part.13-3 The Great Panjan Fes
翌日、
「ん……」
「おはよう、兄さん。皆もうロビーにいるよ?」
目覚めると栞が目の前に居た。ここは異世界の街『グレートパンジャンシティ』の宿屋だ。
「栞……分かった、直ぐに行くよ」
「ん、待ってる」
そう言い残して栞は一足早く僕の部屋を出て行った。
◉ ◉ ◉
「翔太、ようやく来たか。待っていたぞ?」
宿屋のロビーに到着すると、イヴァンカと栞が僕を待っていた。
「……ルーディさんは?」
「商人なら今日は別行動だ。なんでもヘルメピア城下町に行くらしい」
「そうか……」
「私達に任されたのはこの街についての詮索だ。勿論『ヘルベチカ計画』の足取りを掴む事が最終目標だが、まずはこの国について知ろうという事さ」
と、イヴァンカは言った。
「なるほど。……ところで朝食は?」
「栞と話した結果だが、街で食べ歩きしようという結論になった。丁度祭りの最中だ。屋台の一つや二つあるだろう」
イヴァンカが言うと栞は目を輝かせて頷く。どうやら少し楽しみにしているらしい。
「そうだな、そうしよう」
「では、腹も減った事だしそろそろ行こう!」
「ああ!」
「うん!」
そう言って僕達は宿を後にした。
◉ ◉ ◉
街を歩くと、昨日気付けなかった事がある。
「これも、パンジャンドラム……」
そう、この街はパンジャンドラムで満ちているのだ。人々が鞄代わりに持ち歩くパンジャンドラム、馬が引いているのも荷車では無くパンジャンドラム。よく考えてみれば宿屋にあった机や椅子もパンジャンドラムの形状をしていた。
「……兄さん、どうかしたの?」
不意に栞が僕の顔をのぞき込む。
「……いや、パンジャンドラムについて考えていた」
「パンジャンドラム……昨日言っていた事?何か分かったの?」
「ああ、調べてみたら直ぐに分かったよ。パンジャンドラムは第二次世界大戦中にイギリスで開発された兵器だそうだ」
「イギリス?どうしてそんなものがここに……?」
「それは分からない。ただ、もっと不可解なことが……」
「……なに?」
「パンジャンドラムは兵器として『失敗作』なんだとさ。そのパンジャンドラムが今、このグレートパンジャンシティで日常レベルにまで溶け込んでいるんだ」
昨日、ネットで調べて目を疑った。どこのサイトを調べてもパンジャンドラムは失敗作としか書いていなかったのだ。無論、ネットの情報を全て鵜呑みにするわけではないが、恐らくこの情報に間違いは無いだろう。
「そっか、まだ分からないね。ちなみにヘルベチカ計画については?」
「そこに関しての情報は一切無かったよ、ヘルベチカ計画は僕達がいた世界のものでは無い」
「そっか……」
「おーい二人とも!何してるんだ?丁度良い屋台が見つかったぞ!」
栞と二人で話していたせいか、歩く速度が遅くなっていたらしい。イヴァンカが先に行って待ちぼうけしていた。
「今行くよ!」
栞と共にイヴァンカの元へ掛けだす。合流すると、屋台から良い匂いが漂ってきた。
「どうやらじゃがいものガレットしか売っていないらしい。二人もそれで良いか?」
「私は問題ないよ?」
「僕もそれでいいや」
僕と栞が返事をすると、イヴァンカが屋台の店主に言ってガレットを3つ貰った。じゃがいもベースのほくほくした生地にチーズの旨みが合わさり、素朴ながら飽きの来ない味だ。
「んん、美味しい」
栞は歩きながらガレットをもぐもぐと咀嚼していた。
「さて、これからどうする?」
食べ終わったイヴァンカはそう尋ねた。
「……個人的にパンジャンドラムについてが気になる。ザ・グレートパンジャン・フェスでも取り扱うらしいから祭りを観光しつつその辺りを聞いてみたいな」
「ではそうしよう。広場の方に行ってみるか」
◉ ◉ ◉
「君には僕が何を言っているのか分からないかもしれない。だが、どうか許して欲しい。人はパンジャンドラムを前にした時、誰もが詩人になるのだから……」
「見ろ、吟遊詩人だ。パンジャンドラムについて語っているぞ」
不意にイヴァンカが足を止めた。確かに噴水の側で詩を詠んでいる吟遊詩人が見える。
「丁度良い、話を聞いてみよう」
僕達は詩人の側へ座る。
「おや、旅の者かい?」
「ええ、よろしければパンジャンドラムについてお聞かせ願えますか?」
イヴァンカが尋ねると、詩人は「良いだろう」と、快諾して語り始めた。
「『パンジャンドラム』——それは、ヘルメピアの民が求めた愛の形。紳士達がたどり着く最後の聖域……」
「……は?」
意味不明な言葉の羅列に僕達3人は首をかしげる。
「……うーん、よく分からないかい?ではもう少し抽象的に語ろう」
「いやなんで抽象的に語るんだよ詳しく話せ」
「はっはっは!これは失敬!」
思わずツッコんでしまった僕に対し、詩人はそう答えた。
◉ ◉ ◉
「……結局よく分からなかったな」
あれから吟遊詩人以外の数人に聞き込みを行ったがどれも詩的な言葉ばかりで役に立ちそうに無い情報ばかりだった。
「これからどうする?」
「街の人が言っていた一大イベントがもうすぐ始まりそうだよ、行ってみない?」
栞の提案に僕は同意する。イヴァンカも「他にする事が無い」と言った様子でこれに同意した。
「じゃあ、行ってみよう!街外れの場所にあるらしいよ?」
「どうしてそんなところで……」
そう呟きながらも栞に付いていった。
◉ ◉ ◉
街の外に出ると一段と大きな人だかりが出来ていた。その中央には圧倒的な存在感を放つ巨大パンジャンドラムが設置されている。
「今年は東だ!風がそう言っている!」
「いや待て、我らの崇高なるパンジャンドラムが風の気まぐれに左右されると思うな?今年は西だ!」
「……何をやっているんだ?」
イヴァンカが人だかりを覗きながら疑問の声を上げる。
「おお旅の人!今はパンジャンドラムがどの方角に進むか掛けているのですよ」
と、祭りの参加者が説明した。
「今からこのパンジャンドラムを坂道になっている土台から転がします。パンジャンドラムが進む方角の畑は豊作になるとの言い伝えがあるのですよ」
「……なるほど」
「さあ、あなた方もどちらに進むか掛けてみては?」
「……どうする?」
「折角だ、やってみよう!」
僕の問いにイヴァンカはそう答えた。正直なんとなく乗り気では無かったが、渋々僕も参加する。
「まあ、イヴァンカが言うなら……東、かな?」
と、僕は適当に方角を答えた。
「じゃあ私は西で」
「私も西だ!」
「おいなんで僕の反対方向を……」
「だって兄さんだし?」
「翔太だからな……」
二人して僕の事を馬鹿にする……。
「そろそろ始まりますよ?」
街の人がそう言うと、パンジャンドラムがゆっくりと動き出した。
続く……
TOPIC!!
ダミーパンジャン
ヘルメピア王国で軍事/民間を問わず広く用いられている多目的パンジャン。
元はパンジャンドラムの欺瞞兵器としてヘルメピア独立戦争時に使用されたものだが、
頑丈で簡素な作りから輸送用のコンテナや机、椅子として用いられている。
ダミーパンジャンは使用用途に合わせて大小様々な大きさに作られており、
様々な種類、派生があるが、基本的にボビン状の形状は変わっておらず、
材質も大型コンテナ等、一部の強度が必要なダミーパンジャン以外は全木製である。
パンジャンドラムの形状はヘルメピア王国内で幸運や幸福、作物の豊作等を呼ぶ形とされており、
王国内のほとんどのものがダミーパンジャンとして扱われている。
 




