと思われるパンジャンドラムの画像を押し付けてきた。

「……っていうか本当に何がしたいんですか」

 渋々画像を受け取りながら僕はそう尋ねた。

「感じるんだ。君の素質を……君はいつか立派なパンジャンドラマーになれる。私の直感がそう告げているんだ」

「いや意味が分からん……」

「まあ良い明日も来なさい。パンジャンドラムとは何かを骨の髄まで教え込んでやろう」

「はあ、まあいいですけど……最後に一つだけいいですか?」

 と、僕は半ば呆れ気味に尋ねる。

「どうした?」

「パンジャンドラムって失敗作だったんですよね?」

「ああ、少なくとも世間はそう思っている」

「では、どうすればパンジャンドラムが活躍出来ると思いますか?あなたの科学的かつ理論的な考えをお願いします」

 と、僕は尋ねた。

「……ふむ、まず極めて平坦な地形でなければ運用は難しいだろう。風が吹かない天候ならなお良いな」

「……なるほど」

「そして戦車や地雷、爆発物のない場所での運用なら希望はあるだろう。まあ、平坦な地形で戦車がいないという状況はまずありえないだろうがな?」

「……そうなりますね」

「まあ、今日はもう遅い。続きは明日にしよう」

「はい、お疲れさまでした」

 そう答えて僕は早々に化学室を後にした。


◉ ◉ ◉


『極めて平坦な地形でなければ運用は難しいだろう』

 ロード・トゥ・ブリティッシュは平地で凹凸が非常に少ない。風は吹いているが許容範囲と言えるだろう。

『そして戦車や地雷、爆発物のない場所での運用なら希望はある』

 中世ヨーロッパの時代にそんな代物は存在しない。ということは、パンジャンドラムが活躍出来る可能性は少なからず存在しているということだ。ヘルメピアはパンジャンドラムによって救われたと言っていた。これなら可能性はあるだろう。

「まだ分からない事だらけだけど、少しずつ見えてきた……」

 そう呟きながら僕は帰路を歩いて行った。


続く……


<今日のパンジャン!!>

パンジャンドラムの前で無粋な発言は止めて頂こう。

ロケットエンジンが脱落してしまうだろうが……!

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