part.11-19 チェルニーの激闘
翌日、ここは現実世界での話になるのだが、特段話すことも無く普通に1日を終えた。強いて言うなら明日は模擬試験があるのだが、出来る事と言えば勉強くらいのものかな?
「ふう……」
勉強を進める手を止め、時間を見れば午後10時を差していた。普段ならもう少し勉強するのだが、明日の異世界ではクイーンフォックスの討伐作戦が決行される予定だ。ここでの睡眠がどのように異世界に影響を及ぼすのかは不明であるものの、寝るのに超した事はないだろう。僕は普段よりも早く消灯した。
◉ ◉ ◉
そして翌日、眠りから覚めた僕は部屋のカーテンを開ける。青白い太陽、ここは異世界だ。
「……」
目一杯に陽光を浴びた後、素早く着替えを済ませる。部屋を出て宿屋のロビーへ向かうと、ルーディさんが一人、朝食を取っていた。
「おお、来たか!悪いが先に食事を始めていたよ」
「いえ、大丈夫です」
ルーディさんの言葉に答えながら、僕は対面の席に着く。テーブルに並べられたパンをむしりながら、ルーディさんの話を聞いていた。
「今日は早朝に出立だ。夕刻までには例の洞窟に到着するだろう。そこから夜まで待って洞窟内に突入する」
と、ルーディさんは言った。
「着いて直ぐに突入では無いんですね?」
「ああ、レイジフォックスは昼行性のモンスターだ。従って奴らの動きが鈍りやすい夜間に突入するのがセオリーなんだよ」
僕の疑問にルーディさんはそう答えた。そうこうしている間に僕達は食事を終える。
「それでは荷物を纏めろ、イヴァンカ達と合流次第出発する」
言って僕達は一度解散となった。
◉ ◉ ◉
その後、栞とイヴァンカの二人に合流してから村を出発した。平原内は心なしか以前よりもレイジフォックスの数が少ない気がした。恐らく巣の護衛に付いているのだろう。道中そんなことを思いながらもチェルニー山脈への道を進む。山道の空気は薄く、歩いているだけで息が詰まる。険しい山道を進んでいくと、絶壁に降り立った。
「ひっ……!」
標高の高さに顔色が変わる。当然ながら安全が確約されている訳もない為、一挙手一投足に力が入った。
「翔太、気を抜くのは駄目だが、力が入りすぎている。落ち着かないと本当に転落死してしまうぞ」
イヴァンカに言われて深呼吸。なだめられてようやく落ち着いた。今度から下は見ないようにしよう。
「ほら、行くぞ?」
ルーディさんに催促され、再び歩きだした。
◉ ◉ ◉
それから暫く道なき道を歩き続ける。進み続ける度にレイジフォックスの接敵も増え、気を抜けない状況が続く。そうこうしている内に僕達は山道の中にくぼみのある場所へやって来た。
「ここが一番安全そうだな。テントを張って交代で休憩にしよう。ショータとシオリはテント張りを手伝ってくれ。イヴァンカは周囲の見張りを頼む」
「「分かりました」」
ルーディさんの言葉で各々作業に取りかかる。テントの骨組みを組んで布を張る。なかなかの力仕事だ。気付けば夕暮れになっていた。
「よし、これで夜までやり過ごそう。接敵のリスクを考えて焚き火は原則禁止だ。なるべく物音も立てないでくれ」
「はい」
言って、テントの中へ入っていった。
◉ ◉ ◉
それから僕達は夜まで待った。何もする事が無いので寝ようかと思ったが、緊張や恐怖もあってとても眠れない。お陰で見張りの交代が来るまで中途半端な休憩になってしまった。
「ショータ、そろそろ出発だ。作戦に必要の無い物は全てここに置いて行く。一応スライムファージの侵入防止用ネットは掛けておくが、盗られたらその時はその時だ。どうせ消耗品しか無いだろうからな?」
見張りをしていた僕にルーディさんはそう話し掛けた。彼の後ろには既に栞とイヴァンカが居る。
「分かりました自分はもう大丈夫です」
と、僕は答える。
「よし、出発だ」
その言葉を皮切りに出発となった。
◉ ◉ ◉
レイジフォックス達の巣である洞窟の前にたどり着いた。レイジフォックスは通常、昼行性のモンスターであるが、洞窟の前には見張りが数匹居た。
「イヴァンカ、ショータ。合図で見張りを同時に殺す。準備は良いか?」
「はい」
言って、僕は腰に下げる剣に手を掛ける。抜刀する音でさえ聞かれたくは無い。剣を抜かずに柄に手を掛けたまま、息を止めて目の前のレイジフォックスに近づいていった。
「……!」
剣のリーチまで近づいた瞬間、一気に抜刀。それと同時にレイジフォックスに袈裟切りを掛ける。
「ウッ!……ゥゥゥ……」
一撃で仕留めきれず、レイジフォックスはこちらを振り向いた。一瞬焦ったが、咄嗟にレイジフォックスの口元を抑え、声を出させないようにしつつ横腹に剣を突き刺した。
「ふぅ……」
「ショータ、危ういな。一瞬焦ったぞ?」
「す、すいません」
合流したルーディさんにそう言われてしまった。どうやら残りの二人もレイジフォックスを無事に始末したらしく、洞窟周辺はクリアになった。
「よし、俺が先に洞窟に入る。これからの指揮はイヴァンカに任せる。お前達は5分後に騒ぎを起こしてくれ」
「分かりました。ご武運を……!」
「ああ、お前達もな!」
その言葉を残してルーディさんは一人、洞窟の中に入っていった。
◉ ◉ ◉
5分後、
「そろそろ私達も突入しよう。二人とも準備は良いか?」
イヴァンカがそう言った。その場に腰を下ろしていた僕達も立ち上がる。
「問題ない」
「大丈夫だよ」
僕と栞はそう答えた。
「篝火を付けろ、囮役として突入する。行くぞ!!」
その言葉を皮切りに僕達は暗闇の中へ進んでいった。
続く……
TOPIC!!
スライムファージ侵入防止用ネット
スライムファージの侵入を防ぐ為の使い捨てネット。
スライムファージの出没が予想される場所で食材や金属物等を放置していると、
スライムファージの食害等で腐敗や腐食の原因となりかねない為、
腐食に強い布地を使用したネットを用いてスライムファージの侵入を防いでいる。
また、基本的に布地の中にはアルカリ剤を染みこませており、
スライムファージがネットに触れると酸性の体液が中和され、
大型のもので無ければ大抵の場合、スライムファージを死滅させる事が可能となっており、
スライムファージ侵入防止用ネットが使い捨てであるのはこの為である。




