part.14-3 パンジャンの残光を求めて
「一体何が起きたんだ?」
「無事かい?坊や」
フーガがいた場所の抜こうから一人の老婆がやって来た。一方フーガはというと、既にあらぬ方向へ走り出しており、姿を消していた。
「おや、兄妹かな?さっき見た通り、ここはフーガの縄張りさ。危ないから早く家に帰りな?」
「あの、助けてくれてありがとうございます」
やって来た老婆に僕達は頭を下げた。
「……もしかして迷子かい?」
「いえ、そういうわけでは無いんです。僕達はこのミルド跡地に用事で……」
「ここに?」
そう言って老婆は値踏みするかのように僕と栞を見回した。
「元村民にも見えないな……だとしたら……」
ブツブツと呟きながら老婆は周囲を歩き回る。
「あの……」
「……なんだい?」
「不躾ですが、貴方はここに何の用で?」
沈黙を破って僕は老婆にそう尋ねた。
「私かい?ここに植えた花の水やりに来たのさ」
と、老婆は言った。恐らく先に栞が見付けた花畑の事だろう。
「それって向こうにあった……」
「おや、見てたのかい?丁度良い、あんた達も来ると良い」
と、老婆は言った。拒否する理由も無い僕達は老婆の後を追って花畑に逆戻りした。
◉ ◉ ◉
花に水をやった後、謎の老婆は静かに手を組んで目を閉じた。やはりこの村の誰かを弔っているのだろう。
「ここは昔、大きな事故があってね、それをきっかけに村は壊滅してしまった。今から10年以上も前の事だ」
「10年前……その、事故って」
「知りたいかい?事故の詳細を……」
祈りを捧げていた手を離し、老婆はこちらを向いた。
「……教えて下さい、この村で何があったんですか!?」
僕はそう尋ねた。栞も老婆の方を真剣に向いている。
「……その前に、自己紹介といこう。私はカローラ、ヘルベチカ計画の開発関係者だ」
「ヘルベチカ計画の……!?」
「ふっ、その反応、やはり計画の内容が目的か。でなければここに立ち入る理由もなかろうしな?」
カローラと名乗る老婆は、怪しく微笑んだ。
「あの、では……」
「おっと、その前にあんた達の名前だ」
カローラさんからの指摘を受けて僕は言い直した。
「失礼しました。僕は佐伯翔太、こっちは妹の栞です」
僕がそう言うと、栞もぺこりと頭を下げる。
「ショータに、シオリか……よろしく頼むよ?」
「……はい!」
僕はカローラさんの手を取って握手をする。
「それで、ヘルベチカ計画について、教えて頂けるのですか?」
と、僕は尋ねた。彼女はヘルベチカ計画の関係者であることは間違いないだろう。しかし、情報提供を約束されたわけでは無い。
「……あんた達は、どうしてヘルベチカ計画が知りたいのかい?」
「それは……頼まれたんです。僕達はその雇われで……」
「そうかい、まだこれだけ若いのに、危険な計画に首を突っ込むとはね……」
カローラさんはそう呟いて、後ろを向いた。
「付いておいで、案内してあげるよ」
「あ、ちょっと待って下さい」
カローラさんが行こうとする直前で、僕は彼女を呼び止めた。
「……なんだい?」
「僕達はあと二人仲間がいるんです。一度、合流したいのですが、良いですか?」
「なんだ、まだ居たのか。早くするんだね」
「はい」
そう言って僕達は東へ移動した。
◉ ◉ ◉
その後、無事にルーディさん達と合流し、状況を説明してカローラさんの案内を受ける。
「あたしは情報処理魔法に長けていてね?長いことヘルベチカ計画の動力源を一人で研究、開発していたのさ。だけど予算不足で計画は立ち消え、今ヘルベチカがどうなっているのかまでは、私にも分からないよ」
と、歩きながらカローラさんは言った。
「分からない?あなたも開発に関わっていたのですよね?」
と、ルーディさんが尋ねる。
「ああ、私が行っていた開発内容はあくまで計画の末端さ。それ以上の情報を知ろうとした暁には、上の連中から『知る必要は無い』と突っぱねられたもんだよ」
と、笑い話の様にカローラさんは語る。
「なるほど……」
「さあ、着いた。ここだ。鍵を開けるからちょっと待っててくれ」
と、行ってカローラさんは立ち止まった。いつの間にか森の奥まで来ており、日も沈みかけている。そして目の前には小さな小屋が建っていた。
「開いたよ、中においで?」
カローラさんの手招きに従い、小屋の中に入る。
「こ、これは……!」
小屋の中には巨大な筒状の物体が置かれていた。
「坊や、これがなんだか分かるかい?」
「……パンジャンドラムの、ロケットエンジン!?」
現実世界のネットで検索した画像に写っていた。これは確かにパンジャンドラムの車輪部分に付いていたロケットだ。
「おお、よく分かったね。その通りさ」
関心するようにカローラさんは言った。
「ロケット?ショータ、どういうことだ?」
パンジャンドラムが何なのかを知らないルーディさんは怪訝そうにそう尋ねる。
「おや、ショータ以外の人間は分かってないって顔だね、コイツはパンジャンドラムのロケットエンジン、通称『パンジャンの残光』と呼ばれるものだ」
「パンジャンの、残光……」
一同が復唱する。カローラさんの言う「パンジャンの残光」は僕が覚えている限りではネットの情報に無かったものだ。恐らく異世界特有のワードだろう。
「コイツは元々パンジャンドラムのパーツの一つだったらしい。パンジャンドラムが動く時は常にコイツが光り輝いていたらしい。だが、今はどうやったって輝きはしない」
と、カローラさんは言った。パンジャンドラムが動く時は必ずロケットが可動する。カローラさんの言う『輝き』とは、その時のロケットの光なのだろう。
「そうか、今は動かないから『パンジャンの残光』と、呼ばれているのですか?」
と、ルーディさんは尋ねた。
「そういうことだ。私は情報処理魔法を使って『パンジャンの残光』の構造を研究していた。『パンジャンの残光』を量産する事もヘルベチカ計画の一つというわけさ」
ロケットエンジンに手を当てながらカローラさんは言った。
「それで、パンジャンの残光を量産化する事は出来たのですか?」
僕はそう尋ねた。
「ああ、成功したよ。ただ、結局このエンジンの動力源は分からなかったんだ」
「では、どうやって……?」
「魔法だよ。ロケットエンジンの構造を真似しつつ、不明だった推力源を魔法エネルギーで代用してようやく『パンジャンの残光』をコピーする事が出来たんだ」
「……なるほど」
「さあ、日も暮れちまった事だし、この辺にしておこう。あんた達、泊まる場所はあるのかい?」
「いえ、宿はもう開いて無くて……」
「だろうね、街じゃあまだ祭りが続いている事だ。良ければ家に泊まっていくかい?」
「良いんですか?」
「ああ、歓迎するよ?」
と、カローラさんは言った。
「……では、お言葉に甘えさせて頂きます」
ルーディさんはそう言って頭を下げた。
「よし、シチューでも作ってやるよ。私の家はこっちだ」
そう言ってカローラさんは小屋を出た。
続く……
TOPIC!!
『フーガ』危険度 ★
人の高さほどもある草食モンスター。緑色の羽毛を纏っている為身体は緑に見えるが、
羽毛の先端は虹色のコントラストを持ち、威嚇時等に翼を広げた際には羽毛が毛羽立つ為、
僅かに色味が変わって見える。
鳥類の一種とされているが、羽は退化し、飛ぶ事は出来ない。
縄張り意識が高く、一度テリトリーに侵入した者には何処までも追いかけてくる。
主な攻撃方法は強靱な脚力を活かした蹴りつけ攻撃となり、
鋭い爪も合わさって攻撃を受けた者は一溜まりも無いだろう。
対処方法としてはテリトリーの外から飛び道具を活かして攻撃し、
弱らせた所を複数人で囲い込んでとどめを刺す事が有効とされている。
かつてロード・トゥ・ブリティッシュを納めていた『クレヌル帝国』の貴族が
フーガの羽毛を用いた装飾品を身につけており、フーガの狩りが盛んに行われていたものの、
帝国の崩壊後、クレヌル帝国と戦争を行ったヘルメピア王国は
敵国の装飾品であるフーガの羽毛を用いた装飾品の使用を禁止し、
狩りを行う必要性も無くなってしまった為、
現在では駆除以外の目的で狩りを行われる事は無い。




