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part.14-4 パンジャンの残光を求めて

 その後、僕達はカローラさんの家にお邪魔する事となった。家に到着する頃にはすっかり日も暮れている。

「さあ着いた。ここだよ」

「す、凄い……」

 カローラさんの家はちょっとした豪邸クラスだった。後で聞いた話だが、ヘルベチカ計画に携わった事で巨額の報酬を得たそうだ。それほどまでにヘルベチカ計画は重要なものだったらしい。

「夕食の支度をするからそこの部屋でくつろいでくれ」

「分かりました。ショータとシオリは支度の手伝いをしてやれ」

「はい」

 ルーディさんの指示通り、僕と栞はカローラさんの元に向かう。

「おや、悪いね。昔はここも使用人が居たんだけどね、計画が破綻してからは雇う金も無くなっちまったのさ。この屋敷も宝の持ち腐れになっちまった」

「ヘルベチカ計画はいつまで続いていたのですか?」

 皿を並べながら僕はカローラさんに尋ねた。

「2年前までは少なくとも続いていたねぇ。もっとも、試作機が完成しているのかは不明だけど……ああシオリ、このガレットをテーブルに運んでおくれ?」

「あ、はい!」

 言われて栞はガレットを取りに行った。ポタージュにガレット、ベーコンにサラダと、じゃがいも率が高い。

「さあ出来た!皆を呼んできてくれるかい?」

「分かりました!」

 そう言って栞は皆を呼びに行った。僕とカローラさんは一足早く席に着く。

「……だけど、ヘルベチカ計画の途中経過とも言えるパンジャンドラムは、既に完成されていたのさ」

「途中経過?」

「ああ、それが『パンジャンドラム・レプリカント』私が最後に見たヘルベチカ計画の遺産だ」

 カローラさんが言った所で、ルーディさん達がやって来た。

「随分と豪華な料理ですなぁ。これをお一人で?」

「そうだよ。まあ、パンは無いけどね?」

 と、上機嫌でカローラさんが言った。

「……本題に戻りましょう、パンジャンドラム・レプリカントとは?」

 僕はカローラさんにそう尋ねる。

「レプリカントはヘルベチカ計画の中で初めて作られたパンジャンドラムだ。……それと同時に、ミルドの村に災厄をもたらしたパンジャンでもある」

「それって……」

 つまり、この『パンジャンドラム・レプリカント』がミルド村に事故を起こしたパンジャンドラムとなる。

「その、レプリカントとやらが、ヘルベチカ計画の正体……?」

「いや、違うと言って間違いないだろう。私が存在を知っている事が何よりの証拠だよ。言ったはずだ、私は計画の末端を担っていた。ヘルベチカ計画の詳細は教わっていない」

「そうか、そうでした……」

 カローラさんの言葉にルーディさんはそう言った。

「……続けるよ。パンジャンドラム・レプリカントが試験運用された日、私はエンジンの調整を行っていた。あの日は私も試験に参加していたのさ」

 そう言ってカローラさんは一息置いた。

「最初の内は上手く動いていた。順調と言っても過言では無いだろう。だが、速度が乗り始めて間もなく、パンジャンドラムが飛び跳ねたのさ」

「パンジャンが、跳んだ!?」

「ああ、飛び跳ねたパンジャンは試験運用時に囲っていた柵を跳び越えてあらぬ方向へ進んでいった。そしてその先が……」

「ミルド村だったということか……!」

「その通り、暴走したレプリカントは藁や木材で出来ていたミルド村の建物を次々と破壊していった。死者は少なく見積もっても30人と言われているね」

「そうか、それがミルド村の崩壊の原因というわけか……」

 ルーディさんがそう呟いた。

「ああ、だがそれだけじゃない。ミルド村は当時、ヘルメピア王国領では無かった」

「領内じゃなかった!?」

 カローラさんからの発言に一同が驚く。

「そうさ、今となってはヘルメピア領だが、当時はジョージア王国の領地だった」

「ということは……!」

「……手違いとはいえ、ヘルメピアはジョージア王国領を『攻撃』したことになる。更に、国の最重要秘匿情報であるヘルベチカ計画の内容が他国に漏れかねない一大事だ」

「そうなりますね……それで、ヘルメピアが取った行動は……?」

「戦争さ。ヘルメピアは文字通り、ミルド村は疎かジョージア王国自体を3日で滅ぼした。証拠隠滅の為だけに一つの国を滅亡させたのさ。この戦争を関係者の間では『ヘルメピアの中で最も愚かな戦争』と呼ばれている」

 と、カローラさんは言った。確かに聞いた限りでは完全にヘルメピアが悪いとしか言いようが無い。

「だから私はああして花を植えているのさ。村を、そして国を弔う為にね?」

「なるほど、大方話は理解出来ました」

「……そうだルーディ、あんたはどうやってヘルベチカ計画の情報を知ったんだい?」

「情報源ですか?とあるクエスト内容に依頼者不明で計画の足取りを掴んで欲しい、と……」

「その依頼者は恐らく、計画の元関係者だろうね。ヘルベチカ計画の強大な力に恐れ、止めようとしたかったんだろう。私もその一人さ」

「……そうなのですか?」

「ああ、計画が飛んじまった時は正直ほっとしたよ。仕事が無くなったのは残念だけどね?」

「それ程までに強大なものをヘルメピアは作ろうとしていたのか……」

「そういうこと。さあ、食事が終わったら各自部屋を割り振るよ。ここが屋敷で良かったねぇ」

 そう言いながら、カローラさんは食べ終えた皿をまとめ始めた。


続く……


TOPIC!!

パンジャンドラム・レプリカント試作初号機 危険度 ???


ヘルベチカ計画の一貫としてヘルメピア王国内で密かに開発されていたパンジャンドラムの一つ。


レプリカントのコンセプトは「敵陣内に単独で突撃させて自爆する」という、ヘルベチカ計画の中でも最もオリジナルのパンジャンドラムに近い運用思想を目指して開発されたパンジャンドラムと言える。その中でも試作初号機は超高速のパンジャンドラムを目指し、徹底的な軽量化と高出力のロケットエンジンにこだわって開発されている。


本来なら物理エネルギーを用いたロケットエンジンを運用したかったが、エンジンの開発が間に合わず、魔法エネルギーを用いたヘルメピア王国の独自開発である『R-4463 レディ・ロケット』エンジンを使用している。このエンジンはオリジナルのパンジャンドラムと相違ない程の出力を備えるが、魔法エネルギーの消費が激しく、ヘルメピアだけでの運用は厳しいものだった。


試作初号機はヘルメピア独立歴64年(現実世界、西暦で言うところの2009年)に完成しており、同年9月に試験運用が極秘裏に行われた。レプリカント試作初号機は徹底的な軽量化が行われているものの、計算された軽量化が相まって高い強度性を持っており、高速で前進してもパーツの離脱は確認されなかったが、異常なほどの軽量化とそれに見合わない高出力ロケットが相まって制御不能な程の過剰出力となり、地面の僅かな凹凸でパンジャンドラムが跳躍を起こし、ミルド村に突進。暴走したパンジャンドラムは村を荒らし回って修復不可能なまでに破壊されたと言われている。

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