part.13-5 The Great Panjan Fes
「アレですか?少々お待ち下さい」
店主はそう言って店の奥へ消えていった。暫くして店主が戻ってくると、何やら装飾の施された盾を持ってきた。
「お待たせしました。シールドボウでございます」
言われるままに僕はシールドボウを受け取る。よく見ると盾から弓柄がはみ出していた。どうやら盾の裏側にボウガンが仕込まれているらしい。
「へえ、斬新な武器ですね。これも軍の不要品?」
「その通りです。付けてみますか?」
「お願いします」
店主に許可を得て僕は盾を試着してみた。作りは頑丈で多少の衝撃なら簡単に受け止められそうだ。重さは……見た目相応と言った所か。
「……どうです?試し撃ちしてみては?」
店主に催促されるまま僕は店の奥にある射撃場に来た。的の距離は大体20メートル前後といった所だろうか。さほど遠くは無い。
「ぐっ……!お、重い!!」
矢を装填する為に弦を引くがこれが見た目以上に重い。やっとの思いで弦を引ききると、盾との間にある隙間に矢を入れた。正直装填はやりにくい。
「では実射といきましょう。私の言う通りに構えて下さい」
「分かりました」
◉ ◉ ◉
20分後、
「あ、当たんねぇ!!」
何発も撃ったが20メートル先の的にすらほとんど当たらなかった。どうやら想像よりも遙かに難しいものだったらしい。
「落ち着いて、的をよく見るのです!」
「は、はい……」
そうは言うもののそろそろボウガンの弦を引く力も無くなってきた。
「これ、相当難しいですね。ヘルメピアの兵士はこれを使いこなしているのですか?」
「ええ、その通りです。聞いた噂ですが、シールドボウの命中率は百発百中なのだとか……」
と、店主は言った。正直今の言葉がまるで信用出来ない。
「ですが、防御と攻撃を兼ね備えたシールドボウならきっと貴方様の旅を支えられるはずです。お一つ如何ですか?」
「か、考えておきます……」
と、言って僕はひとまずヘルメピア王国兵が使っていたとされる剣だけを買って店を後にした。
「……どうだった!?」
店を出てルーディさん達と合流する。
「シールドボウは使いこなせなかったです。ひとまず剣だけ買ってきました」
「そうか、かなり良さそうだったのだがな……」
「狙いがまるで付けられない。多分ですけど相当難易度高いですよ」
疲れた笑みを浮かべながら僕はそう言った。
「……まあ良いさ、今日の所はこれくらいにしておこう。一度グレートパンジャンシティに戻って情報を集めてみるか」
「そうしましょう」
ルーディさんの言葉にイヴァンカが同意した。
◉ ◉ ◉
その後、日が落ちかける中、僕達4人はグレートパンジャンシティにある酒場にやって来た。中は賑わっているらしく、独特な熱気に覆われている。
「カウンター、いいですか?」
「ご自由にどうぞ?」
店員に許可を得て僕達は敢えてカウンターの席を貰った。理由は店主や他の客に話しかけやすいからだ。
「ビールを頼む」
「僕はお酒飲めないので何かソフトドリンクを……」
「私も兄さんと一緒で……」
「私は……うん、ビールでいいかな」
と、各々注文を済ませる。ルーディさんとイヴァンカがビールで、僕と栞がソフトドリンクだ。直ぐにドリンクが届いて乾杯する。僕達ソフトドリンク勢に届いたのはアイスティーだった。また紅茶かよ……。
「お客さん、旅人ですか?」
「ええ、ザ・グレートパンジャン・フェスを観にアルベルトの街から来たんですよ」
店主の世間話にルーディさんは顔色一つ変えずハッタリをかます。
「それはご足労様です。どうぞゆっくりしていって下さい」
「へぇ、アルベルトっていえば貿易国で有名だよな?」
店主と話している内に隣のすっかり酔いが回っている客が話し掛けてきた。
「ええ、私も旅の商人をしておりましてね、ヘルメピアの流通品もありましたよ。えーっと硝石に茶葉、じゃがいもも有名ですな」
「ハッハッハ、それらはヘルメピアの誇りですからな、ナイスパンジャン!」
「お、おお……ナイスパンジャン!」
気分が良くなったらしく客がルーディさんにうざ絡みを始めた。止めた方が良いかとこっそり声を掛けたが、ルーディさんはこれを断った。
「ああところで、おたく『ヘルベチカ』について何かご存じで?」
「ヘルベチカ?……ああ、ヘルベチカ計画の事かい?」
まるで隠し事でも話すかのようにルーディさんは尋ねた。
「あれは軍の極秘計画だ。あんたも命知らずだなぁ……」
そう言ってルーディさんにうざ絡みしていた客は酒を呷った。
「一応他の連中よりは知っている事もある。だが、タダでは教えられねぇな」
「なに……?では、ビールで手を打とう。どうだ?」
「3杯は奢って貰うぜ?」
それを聞いたルーディさんはビールを更に頼んだ。
◉ ◉ ◉
客から聞いた話をまとめると、その男はヘルベチカ計画のとある実験に関与していたらしい。と言っても、どうやら関係者では無いようだ。結論から言えばその実験は失敗し、民間人を巻き込む程の大きな事故を起こしたようだ。彼はその被害者の一人ということになる。
「偶然外出していたが、事故が起きた後、家は木っ端微塵だった。その時女房も失ったよ。何が起きたか問い合わせたが国は『極秘情報』の一点張り。遂に教えてはくれなかった」
と、その客は言った。
「そうか、気の毒なことだ」
「ここから南西、ミルド跡地に行くと良い。きっと何かがあるはずだ」
「『ミルド跡地』か……助かったよ」
そう言ってルーディさんは席を立つ。僕らも続いて店を出ようとした。
「おっと待ちな、あんた名前は?」
と、その客がルーディさんに尋ねる。
「俺は旅の商人、ジョーンだ」
と、ルーディさんは嘘を吐いた。
「ジョーンか、何か分かったことがあったら俺にも教えてくれ。家が失われた理由、俺も知っときてぇんだ」
「ああ、約束するよ」
そう言ってルーディさんは店を出た。僕らもそれに続く。
「……よかったんですか?」
「何がだ?」
店を出た後、僕はルーディさんに尋ねる。
「約束したでしょう?ちゃんと伝えられるんですか?」
「なに、どうせ明日になったら忘れてるだろうさ?それよりもミルド跡地だ。一度戻って情報を整理しよう」
と、悪びれる事も無くルーディさんはそう言った。
「全く……分かりましたよ」
そう言って僕達はルーディさんの後に続いた。
続く……
TOPIC!!
シールドボウ
ヘルメピア王国兵が運用している特殊な武具。盾の内側にボウガンを仕込んでおり、攻防一体の運用が可能となっている。
ボウガンの引き金は紐に繋がれた指輪となっており、装備する際はこの指輪を薬指に装着し、
ボウガンを発射する際は指輪をはめている薬指を握り込む事で射撃する事が可能となっている。
しかし、握り込むだけで矢が発射されるという仕組みに加え、戦闘中に指輪を離す事は難しい為、
必然的に誤射しやすい機構となってしまい、現在運用されている後期生産型のシールドボウは一射毎に安全装置が掛かる仕組みになっている。
また、照準する場合は「装着している腕の親指を立てる」事で狙いを付けるという
非常に難易度の高い照準に加え、シールドボウ自体が重い為、命中精度は低い。
この事から扱いづらい武具となっているが、近接戦闘において一定の有効性が認められており、
現在でも運用が続けられている。




