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part.11-22 チェルニーの激闘

「来やがれ!相手してやるよ!!」

 正面のレイジフォックスを睨みながら、僕はそう叫んだ。とは言え無論丸腰で戦えるはずも無く、レイジフォックスのその先にある剣を見据えている。

「栞、合図で魔法を……!」

「ん、分かった!」

 次の瞬間、僕はレイジフォックスめがけて突進する。同時にレイジフォックスも飛び出してきた。僕はレイジフォックスと相対する様に見せかけて横に逸れる。レイジフォックスの目の前に現れたのは、今にも魔法を放たんとする栞だった。

「アイスニードル!」

 氷の針とは名ばかりな氷塊をレイジフォックスの脳天にぶつける。レイジフォックスが怯んだ一瞬で剣を広い、それを奴の背中に突き刺した。

「……次は!?」

「どうやら片付いた様だな!一点突破でここを抜けるぞ!!」

 イヴァンカに続いて突進する。行き止まりに追い込まれた以上、最早レイジフォックスの群れを突っ切る以外に無い。栞を守りながら前へ進もうとした、その時だった。

「ァァァァァァァ……!」

「!?」

 洞窟の奥から甲高い鳴き声が響く。僕らが聞いた声は残響のみで、音源の位置までは特定出来ない。そして、この鳴き声と同時にレイジフォックス達の動きがぴたりと止まった。

「一体何が……!?」

「……はっ、商人だ!今の鳴き声はクイーンフォックスだろう。商人が危ない!」

 思い出したかのようにイヴァンカが叫ぶ。そうか、ルーディさんと相対したクイーンフォックスはレイジフォックスを呼んだということなのだろう。

「こいつらを商人のもとへ行かせるな!」

「分かった!」

「うん!」

 既にレイジフォックス達は転進し、クイーンフォックスの元へ向かい始めている。

「翔太、私に考えがある。ここから先はお前一人でレイジフォックスの群れを追ってくれ」

 不意に、イヴァンカがそう言った。

「一人!?どういうことだ!」

「お前なら出来るさ!後で必ず会おう!栞、こっちに!」

「あ、ちょっと姉さん!」

 イヴァンカは栞の手を引いてあらぬ方向へ走り出した。

「そんな……くっ!」

 一人になった僕はレイジフォックスの群れを追う。幸い、誰も僕に楯突いていないが、どうにかして足止めしなければならない。

「こうなったらヤケだ!待ちやがれええええええええ!!!」


◉ ◉ ◉


 その後、レイジフォックスの後を追い、後ろから攻撃し続ける。この間勿論一人だけだったが、レイジフォックスの群れはこちらを見向きもしない。クイーンフォックスの元へ向かうのに必死なのだろう。

「うおおおおおおおおおおおお!!」

 その後ろを必死に追いながら最後尾のレイジフォックスを滅多刺しにしていく。本当に見向きもしないから段々恐怖心も薄れてきた。

「回り込んで……!」

 レイジフォックスの進行方向に先回りして動きを止めようとした、その時……!

「ギャアアアアアアア!!!」

「うおっ!」

 数匹のレイジフォックスが突然襲いかかる。群れの前に出た者は邪魔者として襲いかかってくるということだ。一匹のレイジフォックスを剣で受け止め、受け止めたレイジフォックスを盾に他のレイジフォックスの攻撃を阻害する。

「くっ……!」

 つばぜり合いの中、レイジフォックスの横腹に蹴りを入れて間合いを取らせる。鳴き声と共に後ずさりしたレイジフォックスを見逃さずに横腹を貫く。ようやく一匹の処理が終わったが、その時には既に群れは奥まで進んでいた。

「どうする?前に出れば襲われる……」

 かといって後ろから仕掛けては群れを食い止める事は出来ない。

「考えている暇も惜しいか……!」

 この間にもレイジフォックスの群れは最深部へと進んでいた。思考を中断してレイジフォックスの後を追う。このままではルーディさんの元まで行ってしまう。

「イヴァンカ達は何を……!」

 そう思いながらもレイジフォックスの群れを後ろから襲う。今僕に出来る事はそれだけだ。

「はああああああああああああ!!」

 がむしゃらに振る剣は既にボロボロ、最早鈍器とさえ言える。それでも一匹ずつレイジフォックスを倒していった。その時だ。

「……え?」

 2匹のレイジフォックスが突然襲いかかる。僕からの攻撃を鬱陶しく感じたのだろうか?どちらにせよ逃げるばかりで何もしてこないと踏んでいた僕は完全に油断していた。

「ぐっ!」

 横腹に頭突きが入り、体勢を崩す。

「ギャアアアアアアア!!!」

 直後、もう片方から襲いかかってきたレイジフォックスの牙に剣を当てる。ギシギシと音を立てるボロボロの剣は遂に折れてしまった。

「嘘だろ!?……っく!」

 2匹のレイジフォックスを前に後ずさりする僕。流石に折れた剣ではモンスターに対抗出来ない。

「もう逃げるしか……!」

 そう考えたが、今まで考え無しに逃げて良かった事が無い。アモールの森でアルミラージに囲まれた例も然り、平原でレイジフォックスの群れから逃げた時も……。

「いや駄目だ!」

 それでも最早どうしようも無いと考え、あらぬ方向に走り出した。追ってくる足音は一つ、どうやらもう一匹は群れに合流したらしい。これなら対応出来る!足を止めて息を潜める。暗闇に乗じてレイジフォックスをわざと追い越させるのだ。

「掛かった!」

 追い越したレイジフォックスに後ろから襲いかかり、折れた剣で身を抉る。

「ギャアアアアアアア!!!」

 痛みにかなり苦しんでいるのだろう。レイジフォックスは大きな悲鳴を上げた。その隙に剣の柄で脳天を叩き、レイジフォックスの意識を奪う。

「急がなければ……!」

 そう思って群れの方向を向いたその時……!

「…………」

 僅かな反響音と同時に洞窟の奥に光りが灯る。正体は不明だがどうやら光源は自分の目的地らしい。

「何が起きたんだ?」

 不審に思いながらその場所へ向かう。先に聞いた反響音はその後も立て続けに響いており、近づくにつれてそれが爆発音であることが分かる。

「ということは、栞か!」

 それが分かるや僕は走り出す。ようやく光源の場所にたどり着くとレイジフォックス達の焼け野原が出来上がっていた。

「栞!!」

「兄さん!」

「翔太、無事だったか!」

 僕を見るや栞とイヴァンカが寄ってきた。

「イヴァンカ、一体どういうことなんだ!?」

 僕はイヴァンカに罵声にも近い声で訊く。

「すまないな、だがこいつらの裏を回れる手段を見つけたんだ」

 イヴァンカはそう言って洞窟の壁を指差す。壁には不自然な傷が出来ていた。

「……?」

「この傷はルーディ商人が付けたものなのだろう。最深部へ向かう際に道に迷わないようこうして目印をつけているんだ」

 イヴァンカは指で壁の傷を負いながら続ける。

「つまり、この目印を追っていけばいずれは最深部へ向かう事が出来る。そしてこの最深部は……」

「レイジフォックス達の目的地」

 イヴァンカの言葉に栞が割り込んでそう話す。

「そう、私は翔太と別れる時、偶然にもこの傷を見つけたんだ」

「なるほどな、それで僕に足止めをさせて置いて、その間にレイジフォックスの目的地に先回りする。その後、栞の魔法で群れを一掃しようと考えた訳だ?」

 イヴァンカの言葉に僕はそう答えた。

「ああ、事前に相談しなかったのは悪かったよ。だけど時間が無かった。それに、案外レイジフォックスとの戦闘は散発的だっただろう?」

「まあ、そうだな。逃げ出していたレイジフォックスはこっちに見向きもしなかったよ」

 納得したように僕は答える。正直勝手に置いて行ったのは納得行かないが、これ以上追求しても無駄だ。それより……、

「この目印の向こうにクイーンフォックスが……!」

「ああ、今戦っている所なのだろう。今すぐ行こう!」

 そう言って僕らは洞窟の更に奥まで進んでいった。


◉ ◉ ◉


 洞窟の壁に出来た傷を頼りに僕達は奥へと進んでいく。あれからレイジフォックスの気配がぱたりと消えた。単に洞窟内から居なくなったというだけであれば良いのだが、恐らくクイーンフォックスの元へ合流したと見られる。このままではルーディさんの命が危うい。

「ここだ!」

 ようやく洞窟の最深部へたどり着いた。やはり一人、ルーディさんが戦っており、何匹かのレイジフォックスが合流していた。だが、予想よりも数は少ない。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 ルーディさんはレイジフォックスの包囲網を上手く躱しながら戦斧を盾にクイーンフォックスからの攻撃を受け止める。しかし防戦一方で押されていた。

「何故クイーンフォックスが動いて……!?まあいい、私達も行くぞ!」

 そう言って突撃するイヴァンカに僕と栞も続く。折れた剣でも盾くらいにはなってくれるだろう、そう思って僕はレイジフォックスに斬れない剣を向ける。

「お前達!?……フッ、助かったよ」

 そう言ってルーディさんは戦斧を降ろす。安堵の溜息と共に再び戦斧を持ち直した。

「お前達はワーカーを頼む!俺はクイーンフォックスと決着を付けるよ」

「はい!」

「了解です!」

「分かりました!」

 ルーディさんの言葉に各々返事をする。ルーディさんの後ろに立ち、レイジフォックスを待ち構える。この程度の数、何度も相手にしてきた。今更恐れる必要など無い。

「来やがれ!!」

 僕の叫び声と共にレイジフォックスが襲いかかる。折れた剣でそれを受け止め、つばぜり合いとなった。

「栞!!」

「アイスニードル!」

 間髪入れずに栞のカバーが入る。命中し、怯んだレイジフォックスの脳天を剣で叩きつけ、頭蓋骨を砕いた。

「イヴァンカ!」

「丁度私も終わったよ!」

 見るとイヴァンカはレイジフォックスの死骸にレイピアを立てていた。

「……これで全部片付いたな」

「ああ、残るは……!」

 僕達はクイーンフォックスを睨む。4対1となったクイーンフォックスは恐怖からか後ずさりしていた。だけど、もう逃がしはしない!

「うおおおおおおおおおおおお!!」

 先に動いたのはルーディさんだった。その戦斧は見事にクイーンフォックスの首を切断し、絶命に追いやる。

「はぁ、はぁ……手こずらせやがって!」

 そう言い捨ててクイーンフォックスの首を拾う。初めて会った時とはまるで違うただれた表情だ。本当に子孫の繁殖で体力を使い果たしていたのだろう。

「さて、このまま新女王の幼体も潰してとっとと帰ろう」

「「はい!」」

 ルーディさんの言葉を皮切りに僕らは更に奥へと進んでいった。


◉ ◉ ◉


 その後、無事に新女王となりうる幼体も潰し、レイジフォックスの繁殖能力を奪った僕達はチェルニー山脈を後にする。外は既に日の入り、あまり眩しくないはずだが、いままで洞窟内の暗所に居たことからどうしても目を細めてしまう。

「ふぅ……終わったんだな」

「まだ気を抜くなよ?レイジフォックスの残党にアルミラージまで居るんだ。帰るまでがクエストだ!」

「それを言うなら『クエスト終了を報告するまで』だろう?……まあ、分かっているさ」

「むぅ、揚げ足を取られた……」

 イヴァンカとそんな会話をしながら平原を歩く。

「ああ、そう言えばルーディ商人」

「ん、どうした?」

 イヴァンカがルーディさんにそう尋ねる。

「あの時クイーンフォックスは何故動けていたのでしょうか?聞いた話だと繁殖期のクイーンフォックスは身動きも取れない程疲弊するとか……」

 と、イヴァンカは尋ねた。

「ああ、それのことか……」

 それを聞いたルーディさんは少しばつが悪そうにこう答えた。

「クイーンフォックスなんだが……俺が最深部に到達して奴と相対した時は確かに身動きも取れていなかった。だが……」

 そう言ってルーディさんは一拍置いた。

「アイツ、自分が産んだ子供を食らっちまったんだ」

「え、自分の子供を……?」

「ああ、大切に育てていた子供なんだろうが、俺が来て身の危険を感じたその時、一瞬の躊躇の後に自分の子供を喰いやがった。自分自身の命の責任って奴なんだろうよ?今まで2度だったか……クイーンフォックスの討伐を行ってきたが、こんな事は初めてだったよ」

 複雑な表情でルーディさんは答えた。

「なるほど……厳しい世界だ」

 僕はそう呟いた。まあ、だからといって僕らが躊躇う理由にはならない。どのみちクイーンフォックスは死ぬ運命だったのだろう。

「何はともあれこれで解決だ。村へ帰ろう!」

「そうですね」

 ルーディさんは仕切り直す様にそう言った。


続く……


TOPIC!!

【作中未登場魔法】ルビー・シェル


赤く光る弾丸を前方に飛ばす魔法。弾丸は着弾と同時に爆発を引き起こす。


同じ炎魔法である『ファイア・シェル』との違いは外殻の有無にあり、

ファイア・シェルは炎魔法を直接飛ばす為、外殻は存在しないが、

ルビー・シェルに関しては炎魔法エネルギーの外側に土壌から得られた金属成分で外殻を形成する。


外殻を形成する利点は『飛距離による威力減衰』を抑える事にある。

ファイア・シェルは外殻が存在せず、常に空気と触れて燃焼を起こしている為、

飛距離と共にエネルギーが減少する傾向にあり、スペック通りの威力を発揮することは難しいが、

ルビー・シェルは外殻によって空気が遮断されている為、

時間経過による威力減衰は理論上発生せず、外殻が破壊される着弾時までエネルギーを保つことが出来る。


また、ルビー・シェルの外殻は着弾時に多数の破片となり、

爆風によって無数の破片を飛ばし、爆発の威力を高める役割も持っている。


この事からルビー・シェルは安定した火力を発揮しやすいが、

発動には炎魔法エネルギーに加え、外殻形成のための土魔法エネルギーを必要とする為、

安定して使用するには異なるエネルギー源(妖精)が必要となる。

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