part.11-20 チェルニーの激闘
「篝火を付けろ、囮役として突入する。行くぞ!!」
その言葉を皮切りに僕達は暗闇の中へ進んでいった。先程まで隠密に動いていた僕らとは対照的に篝火を焚いて我が物顔で突入する。洞窟内の地形を理解する間もなくイヴァンカの後ろを付いていき、横たわっているレイジフォックスを蹴散らしていった。
「やああああああああ!!」
イヴァンカのかけ声と共にレイピアが振り下ろされ、次々と血しぶきが上がっていった。
「ウォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
直ぐに異変に気付いたレイジフォックスは遠吠えを上げ、仲間を呼び出した。洞窟内に遠吠えが反響し、痛みを感じる程の爆音に思わず耳を塞いでしまう。
「ここからが本番だ!翔太は栞の後ろに付いてくれ!栞は翔太の援護をしていれば良い」
「分かった!」
「うん!」
言われるまでも無く僕は栞の後ろをカバーしている。その瞬間、隊列の後方からレイジフォックスが大胆にも飛びついてきた。鋭い爪で引き裂こうとするレイジフォックスに僕は真正面から構える。剣のリーチに入ったその瞬間、縦一文字に剣を振る。剣はレイジフォックスの顔面に直撃するものの骨を断ち切るには至らない。
「ギャウン!!」
しかし、怯んだ隙にレイジフォックスの側面へ回り込み、腹部へ一撃を入れ、ようやく絶命に追い込んだ。無論、相手はレイジフォックス、この程度で終わりはしない。
「兄さん、右!!」
「くっ……!」
栞に促されて後ろへ下がる。丁度レイジフォックスが突撃し、右の頬を掠めた。傷口から流れる血を粗く拭き取って正面を向く。
「ゥゥゥゥゥ……ギャア!!」
体勢を立て直したレイジフォックスは真正面から突撃してきた。レイジフォックスの牙を剣で受け止め、つばぜり合いの様な形になる。
「ぐっ……!」
「……アイスニードル!」
つばぜり合いの途中、栞が魔法攻撃で横やりを入れた。勢いよく飛び出した氷の針がレイジフォックスに突き刺さる。
「兄さん、今!!」
「うおおおおおお!!」
その瞬間、素早く回り込んでとどめを刺した。
「二人とも無事か?」
「ああ、なんとかな!」
イヴァンカの問いかけに僕はそう答えた。
「良かったよ、だがまだ序の口だ。そろそろ眠っていたレイジフォックス達がこぞって起き上がってくる頃合いだ。だが冷静であることを忘れるな、絶対に単独行動を起こすんじゃないぞ!」
「分かってる!うおおおおおおおおおおおおお!!」
イヴァンカの言葉に答えながら目の前から現れたレイジフォックスに斬りかかった。上手く肉を斬る事が出来ない。剣が鈍いのか僕の腕がなってないのか……。
「この野郎!」
斬りかかったレイジフォックスに対し、横腹に蹴りを入れ、間合いを取らせる。
「ギャウン!!」
「そこだ!!」
斬れないのなら突き刺せば良い。レイジフォックスの爪をすり抜けて剣の切っ先を喉元に突き刺した。
「ギャアアアアアア!!」
飛びついてきたレイジフォックスは勢いを無くし、地面に倒れ込んだ。それでも絶命に至れず、喉の中にある固い背骨に剣を当てる。
「ヒュー、ヒュー……」
呼吸器系に穴が開いているのか、レイジフォックスの息が漏れ出している。そのまま勢いよく剣を奥に差し込み、遂に背骨を断ち切った。
「はぁ、はぁ……」
「兄さん、大丈夫?」
「ああ、問題ない!」
荒く呼吸を整えて栞にそう答えた。前を見据えると、今度は複数のレイジフォックスたちが身構えていた。
「お出ましだ!ここで全て倒せ、商人の元へ行かせるな!」
「ああ!」
「うん!」
イヴァンカの言葉に僕達も続く。
◉ ◉ ◉
夜は長い。そう、僕らが思っていたものよりも遙かに。
「はぁ、はぁ……ぐっ、このおおおおお!!」
僕達は普段、夜は眠っている。意識が無いのだ。であるからこそ、その長さに気付けないでいる。次々と襲いかかるレイジフォックスの群れ、終わりの見えないその群衆にただひたすら剣を振る。
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
疲弊する感覚も麻痺し、剣を握る手は落としたんじゃ無いかと思えるほど重さが無い。この感覚、ルーディさんと初めて一騎打ちをした時と似ている。まったく、よく出来た訓練だ。
「うわあああああああああああああ!!」
剣は最早『斬る』では無く『叩く』になっている。それ程刃こぼれを起こしており、その刃は使い物にならない。また一匹、襲い来るレイジフォックスの頭蓋骨を叩き割った。
「はああああああああ!!」
イヴァンカはというと、レイジフォックス達の間を華麗に通り抜けて群れを撹乱し、正確に一匹ずつ誘い込んでは確実に倒している。
「……アイスニードル!」
栞は僕の後ろを付いて確実にレイジフォックスと距離を取りながら氷の弾幕で遠距離からレイジフォックスを威圧、けん制して奴らの隙を作る。その瞬間を逃さずに僕がとどめ、……ここまで最適化された役割分担でようやく現状維持。覚悟はしていたが想像以上だ。
「はぁ、はぁ……」
「休むな、まだ終わってないぞ!」
イヴァンカに促され、剣を杖にしながらも立ち上がる。彼女の言う通り、まだ終わってなんかいない。
「はあああああああああ!!」
杖にしていた剣で地面を蹴り、その反動で突撃する。リーチに入った敵を叩き伏せる。何度もやった事だ。今更こんな所で……!
「うおおおおおおおおお!!」
レイジフォックスの脚を折り、脳天を叩き、背骨を砕く。最早生物を殺す感覚すら存在しなかった。
「翔太、後ろだ!」
「くっ、しまった!」
「ファイア・シェル!」
その瞬間、栞が火球を放ち、後ろに回り込んだレイジフォックスに命中、火球はレイジフォックスを巻き込んで爆散した。
「栞!?」
「えへへ、虎の子のファイア・シェル、使っちゃった……でも今日はチャイも居るから!」
言って栞の肩から白い毛並みの狐によく似た妖精、チャイがひょっこりと顔を出した。
「兄さん、無理しないで?今兄さんは一人じゃ無い。私も姉さんも付いてるから……!」
「そ……」
『それをお前が言うのかよ』という言葉は直前で飲み込む。でも、お陰で深呼吸できた。そうだ、身体は暖めても脳まで暖めるのはただの愚か者だ。
「はぁぁぁ……そうだな!」
言って剣を構え直す。今僕が装備しているのは片手剣だが、僕が片手で握るには少し重量過多だ。
「……行くぞ!!」
言って、僕とイヴァンカはレイジフォックス達の前線へ突撃した。
◉ ◉ ◉
あれから更に時が経ち、洞窟内を転々としながらもレイジフォックスに追い回される状況は終わるどころかその数が増えていくまである。
「一体何匹のレイジフォックスが居るんだ!」
逃げながらも僕はそう叫ぶ。
「きついのは向こうも同じはずだ!とにかく商人が戻ってくるまで耐えるしかない!」
イヴァンカにそう言われ、必死に足を運ぶ。
「こっちだ!」
イヴァンカに促されて洞窟の分かれ道を左に曲がる。しかし……、
「待ち伏せ!?」
ここは奴らの巣だ、地の利はレイジフォックスにあるのも当然と言えば当然。目の前は行き止まりと臨戦態勢のレイジフォックスが数匹、後ろは言うまでも無い。
「……っ、翔太、前の数匹を任せる」
「分かった」
言われて僕は栞と共に前に出る。レイジフォックスが突進するのと同時に剣を構え、攻撃を正面から受ける体勢を取った。3匹同時にレイジフォックスが襲いかかる。
「くっ……!」
まず一匹を躱す。それからもう一匹の脚の骨を剣で砕き、3匹目で剣と牙のつばぜり合い。一瞬の後に剣を左に寄せて攻撃を受け流す。
「そこだ!!」
「兄さん!」
その3匹目の横腹に剣を突き刺そうとした瞬間、僕は既に一匹目のレイジフォックスが体勢を立て直し、襲いかかってきている事に気付かなかった。
「しまった!」
「間に合わない!」
上から飛びついてくるレイジフォックス、剣を振るにも手遅れで、避けようにも近すぎる。最早ここまでだと思った。その瞬間、
「うわああああああああ!!」
恐怖で一気に飛び起きる。何が起きたんだ!?
「……ここは、僕の部屋?」
辺りを見渡すと確かに現実世界の僕の家、そしてここは僕の部屋だ。朝の気だるさを差し置いても何が起きたのか本当に分からない。というか、そもそも朝の気だるさ自体が存在していない。
「……夢、だったのか……?」
荒い呼吸を整えて半身を起こす。
続く……
TIPS!
佐伯栞③:魔法は自分のアイデンティティーだと思い込んでいる。




