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part.12-8 憧れは昇華して……

 その後、

「ふう……」

 帰宅した僕は部屋の明かりを付ける。今日はなんだかいつもより疲れた気がする。

「ひとまず茜と仲直り出来た。とはいえ、なぁ……?」

 問題が解決したわけじゃない。僕は武田和也と戦わなければならないのだ。若干ふざけているところはあれど武田は運動出来て顔も悪くない。

「とはいえ今できる事は無い、か……急いては事をし損じると言うし、高総体の日を待とう」

 そして僕は考える事を止めた。


◉ ◉ ◉


 それから数週間の時が過ぎた。茜とは普通に過ごしている。というか普通に過ごそうとしていると言った方が正しいだろうか。とにかく平然を装った、茜がどう思っているかは分からないけど……。


 異世界での出来事はイヴァンカがパーティメンバーに加わってくれた。これもルーディさんのお陰と言った所だろう。遂に僕達はカドゥ村から旅に出る事となったのだ。とは言ってもイヴァンカの旅立ちは想定外で、カドゥ村の守り人が居なくなってしまった事をガレルヤ王国へ通達に行ったりと準備に手間取ってしまい、今の所出立の目処は立っていない。


 そんなこんなで今日は高総体当日、僕は当然ながら茜が所属する陸上部の応援に向かうが、試合の状況なんて最早見て居られない。武田は茜が競技を終えた後に告白すると言っていた。僕は高総体初日の後、帰りに言うつもりでいる。つまり僕の方が武田よりも後になるということだ。ハードル走は午前最後の競技、既に武田が担当する短距離走を終え、次の種目は100mハードル、茜が出場する種目になる。

「茜……」

 そう呟いたのも束の間、ピストルの発射音と共に選手達が一斉に走り出した。茜は良いスタートダッシュを切れたのかトップに踊り出た。

「茜―!頑張れーーー!!!」

 スタートと共に僕は茜を応援する。しかし走り出しは良かったものの、ペースが上がらず徐々に後続に追いつかれてしまう。

「茜……!」

 カーブを曲がり最後の直線、遂に茜はハードルを倒し、転倒してしまった。これが決定打となり、後続に抜かれてしまった。何とかゴールし、2位をキープ出来たが、茜は予選敗退となった。競技が終わり、選手達は退場となる。

「ここで武田が告白か……」

 と、僕は呟いた。ここで午前の部終了のアナウンスが流れ、昼休憩となる。告白する暇ならいくらでもあるだろう。応援席を立って僕は涼める場所へと向かった。


◉ ◉ ◉


 その後、午後の競技を終えてようやく初日は終了する。茜達陸上部は後片付けが残っている為、僕はグラウンドの外に先回りし、茜に居場所をメールしておく。暫くして『今行くよ〜』というメールが届く。高鳴る鼓動を抑えながら、僕は茜が来るのをじっと待った。

「お待たせー、いやー負けちゃったよ」

 茜は手を振りながらそう言った。随分けろっとしている様に見えるが、目は若干充血している。恐らく長い時間泣いていたのだろう。

「でも良い走りだったよ」

「ん、ありがと」

 僕の言葉に茜は軽くそう返した。

「ところでしょーた、話があるって言ってたけど……」

「ああ、そうだな……」

 そう呟いて僕は茜に向き直った。丁度夕日を背に歩いていたところだったから、茜の方を振り返ると日の光が直に当たる。

「……?」

「えっと、その……」

 言おうとする言葉が恥ずかしくてやはり茜を見る事が出来ない。だけど茜なら編に格好つけないではっきり言った方が良いそう思って茜を真っ直ぐ見据える。

「茜……その、好きだ」

「ふぇ?なっ!」

 僕の言葉を聞いた途端、一気に茜はたじろいだ。それでも僕は続ける。

「茜、好きだ。どうか付き合って欲しい」

「ちょ、ちょと待ってよしょーた!」

 ここまで言ってようやく僕は一息吐いた。ここまで勢いで言ったが、正解だったのだろうか?

「返事を、聞かせてくれないか?」

 僕はそう言って茜を見据えた。茜の方は暫く俯いていたが、決心を付けたのか僕を見る。

「しょーた!……えっと」

 そう言う茜の瞳からは、一滴の涙がこぼれた。

「茜!?お前何泣いて……!」

「え!?やだ……もう、今日は泣いてばっかりだ……」

 そう言いながらも茜の嗚咽は止まらない。あれから数分だろうか?それ位泣いた後、ようやく茜は落ち着いた。

「それで茜、返事を……」

 僕がそう言いかけた瞬間、茜は僕の胸に飛びついてきた。

「あ、茜!?」

「……いーよ、付き合ってあげる」

 僕の胸に顔を埋めながら茜はそう言った。

「……ありがとう」

「……あ、ごめん。汗臭かったよね?」

 僕がそう呟いた瞬間、茜は直ぐに顔を離した。

「いや、別にいいよ。何というか凄く落ち着く」

「ふふっ、しょーたのヘンタイ!」

「なっ!?」

 僕がそう言ってたじろぐと、茜はまた僕の胸に顔を埋めた。

「じゃあ、もう一回!」

「うっ、何か照れるな……」

「そうだね。だから私の顔絶対見ないでよ?」

「わ、分かった……」

 そう言って暫く茜は僕の身体に顔を埋めていた。何というかもどかしい気分だ。こういう時、髪を撫でても良いのだろうか?そんな疑問が浮かんだが、本人に聞くなんて出来やしない。まあ、茜だってこんな事してるんだし、多少は許されるだろう。そう思って僕は恐る恐る茜の髪に触れた。

「あ……」

 僅かに茜の声が漏れたが、それ以上何も起きない。僕はそのままゆっくりと髪の毛をなぞった。茜の髪は一本一本が細くて、しっとりとしている。……どうして僕は茜の髪を分析しているのだろうか。

「ふふっ」

 茜から僅かに笑みがこぼれる。僕はそのまま茜の髪を撫で続けた。ようやく実感出来る、茜と付き合えたと言うことが。陸上部の応援で疲れた身体でぼんやりとそう思った。


◉ ◉ ◉


 それから数日後、今僕は現実世界で科学部の部活中。とはいえ今日も活動は無い。僕は一人適当に過ごすつもりだったのだが、

「いやー高総体お疲れ様」

「おい武田、何を我が物顔でここに居るんだよ……」

 あきれ顔で僕はそう言った。そうだ、今ここには僕と武田が居る。

「いや良いじゃんか別に……で、どうだった?」

 と、武田はビーカーの水を飲み干して言った。

「どうって……まあ、付き合えたよ」

「ああ、おめでとう……」

 複雑そうな表情で武田はそう言った。

「でも、悪いな。こうして裏切ってしまって」

「別に構わないさ。こうなることは予想してたしな?」

「……そんな気持ちで茜に告白したのか?」

 と、僕は尋ねる。

「いや、告白はしていない」

 と、武田は予想外の発言をする。

「は!?お前、あの時告白するって……!」

「悪い、そいつは嘘だ。本当は告白なんてするつもり無かったんだよ」

 僕がそう聞くと、武田はそう答えた。

「一体どういうことだ!?」

 僕がそう聞くと、武田はこう答えた。

「実は1年前の高総体で、住屋に告白していたんだ。結論から言うとダメだった。『好きな人がいる』んだとさ?でも俺はどうしても諦めきれなかった。だとしても何かが出来る訳じゃなかったけど……で、3年になってお前と同じクラスになった時、お前は住屋の弁当を食べてたんだ」

 と、武田は言った。確かに栞が自殺した後、茜から弁当を貰ったことがある気がする。

「その時から住屋の好きな人ってコイツの事じゃないか?って疑った。だから、もう諦めたかったんだ。お前が住屋と付き合ってしまえば俺も諦めが付くだろう?」

「なるほど、そういうことか……」

 武田の話を一通り聞いて僕はそう答えた。

「まあでも、告白しても良かったんじゃないか?もしかしたら気が変わるかもしれなかっただろう?」

「付き合えた後で調子に乗るな?……まあいいや」

 そう言って武田は僕に空のビーカーを渡した。

「じゃあ、俺はこれで失礼するよ。お前が別れたらもう一度告白してみようかな?」

「大口を叩きやがって……じゃあな」

「ああ」

 そう言って武田は化学室を去って行った。


◉ ◉ ◉


 翌日、異世界にて、

「……で、どうだった?付き合えたのか?」

 唐突にルーディさんはそう尋ねた。

「ええ、なんとか……」

「そうか、良かったじゃないか!だが気を付けろ?恋愛は結婚するまでが楽しくてな……?」

「そ、そうなんですか……」

 ルーディさんの私怨の籠もった発言に僕はそう答える。

「まあいいや、ところで、ようやく出立の準備が出来た。明日、4人でカドゥ村を立つ」

 ルーディさんはそう言った。

「行き先は?」

「ここから遙か北にある強国、ヘルメピア連合王国だ」

 ルーディさんはそう答えた。

「ヘルメピア……連合王国……」

「そこで秘密裏に行われている計画『ヘルベチカ計画』についての足取りを掴みたい。協力してくれるな?」

「ええ、勿論です」

「ではこの件をシオリにも伝えておいてくれ?今日の訓練は中止して明日に備えろ」

「分かりました」

 そう言って僕らは解散となった。


続く……


TOPIC!!

情報処理魔法を用いて他人の心を読む事は可能なのか?

論文:ハンス・マイヤー魔道士


結論から言えば情報処理魔法を用いて他人の心を読むことは不可能であると考えられる。人間の感情と身体の状態はある程度結びつけられている事は想像できるだろう。例えば、緊張している際は表情が青ざめている事が上げられる。この様に他人の心拍、表情、健康状態等を情報処理魔法で読み解けば、他人の心を読む事が出来るものと考えられる。


しかし、その為には膨大な情報量をコントロールしなければならず、実際に実験したところ、シュバルツ・アウゲンの倍以上の情報量のコントロールが必要とされた。この為、必要な情報のみを徹底的に棲み分けたとしても術者がブラック・アウトを起こす可能性が高く、危険性は高いものと思われる。


ブラック・アウトを回避する方法として考えられるのが、魔法を複数回に分けて行うのが最適であると考えられるが、それではたった1秒の思考を読み解く為に1時間以上の時間を費やす事になる。この為、有効な魔法であるとは考えにくい。


この様に情報処理魔法を用いて他人の心を読み解く事は理論上可能であると思われるが、実用化は難しいものであると考えられる。

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