part.13-4 The Great Panjan Fes
「そろそろ始まりますよ?」
街の人がそう言うと、パンジャンドラムがゆっくりと動き出した。坂道から転がり落ちるパンジャンドラムを見るや、観衆の声も大きくなる。
「す、凄い……」
坂道を過ぎる頃には凄まじい速度で走り出していた。顛末を見て居た観衆達が我先にとパンジャンドラムの後を追う。
「兄さん、行こう!」
「あ、ちょっと栞!?」
傍観していた僕の手を栞が引いた。僕達が走り出す頃にはパンジャンドラムが東側に傾いていた。
「あ、当たった……!」
走りながら僕はそう呟いた。そのままパンジャンドラムは横転し、中身が爆ぜる。
「ワアアアアアアア!!!」
パンジャンドラムの中からは大量のじゃがいもが出て来た。観衆達はそれを奪い合っている。
「なんだこれ……」
足下に落ちてきたじゃがいもを拾いながら僕はそう呟いた。
◉ ◉ ◉
あれから暫く屋台を周りながらこの街や国、そしてパンジャンドラムについて聞いて回った。どうやらここ『ヘルメピア連合王国』は、パンジャンドラムによって救われた国だという事だ。
「まあ、こんなところか。ヘルベチカ計画について聞いてみたが、軍の機密情報という事以外は分からなかったな……」
情報をまとめながらイヴァンカはそう呟いた。
「そうだな、ルーディさんが戻ってるかもしれない。そろそろ合流しようか?」
「そうしよう、待ち合わせ場所は街の北門だ」
イヴァンカの言葉を皮切りに僕達は歩き出した。
◉ ◉ ◉
ルーディさんとの待ち合わせ場所に到着した。既に日は傾いているが、流石は祭りの最中だ。人の出入りが多い。
「この中で商人を探すのは骨が折れるな……」
疲れた表情でイヴァンカは言った。ひとまず3人散り散りでルーディさんを探す。人混みを避けて壁沿いに歩いていると、ルーディさんの姿があった。一人煙草を吸いながら壁に寄りかかって黄昏れている。
「ルーディさん」
「おお、遅かったじゃないか!」
僕を見るやルーディさんが寄ってきた。無事にイヴァンカ達とも合流し、街の外、人の居ない場所へ向かう。道外れの安全そうな場所を見繕ってテントを張った。結局のところ、宿は取れずに野宿ということになった。ザ・グレートパンジャン・フェスが終わるまでは暫く野宿が続きそうだ。
「どうだ、何か分かったか?」
「あまり大した事は分からなかったのですが……」
「構わないさ、元々そういう話だったはずだ」
イヴァンカの前置きにルーディさんはそう答える。「では……」と、少し遠慮がちにイヴァンカが話し始めた。
◉ ◉ ◉
「ふむ、そんなところか……」
一通り話し終えた後、ルーディさんはそう言った。
「不思議な街です。パンジャンドラムとは一体……」
「それは俺も分からない。この国を救った神器と聞いたが、どうも詳細の説明が支離滅裂でな……」
煙草を加えながらルーディさんは呟いた。
「だが、多少の進展はある。どうやら『ヘルベチカ計画』は、パンジャンドラムとやらを作る計画の様だ。情報源も信用して貰って構わない」
「なるほど……」
ココアを啜りながら僕は呟いた。また『パンジャンドラム』か……正直、頭が痛くなってくる。
「まあ、この話は置いておこう。取り敢えず明日は見せたいものがあるんだ。全員で城下町に行かないか?」
「……見せたいもの?」
ルーディさんの言葉に僕達3人は困惑の表情を浮かべる。
「ああ、何があるかは見てのお楽しみだ」
含みのある笑みでルーディさんはそう言った。
◉ ◉ ◉
翌日、現実世界の話は特に何も無かった。茜とイチャついた、以上。ということで、更にその翌日、テントを片付けた僕達は早速ヘルメピア連合王国の城下町へ向かう。何も知らされないまま僕達はルーディさんの後を付いていく。
「あのールーディさん、そろそろですか?」
栞がやや不安そうにルーディさんに尋ねた。
「ああ、付いたぞ!これを見せたかったんだ!」
「馬屋?……まさか」
「そうだ、昨日は馬を見繕っていた。旅も大御所になったことだ、そろそろ馬車を買ってもいいんじゃないかと思ってな?」
前日、ルーディさんがはしゃいでいたのはそういうことだったのか。
「馬車は後ろに置いてある。3人が良ければこいつを買おうと思うんだが、どうだ?」
「良い馬ですね、私は賛成です」
ルーディさんが尋ねると、直ぐにイヴァンカがそう答えた。
「僕は馬を見る目は無いので、お任せしますよ」
「私も」
僕と栞はそう答えた。
「じゃあ、決まりだな!手続きをしてくるから少し待っていてくれ!」
そう言ってルーディさんは馬屋の奥へ進んでいった。
◉ ◉ ◉
暫くしてルーディさんと合流し、城下町を回る事になった。どうやら、ルーディさんが見せたかったものというのはこれだけでは無いらしい。
「武器屋に行くぞ、面白いものがあった」
そう言うルーディさんの後を追う。どうやら今のルーディさんは少し財布の紐が緩んでいるらしい。
「まあいいか……」
そう呟きながらも目的地に到着した。みんなそれぞれ適当に置いてある武器を見て回る。
「この剣、軽い上に安いな、今の翔太に合うんじゃないか?」
イヴァンカに言われて剣を握る。確かに今、自分が使っている片手剣よりも刃渡りが1,5倍位もあるのにそこまで重さが変わらない。
「確かに軽いな……」
「その剣はヘルメピア王国兵に向けて作られたものです。不要品になって民間向けに出回りましたが、その切れ味は確かなものですよ?」
「へえ……」
店主に言われて刃を軽く触ってみると、確かに良く切れそうだ。触っただけなのに痛みを感じる。
「結構良さそうだぞ?イヴァンカもどうだ?」
「私はいい、父さんの形見であるレイピアがあるからな?」
「……そうか」
そう言い終えると、僕はルーディさんの元へ向かった。
「この剣凄く良いですね、買っても良いですか?」
「ああ、出来の割に安いからな。だが、それ以上に珍しいものがあってな?」
そう言うと、ルーディさんは店主に声を掛けた。
「昨日、何かありましたよね?今も置いてますかね?」
「アレですか?少々お待ち下さい」
そう言って、店主は奥の方へ消えていった。
続く……
<今日のパンジャン!!>
パンジャンドラムの姿、形、進む速度に横転する角度……
それら全てが黄金比で出来ていたのだ。




