part.12-4 憧れは昇華して……
その翌日、異世界の出来事に興味を惹かれたのも束の間、僕は現実世界で目を覚ました。
「ん……」
目を覚ました瞬間にまた寝てしまいたくなる。眠ればまた異世界に彷徨えるのではないかとさえ思える。僕は今、とても学校に行きたくない。
「はぁ……仕方無い!」
気合い入れに頬を叩く。行きたくないけど仕方が無い。学校側が言うには『行きたくないのは皆同じ』なのだから。
……とはいえ今までと同じ様に登校する訳にはいかない。僕は家を出る直前、茜のメールに一つの文章を送った。
『悪い、急用が出来た。先に登校しててくれ』
これだけ送信して家を出る。いつもの公園沿いの道を迂回して学校へ向かった。
◉ ◉ ◉
その後、僕は一人で学校生活を過ごした。元々一人だったんだ。どうと言う事は無い。どうと言う事は無いのだが……、
「はぁ……」
放課後の化学室の一角で、僕は一人溜息を吐いていた。段々自分がどうすれば良いのか分からなくなってくる。そんな中、
「よぉ佐伯!……なんか元気無くね?」
「……武田か」
ノックもせず武田が化学室にやって来た。
「お前、部活は良いのか?……というか、なんでいつもお前達は平然と部活をサボれるんだよ……」
「お前『達』……?それって俺以外にも陸上部でここに来ている奴が居るって事か?」
「あ……」
武田からの鋭い指摘を受けたが、どうも頭が回らず、間抜けな声を上げる。
「……住屋もここに来ているのか?」
「……まあ、な?」
「そっか……なあ、住屋とここで何を話してるんだ?」
今まで窓を向いていた武田が急に興味を持ったかのように僕の方を振り向いた。
「……大した話はしてないさ。何気ない世間話から、今日の授業の振り返りまで……様々だ」
「……それだけ?」
「ああ、それだけだ」
勝手に拍子抜けしている武田に僕はそう答える。まさか『異世界の話をしている』なんて言えるものか……。
「うーんそうか……」
と、武田が言いかけたその刹那……、
「やっほーしょーたー!!」
と、陽気な声と共にドアが派手に開けられる。こんな事する奴なんて……、
「あ、茜!?」
「住屋!?」
「あれ、武田くん!?どうしたのこんな所で……ダメだよ部活サボったら!」
「それはお前に言いたいな!」
武田がそう叫ぶと、茜は「あははははは!!」と、高らかな笑い声を上げた。
「……で、二人は何の話をしてたの?」
ひとしきり笑った茜は僕らにそう尋ねる。
「お前が部活に来ないって話」
仏頂面で僕がそう言うと、茜は再び笑い声を上げる。
「へえ、『噂をすれば』ってやつだね、二人はてっきりそういう関係なのかと……」
「どういう関係を想像してるんだよ……」
僕がそう言うと、茜は両手でハートマークを作り、ウインクしてみせる。
「あ゛?」
いつもの感じでキレようとしたが、外野が少し邪魔だ。
「……悪いな武田、コイツに少し話がある。席を外して貰えないだろうか……?」
「……ごゆっくり?」
そう言って武田は席を立った。
「……いやこれダメなやつじゃん……」
「……え?」
「……なんでもない」
去り際に武田は何かを呟いたが、僕の耳には届かなかった。
続く……
TIPS!
その後、翔太はひたすら茜にイジられ続けた。




